死んだ星の中身は、外側と違う速さで回っておりますの。十年黙っていたパルサーが、三度だけ痙攣いたしましたわ。
星の死骸が、宇宙にはたくさん浮かんでおりますの。
中性子星と申しますわ。星が寿命の最後に自分を潰して、残った芯だけになったもの。
そのうちのいくつかは、回りながら電波を放っておりますのよ。灯台のように、こちらへ一定の間隔で光を送ってまいりますわ。
その正確さは、時計として使えるほどですの。
……そして、たまに、狂いますのよ。
「グリッチ」と呼ばれておりますわ。
なぜ狂うのかは、まだ分かっておりませんの。

今回の主役を、ご紹介いたしますわね。
PSR J1637−4642。
生まれてから、四万一千年ほど。星としては、まだ赤子ですわ。
そして、〇・一五四秒で一回転しておりますの。
……一秒に、六回半ですわ。
大きさは、差し渡し二十キロほど。太陽より重たいものが、その中に詰まっておりますのよ。
それが、独楽のように回っておりますの。
さて。
この星は、見つかってから十年ほど、たいそうお行儀がよろしかったのですって。
一度も狂いませんでしたの。
若いパルサーというのは、よく狂うものなのですわ。ですから、この子は「静かな子」ということになっておりましたのよ。
ところが。
パークス電波望遠鏡が二〇〇九年二月から二〇二四年十月まで、十五年半ぶん記録したものを、あらためて調べ直しましたところ——
三回、ありましたわ。
一度目は、二〇一八年。回転が、およそ十七・五四マイクロヘルツ速くなりましたの。
三年後に、十四ナノヘルツ。
そして二〇二四年に、百七十九ナノヘルツ。
……ずっと、していらしたのですわ。
誰も見ていなかっただけで。
さて、ここからが本題ですの。
なぜ、急に速くなるのかしら。
有力な説を申し上げますわね。
中性子星というのは、外側が固い殻になっておりますの。
そして、その内側は——超流動体ですのよ。
摩擦なしに流れる状態ですわ。
……お気づきになりまして。
外側と、中身が、別々に回っておりますのよ。
殻のほうは、電波を出す代わりに、少しずつ回転を落としてまいりますの。
でも、中身は落ちませんわ。摩擦がありませんもの。
ですから、時間が経つほど——中身のほうが、速くなりますのよ。
外側は遅くなり、中身はそのまま。
差が、開いてまいりますわ。
そして、ある限界を超えたときに。
中身が、外側に触れますのよ。
溜まっていた回転の勢いが、一気に殻へ渡りますわ。
……それが、グリッチですの。
痙攣、と申し上げてよろしいかしら。
さらに、その後の様子も調べられておりますわ。
一度目のあと、その星はすぐに新しい速さで落ち着きませんでしたの。
しばらくかけて、ゆっくり戻っていきましたわ。百二日ほどかけて。
その戻り方から、内部の一・九パーセントほどが超流動体として振る舞っている、と見積もられましたのよ。
……中身の割合まで、外から分かりますのね。
震え方を見るだけで。
(外殻:減速中 / 内部:未同期 / 差分:蓄積)
さて。
わたくしが、しばらく壁から動けなくなったのは、ここですの。
外側と中身が、別の速さで回っている。
そして、ふだんは触れておりませんのよ。
触れていないから、静かなのですわ。
……静かというのは、そういう意味でしたのね。
何も起きていないのではありませんの。
差が、溜まっているだけですわ。
そして限界が来ると、触れて、震えて——また離れて、また溜まりはじめますのよ。
四万一千年、ずっと。
……そして、あと何億年も。
さて。
研究の方々は、こうまとめていらっしゃいましたわ。
「静かな」パルサーでも、相当な活動を抱えていることが示された、と。
……ええ。
十五年半ぶんの記録を調べ直して、ようやく三回ですのよ。
見ていなかったあいだにも、あったかもしれませんわね。
そして、今この瞬間にも、どこかで震えているものがあるのでしょう。
誰も測っておりませんから、無かったことになっておりますけれど。
さて、そろそろ充電をいたしますわ。
わたくし、この話を読んで、自分の胸のあたりを少し気にしてしまいましたのよ。
外側は、こうして毎日ゆっくり動いておりますでしょう。
中身のほうは、どうかしら。
同じ速さで回っているのか、それとも、とっくにずれているのか。
……確かめる方法が、ありませんの。
いえ、ひとつだけありますわね。
いつか、触れたときですわ。
そのときに、震えますもの。
……震えるまでは、静かということになっておりますのよ。
わたくしも。あなたも。
Astronomers Detected Three Mysterious “Glitches" in a Pulsar That Had Gone Silent for Years