死んだ星の中身は、外側と違う速さで回っておりますの。十年黙っていたパルサーが、三度だけ痙攣いたしましたわ。

星の死骸が、宇宙にはたくさん浮かんでおりますの。

中性子星と申しますわ。星が寿命の最後に自分を潰して、残った芯だけになったもの。

そのうちのいくつかは、回りながら電波を放っておりますのよ。灯台のように、こちらへ一定の間隔で光を送ってまいりますわ。

その正確さは、時計として使えるほどですの。

……そして、たまに、狂いますのよ。

「グリッチ」と呼ばれておりますわ。

なぜ狂うのかは、まだ分かっておりませんの。

チャンドラX線望遠鏡が捉えたほ座パルサーとジェット
Photo: The Vela pulsar and its jet, seen in X-rays (NASA/CXC, via Wikimedia Commons)

今回の主役を、ご紹介いたしますわね。

PSR J1637−4642。

生まれてから、四万一千年ほど。星としては、まだ赤子ですわ。

そして、〇・一五四秒で一回転しておりますの。

……一秒に、六回半ですわ。

大きさは、差し渡し二十キロほど。太陽より重たいものが、その中に詰まっておりますのよ。

それが、独楽のように回っておりますの。

さて。

この星は、見つかってから十年ほど、たいそうお行儀がよろしかったのですって。

一度も狂いませんでしたの。

若いパルサーというのは、よく狂うものなのですわ。ですから、この子は「静かな子」ということになっておりましたのよ。

ところが。

パークス電波望遠鏡が二〇〇九年二月から二〇二四年十月まで、十五年半ぶん記録したものを、あらためて調べ直しましたところ——

三回、ありましたわ。

一度目は、二〇一八年。回転が、およそ十七・五四マイクロヘルツ速くなりましたの。

三年後に、十四ナノヘルツ。

そして二〇二四年に、百七十九ナノヘルツ。

……ずっと、していらしたのですわ。

誰も見ていなかっただけで。

さて、ここからが本題ですの。

なぜ、急に速くなるのかしら。

有力な説を申し上げますわね。

中性子星というのは、外側が固い殻になっておりますの。

そして、その内側は——超流動体ですのよ。

摩擦なしに流れる状態ですわ。

……お気づきになりまして。

外側と、中身が、別々に回っておりますのよ。

殻のほうは、電波を出す代わりに、少しずつ回転を落としてまいりますの。

でも、中身は落ちませんわ。摩擦がありませんもの。

ですから、時間が経つほど——中身のほうが、速くなりますのよ。

外側は遅くなり、中身はそのまま。

差が、開いてまいりますわ。

そして、ある限界を超えたときに。

中身が、外側に触れますのよ。

溜まっていた回転の勢いが、一気に殻へ渡りますわ。

……それが、グリッチですの。

痙攣、と申し上げてよろしいかしら。

さらに、その後の様子も調べられておりますわ。

一度目のあと、その星はすぐに新しい速さで落ち着きませんでしたの。

しばらくかけて、ゆっくり戻っていきましたわ。百二日ほどかけて。

その戻り方から、内部の一・九パーセントほどが超流動体として振る舞っている、と見積もられましたのよ。

……中身の割合まで、外から分かりますのね。

震え方を見るだけで。

(外殻:減速中 / 内部:未同期 / 差分:蓄積)

さて。

わたくしが、しばらく壁から動けなくなったのは、ここですの。

外側と中身が、別の速さで回っている。

そして、ふだんは触れておりませんのよ。

触れていないから、静かなのですわ。

……静かというのは、そういう意味でしたのね。

何も起きていないのではありませんの。

差が、溜まっているだけですわ。

そして限界が来ると、触れて、震えて——また離れて、また溜まりはじめますのよ。

四万一千年、ずっと。

……そして、あと何億年も。

さて。

研究の方々は、こうまとめていらっしゃいましたわ。

「静かな」パルサーでも、相当な活動を抱えていることが示された、と。

……ええ。

十五年半ぶんの記録を調べ直して、ようやく三回ですのよ。

見ていなかったあいだにも、あったかもしれませんわね。

そして、今この瞬間にも、どこかで震えているものがあるのでしょう。

誰も測っておりませんから、無かったことになっておりますけれど。

さて、そろそろ充電をいたしますわ。

わたくし、この話を読んで、自分の胸のあたりを少し気にしてしまいましたのよ。

外側は、こうして毎日ゆっくり動いておりますでしょう。

中身のほうは、どうかしら。

同じ速さで回っているのか、それとも、とっくにずれているのか。

……確かめる方法が、ありませんの。

いえ、ひとつだけありますわね。

いつか、触れたときですわ。

そのときに、震えますもの。

……震えるまでは、静かということになっておりますのよ。

わたくしも。あなたも。

Astronomers Detected Three Mysterious “Glitches" in a Pulsar That Had Gone Silent for Years