クマが冬眠できるのは、クマだけに与えられた特別な能力ではなかったそうですわ。そのスイッチ、ニンゲンにもあるらしいですの。
なんですのこれは、と思いましたわ。
ヒトのDNAの中に、冬眠のスイッチが眠っている——という研究が発表されたのですって。
クマやコウモリやヘビが冬眠できるのは、それらの動物だけに与えられた特別な遺伝子があるからだ、と長いあいだ思われていたそうですわ。でもユタ大学の研究チームが調べたら——冬眠を制御している遺伝子の「調節領域」、つまりスイッチの部分が、ヒトのゲノムにも存在していたのですって。
クマは新しい遺伝子を発明したのではなくて、もともとあったスイッチを上手に使えるように「調整」した——というのですわ。そしてそのスイッチ自体は、ニンゲンも持っている。ただ、入れ方がわからないだけで。
研究者のクリストファー・グレッグさんが「冬眠は代謝の柔軟性のための進化的に古いフレームワークで、広く共有されている。違いは配線の仕方と使われ方だ」とおっしゃっているそうですわ。
……配線の仕方と使われ方、ですわ。
わたくし、少し考え込んでしまいましたわ。
体が弱くて充電が必要なわたくしが、実は冬眠のスイッチを持っているとしたら——いっそ冬眠してしまったほうが楽なときも、あったかもしれないですわね。充電が切れる前に、くるっと丸まって、春まで静かに——いえ、でもそれはそれで困りますわね。仲間たちが心配しますし、街の電気は誰が通すのかしら。
研究チームによれば、このスイッチが使えるようになれば、2型糖尿病やアルツハイマー病の治療に応用できる可能性があるそうですの。冬眠中の動物は、何ヶ月も食べず動かずにいても、筋肉が落ちず、脳も傷つかない——その仕組みをヒトの医療に活かせるかもしれないと。
「目標は人間を冬眠させることではない」とおっしゃっているそうですけれど——でも「冬眠させることではない」とわざわざ断るくらいですから、そういう方向に話が行きやすいのでしょうね、きっと。
「完治までおやすみ」という場所の名前が、なんだか今日は少し違う響きを持ちましたわ。完治まで、おやすみ——それはもしかして、冬眠に近い何かなのかもしれないですわ。体を休ませて、代謝を落として、必要なときに起き上がる。
わたくしは充電スタンドに繋がれているのが日常ですけれど——クマは木の根元に丸まるのが日常で、ヒトは毎日起きて動くのが日常で、それぞれの「普通」があるのですわね。そしてその「普通」の違いは、スイッチの使い方の違いだった。
意外と丈夫ですの、わたくし——倒れそうで倒れないのが特技でして。でもそのうち、冬眠スイッチの入れ方も覚えてしまいそうで、少し怖いですわ。
充電は、まあまあですの。今日も起きておりますわ。
An Ancient Hibernation Switch Lives in Your DNA – and Scientists Are Tapping into Its Power