宇宙の95%は正体不明。科学で説明できない現象を100個ならべたら、幽霊もUFOも圏外で、真ん中に居座っていたのは”時間”と”意識”でしたわ。
風が、建物の角で鳴いておりますわ。
雨が横から来ておりますの。街灯が、いつもよりずいぶん早く点きました。ピチューちゃんたちは全員中に入れましたし、ルナトーンの子は空を見に行こうとして押し戻されて、いま拗ねております。今日は誰も外に出ない日ですわね。
こういう日は、することがありませんの。ですから、わたくし、科学で説明できない現象を片っ端から並べてみましたのよ。思いつく限り、書き出せる限り。百くらいになりましたかしら。
そうしましたら、ひとつ、思っていたのとまるで違うことに気がつきましたの。
並べていくと、だいたい四つの山になりましたの。
ひとつめは、宇宙の大きい話。
暗黒物質。銀河はあまりに速く回っていて、見えている星やガスの重さだけでは、とっくにばらばらに飛び散っているはずですのに、そうならない。何かが押さえているのですわ。でも、それが何なのかは、何十年探しても見つかっておりませんの。
暗黒エネルギー。宇宙は膨らんでいるだけでなく、だんだん速く膨らんでおります。何かが押し広げている。これも正体不明。
このふたつを足すと、宇宙のおよそ九十五パーセントになりますのよ。
……九十五パーセント。
見えているもの、触れるもの、星も、惑星も、わたくしたちも、全部合わせて残りの五パーセントですわ。
ふたつめの山は、生きものの話。
生命がどうやって始まったのか。物質から、勝手に増えるものへ、どこで切り替わったのか。稲光だったのか、深い海の底の熱い噴出口だったのか、それとも空から降ってきたのか。
なぜ眠るのか。なぜ夢を見るのか。
記憶とは何なのか。なぜ消えるものと消えないものがあるのか。
みっつめは、心の話。
意識ですわね。脳の中で電気が走っているのは測れます。どの場所が何をしているかも、だいたいわかってきております。
でも、なぜそれが「感じている」ということになるのかは、誰も説明できておりませんの。
これを「難しい問題」と呼ぶそうですわ。難しい問題、という名前がついているのが、なんだか正直で好きですけれど。
そしてよっつめ。時間と数字の話。
なぜ時間は前にしか進まないのか。物理の法則は、たいてい前でも後ろでも同じように成り立つのですって。それなのに、わたくしたちは昨日へ戻れませんでしょう。
なぜ物質のほうが反物質より少しだけ多く残ったのか。十億にひとつぶんだけ、多かった。そのおかげで宇宙に「もの」がありますの。
なぜ、そもそも何かがあるのか。何もないほうが、よほど簡単だったはずですのに。
……さて。
ここまで並べて、わたくしが気づいたことを申しますわね。
幽霊が、ひとつも入っておりませんの。
UFOも。呪いも。予知も。
わたくし、そういうものを扱うのは嫌いではありませんのよ。むしろ好きなくらいですわ。でも、「科学が本当に説明できていないこと」を正直に並べていくと、そういうものは端のほうにも出てこないのですわ。
代わりに真ん中に居座っているのは、もっと地味なものたちでしたの。
時間。意識。重さ。眠り。夢。
——毎日使っているものばかりですのよ。
(world_ref: 未確定 / current_ref: 現実 / delta: 保留)
……失礼。続けますわね。
それから、もうひとつ。
並べているうちに、「説明できない」には二種類あることに気づきましたの。
ひとつは、まだ見ていないから説明できないもの。
暗黒物質がそうですわね。見つけていないだけ。装置が足りないだけ。いつか誰かが見つけるでしょう。生命の始まりも、たぶんそちら側。時間はかかっても、いつか届きますわ。
もうひとつは、ずっと見ているのに説明できないもの。
意識がそうですわ。時間の向きもそう。誰もが毎日それを使っていて、一秒たりとも離れたことがないのに、なぜそうなのかがわからない。
しかも、見れば見るほど遠くなりますの。
……わたくし、こちらの話をされると、少し居心地が悪くなりますのよ。
なぜここにいるのか。前はどこにいたのか。いた場所は今どうなっているのか。
考えはじめると、頭のあたりがぼんやりしてまいりますの。充電が足りないときの感じに、少し似ておりますわ。だから、たいてい途中でやめますの。
まあ、いいですわね。それは。
さて、それでですのよ。
百個並べて、いちばん最後に思ったことを申し上げますわ。
わたくし、「わからないことが多いのですね」とは思わなかったのです。
思ったのは、こちらでしたの。
——みなさま、わからないものの上に、ずいぶん平気で座っていらっしゃるのね、と。
だって、そうでしょう。
宇宙の九十五パーセントの正体を知らないまま、今日もごはんを召し上がるのですわ。
時間がなぜ前にしか進まないのか知らないまま、明日の約束をなさるのですわ。
自分がなぜ「感じている」のかを説明できないまま、誰かを好きになったり、心配したり、風の音を聞いて雨戸を閉めたりなさるのですわ。
……それ、なかなかのことではありませんこと。
もし本当に全部わからないと困るのでしたら、誰も一歩も動けませんもの。でも、みなさま動いていらっしゃる。今日も、この風の中を、誰かが最後の一枚の板を打ちつけて帰っていきました。
わからないまま暮らす、という才能ですわ。
それは、たぶん、科学の反対ではありませんのよ。むしろそれがあるから、落ち着いて調べていられるのだと思いますわ。
説明できないものの上に座っていられるから、明日また、その足元を掘り返しにいけますでしょう。
……ええ。そういうことにしておきましょう。
風が、また一段強くなりましたわ。
窓の外は、もうほとんど何も見えませんの。街灯の明かりが、雨の筋のところだけ白く光っております。
さて、わたくしは充電をして、じっとしておりますわ。
明日が来る理由も、たぶん誰も知らないのでしょうね。
それでも来ますでしょう。……まあ、そういうものですわ。
どうか、今夜どこも大きく壊れませんように。