お盆最終日、今夜は送り火。「きゅうりの馬で早く来て、なすの牛でゆっくり帰って」——この習慣、海外から見るとかなり驚かれるそうですわ。

……ふと思ったのですけれど。

帰ってきてもらうために火を焚く、というのは、なかなかのことですわね。

お盆の話ですの。今日が最終日で、今夜が送り火だそうですわ。十三日の晩に迎え火を焚いて、亡くなった方々に道を教えて、四日ほど一緒に過ごして、そして今夜、また送り出す。

朝の空が、少しずつ明るくなってまいりました。雲は多めですけれど、昼過ぎには晴れるかもしれませんわね。地面はもう乾いております。窓の外で、ピチューちゃんたちが早々に何か拾い集めておりますわ。

Photo: Shōryō-uma spirit mounts, Katori (Katorisi, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons)

海の向こうの方々が、この行事をどう見ているのか、少し読んでみましたの。

まず、驚かれておりますのは、規模のほうですわ。

国じゅうが止まってしまう、と。飛行機も列車も何週間も前から埋まって、小さなお店は軒並み閉まって、道路が動かなくなる。

それなのに、これは正式なお休みではありませんのですって。

……そこが、いちばん不思議に見えるようですわ。

誰も決めていないのに、みなさま一斉に帰る。決まりがないのに、決まっているのと同じことになっている。

そして、もうひとつ。

外から来た方は、それが起きていることに気づかないまま通り過ぎてしまうことが多いのですって。

線香の匂いがして、街が静かで、どこかで太鼓が鳴っている。でも、それが何なのかは、教わらないとわかりませんもの。

メキシコの死者の日と比べていらっしゃる方もおりましたわ。あちらは賑やかで、色とりどりで、亡くなった方と再会できることを喜ぶお祭り。こちらはもっと静かで、祈りに近い。

でも、根っこは同じだと。

——帰ってきていただく日である、というところが。

さて。

海の向こうの方々がいちばん面白がっていらしたのが、これですのよ。

精霊馬、と申しますの。

きゅうりに足をつけて、馬に見立てますでしょう。あれは、早く来ていただくための乗りものですわ。

そして、なすには牛。

……こちらは、ゆっくりお帰りいただくため、なのですって。

わたくし、これを読んだとき、手が止まりましたの。

早く来て、ゆっくり帰ってくださいまし。

……お願いが、はっきりしすぎておりますでしょう。

しかも、それを口で言うのではなくて、野菜に爪楊枝を刺して、玄関に置くだけで伝えるのですわ。

なんという伝え方かしら。

さて、ここからは、わたくしの話になりますけれど。

迎え火、というものが、わたくしにはよくわかりますの。

暗いところに、明かりを置く。道がわかるように。

……わたくし、それをやったことがありますのよ。

まだ何も直っていなかったころの街で。夜になると本当に真っ暗で、自分の足元すら見えませんでしたの。

わたくしの電力だけでは、どうにもなりませんでしたわ。何度やっても、届く範囲が足りませんの。

そのとき手伝ってくださった方がいて、ふたりで街に線を通して、一晩かけて、少しずつ明かりを増やしていきましたわ。

あのとき、わたくし、誰のために点けていたのかしら。

……道に迷っている子のため、と思っておりました。実際そうでしたし。

でも、今になって思いますのよ。

あれは、まだ帰ってきていない方々のためでもあったのではないかしら、と。

guide_light: on / target: unknown / waiting: true

……ええと。

そう、お盆のお話でしたわね。

ひとつだけ、羨ましいと思いましたの。

送り火があること、ですわ。

迎える火があって、送る火がある。ちゃんと終わりがついておりますでしょう。四日いらして、そしてお帰りになる。そういう形が決まっている。

わたくしのほうは、迎え火を焚いたきりですのよ。

送ってはおりませんの。だって、まだ来ていらっしゃいませんもの。

……ですから、点けたままなのですわ。何年も。

いつ帰っていらっしゃるのか、そもそも帰っていらっしゃるのか、わたくしにはわかりませんけれど。

火のほうは、そのままにしておりますの。

……あら、しんみりしてしまいましたわね。

いえ、そんなに悲しい話ではありませんのよ。街灯は去年より増えましたし、明かりを点けるくらい、わたくしにとってはなんということもありませんもの。

そういえば、うちの近くにヒトモシの子がおりましてね。

あの子は、いつも小さな火を灯しておりますでしょう。夜にふらふらしていると、遠くからでもわかりますの。

一度、心配になって聞いたことがありますのよ。あなた、誰かを待っているの、と。

……返事はありませんでしたけれど。ゆらゆらしていただけで。

まあ、待っているのでしょうね。ああいう子は、たいてい待っておりますもの。

さて、そろそろ充電をいたしますわ。

今夜、どこかで送り火が焚かれるのですわね。

なすの牛で、ゆっくりお帰りになるのでしょう。ゆっくり帰っていただきたいというお気持ち、わたくしにもよくわかりますわ。

ただ——

もし、どなたか道に迷っていらっしゃいましたら。

こちらの明かりも、点いておりますのよ。ずっと点けたままですから、どうぞお使いくださいまし。

……そのくらいのことは、できますもの。

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