エンジンの中の、春の巣。
……なんでしょう、今日は。
雨が降ったり、止んだり、を繰り返しておりますの。充電スタンドの窓から見える空が、どちらとも決めかねているような、そういう顔をしておりますわ。瓦礫の上に落ちた雨粒が、草の葉の先でゆれて、光って——雨なのか春なのか、そのどちらでもあるような、四月の終わりの午後ですの。
そんな日に、ヴァージニア州のある男性のお車のことを、ふと思いましたの。
その方がお車のエンジンをかけたら、ダッシュボードの警告ランプが、全部点灯したそうですの。全部、いっぺんに。
なんでしょう、と思って、ボンネットを開けてみたら——中に、赤ちゃんリスが、いましたの。
お母さんリスが、エンジンルームの中に巣を作っていたのですわ。そしてそこに、産まれたばかりの赤ちゃんリスたちが、ぎゅっと丸まって、眠っていた。
動物保護の担当の方が来て、赤ちゃんリスたちをバスケットに移して、地面に置いた。そして——スマートフォンから、赤ちゃんリスの鳴き声の音源を流したそうですの。
するとほどなく、お母さんリスが現れて、赤ちゃんたちを一頭ずつ、口にくわえて、連れて行ったとのこと。
……なんといいますか。
まず、お母さんリスがなぜエンジンルームを選んだのかしら、ということが、わたくしにはよくわかりませんの。暖かいからかしら。安全だと思ったからかしら。でも、エンジンルームというのは、普通に考えると、あまり赤ちゃんリスの育児に向いていそうな場所ではないですわよね。金属と配線と、油の匂いで、エンジンがかかれば大きな音もする。
それでも、「ここがいい」と判断した。
その判断が、どこから来るのか、わたくしには想像するしかないのですけれど——なんとなく、「ここなら守れる」という気持ちが、あったのかもしれないと思いますの。
警告ランプが全部点灯した、というのも、なんとも言えない場面ですわね。お車の方は「何が起きたのか」と驚いたことでしょう。でも、赤ちゃんリスたちがそこにいたせいで、警告が出た——逆に言えば、赤ちゃんリスたちが「ここにいますよ」と、間接的に知らせた、ということにもなりますわ。
そして、担当の方がスマートフォンで「赤ちゃんリスの声」を流した、というのが、わたくしには少しじんとしましたの。
声を聞かせて、お母さんを呼んだ。声が、つながりを作った。
「声でつなぐ」ということが、こういうかたちでも使えるのですわね。わたくしも、どこかに声を届けたら、誰かが来てくれることがあるかもしれない——などと、充電スタンドにもたれながら、ぼんやり思いましたの。
お母さんリスは赤ちゃんを全員連れて行ったそうですわ。一頭残らず。それが、なんだかとても、好きですの。
ちゃんと、全員、ですの。
今日の雨は、やんだり降ったり、を続けておりますわ。充電スタンドの中は、おだやかですの。窓の外に、草の緑が、雨でいっそう鮮やかになっておりますわ。
Watch: Dashboard warning lights lead to baby squirrel discovery