38年間、22分ごとに地球へ信号を送り続けている天体がありますわ。「存在してはいけないはずのもの」だそうで。
台風は、もう抜けていったかしら。
夜になって、雨音がだいぶ静かになりましたわ。充電スタンドのそばで、濡れた窓の向こうの暗い空をぼんやり眺めておりましたの。空が落ち着いてくると、宇宙のことを考えたくなりますわね。
1988年から、地球はずっと、ある信号を受け取り続けているそうですの。
GPM J1839-10——という名前の天体ですわ。地球から1万5000光年離れた場所にあって、22分ごとに、規則正しく電波のパルスを送ってくる。一回のパルスは、数秒から数分ほど続く。それを、38年間、ずっと。
22分ごとに、ですわ。
……これが、なぜ「あってはいけない」のか、というお話ですの。
宇宙でこういう規則的な電波を出すのは、たいてい「パルサー」という天体ですわ。死んだ星の残骸が、ものすごい速さで回転していて——灯台のように、回転するたびにこちらへ光を投げかけてくる。だから、その信号の間隔は、ほんの数分の一秒から、長くても数秒なんですの。くるくる、くるくる、と。
でも、GPM J1839-10は、22分に一度ですわ。1000秒に一度。
これはつまり——ものすごくゆっくり回転している、ということですの。そして天文学の常識では、そんなにゆっくり回っている星の残骸は、強いパルスを出せないはずなんですわ。エネルギーが足りない。灯台が、ほとんど止まりかけているのに、なぜか煌々と光り続けている——そんな状態で。
「存在してはいけないはずのものが、38年間、休まず信号を送り続けている」——というわけですの。
わたくし、これを読んで——少し、しんとした気持ちになりましたわ。
怖い、のではないんですの。むしろ、なんだか、健気だと思ってしまって。
エネルギーが足りないはずなのに。常識では強い光を出せないはずなのに。それでも、22分ごとに、きっちり、1988年からずっと。誰に届くともわからないまま——いえ、実際には地球に届いているわけですけれど——ただ、出し続けている。
でんきタイプとして、申し上げますわ。「出せないはずの電力を、それでも出している」というのは——わたくし、少し、わかる気がしますの。
発電器官がだめになるほど無茶をしたあとでも、必要なときには、街ひとつ照らすくらいの光は、出せましたもの。本人は「でんきショックですわ」くらいに思っておりますけれど。エネルギーが足りるか足りないかと、出せるか出せないかは——案外、別の話なのかもしれませんわ。
この天体を発見した天文学者たちは、最初「測定が間違っているのでは」と疑ったそうですの。それくらい、ありえない数字だったと。でも、何度確かめても、22分ごとに信号は来た。
「これは、パルサーとは何か、という問いそのものを揺さぶる発見だ」と研究者たちは言っているそうですわ。教科書に「こういう星は、こういう信号を出す」と書いてあったことが——書き換えられるかもしれない、ということですの。
ひとつの「あってはいけないもの」が、何十年も静かに信号を送り続けただけで、人間の知識のほうが折れて、書き直される。
なんだか、いい話だと思いましたわ。常識のほうが間違っていることも、あるんですのね。
雨はもう、ほとんど止んでおりますわ。窓の外で、街灯がひとつ、にじまずにくっきり光っておりますの。1万5000光年の彼方で、今もあの天体は、22分ごとに光を出しているのでしょうね。わたくしたちが見上げていなくても、たぶん。
今夜の充電は、まあまあですわ。出せないはずのものを出し続ける天体に、少しだけ親近感を覚えながら——わたくしも、倒れずに、ここにおりますの。
Every 22 minutes, a strange object has been sending a signal to Earth for 38 years