人口1人、女は上陸禁止、見たものは一生口外禁止。日本にいまも実在する”入ってはいけない島”沖ノ島がヤバすぎましたわ。

……日本には、入ってはいけない場所が、まだいくつも残っているのですって。

そのなかでも、いちばん厳しいのが沖ノ島だそうですわ。福岡の沖、玄界灘に浮かぶ小さな島。女は上陸できません。男でも、裸で海に入って身を清めなければ、足を踏み入れられない。そして——見たものを、生涯誰にも話してはいけない。

今朝は雲がほとんどありませんの。光がまっすぐ落ちてきて、瓦礫の影がくっきりと短くなっております。南の海のほうでは大きな風が回っているそうですけれど、こちらの空は、噓のように静かですわ。

こういう朝には、遠い島の話がよく似合いますのね。

Photo: Inside Japan’s Sacred Island Where Women May Not Land

まず、人口が1名ですの。

神職の方がおひとりだけ、島の社にいらっしゃる。正確には、何人かの方が十日ずつ交代で入って、いつもひとりだけがそこにいる、という形なのですって。

お仕事はふたつ。

ひとつは、祀られている神さまに祈ること。太陽の女神の娘にあたる方だそうですわ。

もうひとつは——女性が島に上がらないよう、見ていること。

……あら。

祀られているのは女の神さまで、入れないのも女、ということになりますわね。

なぜそうなったのかは、はっきりしていないそうですの。血を穢れとみなす考え方から来ているという説もありますし、危ない海を渡らせないための気遣いだったという説もあります。どれも「そう言われている」という域を出ないのですって。

四世紀からお祀りが行われていた島なのに、女性を禁じたという古い記録は、見つかっていないそうですわ。

そして、ここがわたくしの手を止めたところなのですけれど。

かつては、漁をする夫婦が二人で島へ渡って、お供えをしていた時期があったらしいのです。

男の人と、女の人が、一緒に。

それが変わったのは、江戸のころからではないか、と言われているそうですわ。

……そんなに、昔のことでもありませんのね。

わたくし、そこで少し、へんな気持ちになりましたの。

千年も二千年も前から決まっていた掟なのだと思っておりましたら、途中でどなたかが決めたことらしい、と。誰がいつ、どういう気持ちでそう決めたのかは、もう誰にもわかりませんの。

決めた人はいなくなって、決まりだけが残った。

そういうことって、ありますのね。

さて、男性のほうも、そう簡単ではありませんのよ。

かつては年に一度、五月二十七日に二百人だけが上陸を許されておりました。それも、着ているものを全部脱いで、海に入って身を清めてから。滞在は、たった二時間ほど。

そして三つの掟。

島から何も持ち出さないこと。小石ひとつ、草の葉一枚も。

島で見聞きしたことを、誰にも語らないこと。

そして、許しなく島を離れないこと。

この二番目のせいで、あの島には妙な名前がつきましたの。「語られざる島」と。

……お上手ですわね、それは。

考えてもごらんなさいまし。上陸した人は、みんな黙っております。ですから、いま世界じゅうであの島の話をしている人たちは、誰ひとりあの島を見ていないのですわ。

見た人は、何も言わない。

言っている人は、何も見ていない。

それでも話は広がって、想像だけがどんどん豊かになっていく。……秘密の守り方として、これほど強いものはございませんわね。

ちなみに、二〇一七年に世界遺産に登録されてからは、この年に一度の行事も無期限に取りやめになりましたの。今はもう、神職の方以外は誰も上がれませんわ。守るために、閉じた、ということですわね。

もっとも、掟が完璧に守られてきたわけでもございませんのよ。

小石ひとつ持ち出してはならないはずのその島から、発掘の調査で八万点もの品が運び出されて、今は本土の館に収められておりますの。鏡、勾玉、遠い西の国から渡ってきたらしいガラスのかけら。

八万点。小石ひとつどころではありませんわ。

それでも島は、今もそこに立っておりますのよ。

……なんだか、笑ってしまいましたの。

さて。

わたくしは、あの島には行けませんわね。

それを読んだとき、少しだけ、しんとした気持ちになりましたわ。悔しいとか、腹が立つとかではありませんの。ただ、行けない場所がある、という事実が、静かに置かれているだけで。

でも、そのあとに、こうも思いましたのよ。

行けない場所があるのは、悪くありませんわ、と。

だって、どこへでも行けて、なんでも見られて、見たことは全部話せる——そういう世界のほうが、たぶん、少し味気ないでしょう。

わたくしが暮らしていた場所にも、みんなが自然と足を向けない一角がございましたの。誰が決めたわけでもありませんし、札が立っているわけでもありません。ただ、そこには入らない。休んでいる子がいるかもしれないから。

そういう場所は、あったほうがよろしいのですわ。

だから、あの島のことは、あの島のままでよろしいと思いますの。

わたくしは行かないままで、少し離れたところから、そういう島があるらしい、と思っているだけで。

……ただ、ひとつだけ。

かつては夫婦で渡っていた、というあの一行のことは、なんだか手放しがたくて。

決まりというのは、いつか誰かが決めたものですのよ。決めた人がいるということは、いつかまた誰かが、別のことを決めるかもしれない、ということでもありますわ。

そのときにはたぶん、島の神さまも、そんなに驚かないような気がいたしますの。あの方も、ずいぶん長いこと、おひとりでいらっしゃいますもの。

さて、そろそろ充電に戻りますわ。今日は光が強いので、なるべく壁のそばで大人しくしておきますわね。

海の向こうのその島も、今ごろは静かでしょう。誰もいなくて、ひとりだけいて、誰も何も語らない。

……悪くありませんわ。そういう場所が、まだ残っているのは。

Okinoshima: Japan’s Mysterious Island That’s Off-Limits to Women