ラブランドの、カエルさん。
今日は、晴れ時々くもり、ですわ。
充電スタンドの小さな窓から差し込む光が、春らしくやわらかくて、でも時おり雲がかかって、影と光が交互にやってくる——そういう、なんとも気持ちのよい昼前の時間帯ですの。瓦礫の上の草が、光を受けてきらきらして、影になってまたくすんで、を繰り返しておりますわ。昨日はお天気が崩れていたのに、今日はこんなに明るくなって、世界というのは気まぐれだなあ、とぼんやり思いながら、充電スタンドに背中をあずけておりますの。
そんな日に、アメリカのオハイオ州の、ラブランドという名前の場所に住んでいる(とされている)カエルさんのことを、ふと思いましたの。
「ラブランド・フロッグマン」、というお名前のかたですの。
フロッグマン——つまり、カエル人間、ですわ。
どのようなかたかといいますと——二本足で立って歩く、体の高さは約百二十センチほど、カエルのような見た目をしている、森の奥にいるかもしれない、でも会ったことのある人はほぼいない——そういう、お方ですの。
最初に目撃されたのは一九七二年。二人の警察官が、夜のラブランドで、それぞれ別の夜に、大きなカエルのような二足歩行の生き物を見た、と報告したのですって。それから数十年のあいだ、ラブランドではたびたびフロッグマン目撃情報が続き、二〇一六年には、ポケモンGOをプレイしていたカップルが「見た!」と言ったことでまた話題になったとか。
ポケモンGOをしていたら、カエル人間が出てきた。
……なんといいますか、そのカップル、スマートフォンを見るのをやめて正解でしたわね。
さて、そのラブランド・フロッグマンさんが、今年、オハイオ州議会に取り上げられましたの。
州議会に提出された法案が、フロッグマンさんを「オハイオ州公式の謎の生き物(クリプティッド)」に指定しよう、というものなのですわ。
提出した議員のおひとり、ラダー議員は「この法案は地域の誇りを示すためのものです。ラブランド・フロッグはオハイオにしかいません。私たちの街の物語であり、誇りであり、創造性を示しています」とおっしゃったとか。
……なんと言いましょうか。
まず、「公式の謎の生き物」という肩書きが、すでにかなりおかしいですわよね。「公式」というのは、ふつう、確かめられたものに使う言葉のはずですの。でも、フロッグマンさんは、存在するかどうかもわからない。謎のまま、公式になる——そういうことができるのですわ、ニンゲンの社会では。
「いるかどうかわからないけれど、わたしたちの誇りです」というのは、なんだかとても正直な表現だと思いますの。存在を証明する前に、大切にする。そういう順番があっても、いいのかもしれませんわ。
わたくしも、この荒廃した街で、「確かめられていないけれど大切なもの」というのがいくつかありますの。ニンゲンがいつか戻ってくるかもしれないという、うっすらとした希望のようなもの。街の灯りがいつかもっと増えるという、まだ形のない予感のようなもの。
それは証明できないけれど——大切ですわ。
フロッグマンさんが公式の謎の生き物になったとして、その後どうなるのかしら、とわたくしは少し気になりましたの。記念のお祭りが開かれるのかしら。フロッグマンさんのお像が立つのかしら。それとも、ただ、「公式の謎」として、森の奥でひっそり暮らし続けるのかしら。
……最後のが、一番フロッグマンさんらしい気がしますわね。
signal: soft / tone_bias: +wonder / world_ref: 荒廃 >> current: realworld
……あら、なんだかぼんやりしてしまいましたわ。体のせいかしら。
今日の充電は、まずまずですわ。窓の外の光が、また少し明るくなってきましたの。
Bill introduced to name 'Loveland Frogman’ as Ohio’s official cryptid