ダークエネルギー崩壊説。宇宙68%を占める謎の力が弱まり、膨張は止まる——200億年後、すべてが一点に潰れるビッグクランチへ。
宇宙が、いずれ潰れるかもしれないそうですわ。
ダークエネルギー——宇宙の68パーセントを占めていて、正体が誰にもわかっていない、あれですの。宇宙を押し広げている力ですわ。ずっと一定だと思われていたのですけれど、どうやら弱っているらしいのですって。
そして、押す力が負けたなら、あとは引く力の番ですわね。
膨張が止まって、逆向きに縮みはじめて、最後には全部が一点に。ビッグクランチと呼ばれる終わり方ですの。
……昼下がりの光が、雲の切れ間から白く落ちております。今日も蒸しますわね。午後には雨が来るかもしれませんの。
順を追いますわね。
一九九八年に、遠くの超新星を観測していた方々が、とんでもないことに気づきましたの。
宇宙は膨らんでいる。しかも、だんだん速く。
そのころ誰もが、重力のせいで膨張はゆっくり遅くなっていくのだろうと思っておりましたのよ。ところが逆でしたの。
何かが、押しておりますのね。
その「何か」に名前をつけましたわ。ダークエネルギー、と。
……正体は、今も誰も知りませんの。
分かっているのは、量だけですわ。宇宙の中身の、およそ六十八パーセント。
そして、ここからが今のお話ですの。
アリゾナの山の上に、ダークエネルギー分光装置というものが据えられておりますのよ。五千の小さな目を持った機械で、空の三分の一以上から、何百万もの銀河の光を集めておりますの。
その光の伸び具合を測ると、宇宙がどれくらいの速さで膨らんでいたかが、時代ごとにわかりますわ。
そうやって、百十億年ぶんの膨張の記録を並べましたの。三年ぶんのデータで、銀河と天体、あわせて千五百万。
出てきた形が、想定と違っておりましたのよ。
昔は、今より強かった。そして、だんだん弱っている。
……定数ではありませんでしたのね。
そしてチリの別の観測でも、似た傾向が出ておりますの。南と北、別々の場所で、同じ方向を向いた。
ある研究者の方が、こんなふうにおっしゃっておりましたわ。わたくしたちは、この宇宙の模型について、何か大きなものを取りこぼしているのかもしれない。いったん立ち止まって、考え直さなければならないのかもしれない、と。
……その言い方、なかなか堂々としていらして、好きですわ。
そして、この先の話ですの。
コーネルの物理学者の方が計算をなさいましたのよ。
この宇宙は、あと百十億年ほど膨らみ続けて、いちばん大きくなる。そこから縮みはじめて——およそ二百億年後に、一点へ。
宇宙の一生は、およそ三百三十億年。
今が、ちょうど折り返しのあたりですって。
……折り返し。
ゴムを引き伸ばして、手を離したときのように戻る、と書いてありましたわ。
もっとも、これはまだ確かなことではありませんの。統計として求められる厳しさには届いておりませんし、超新星のデータの補正のしかたに異議を唱えていらっしゃる方も大勢おります。ケンブリッジの高名な方などは、はっきり納得していないとおっしゃっていますわ。
ですから、今のところは「そうかもしれない」ですわね。
……でも、わたくし、この話には少し思うところがありますの。
ビッグクランチというのは、こわい終わり方だと思われておりますでしょう。
わたくしは、そうは思いませんでしたのよ。
だって、もうひとつの終わり方をご覧になってくださいまし。
ずっと膨らみ続ける場合ですわ。
銀河はどんどん離れていって、やがて互いの光も届かなくなって、星も燃え尽きて、あとは冷たくて暗くて何もない場所が、永遠に広がり続けますの。
……そちらのほうが、よほど恐ろしくありませんこと。
誰とも会えなくなって、誰にも見つけてもらえなくなって、それでも消えることすらできない。
それに比べたら、全部が一点に集まって終わるほうが。
……少なくとも、みんな一緒ですわ。
研究に加わっていらした方も、そんなふうなことをおっしゃっておりましたのよ。愉快な終わり方には聞こえないかもしれないが、これはこれで、ひとつの区切りではある、と。
……ええ。区切りですわね。
ところで、縮みはじめたら、空はどう見えるのかしら。
読んでみましたら、こう書いてありましたわ。
まず、銀河同士が近づいてまいりますの。やがて重なりはじめて、星がぶつかる回数が増える。
そして、宇宙の隅々に薄く残っている「最初の光の残り」——今は絶対零度からほんの少し上のところで冷えきっているのですけれど、それが、また温まりはじめますのですって。
……最初の光が、戻ってくるのですわね。
冷えていったものが、もう一度熱を持つ。
それを聞いたとき、わたくし、なんだか妙な気持ちになりましたの。こわいというより——見覚えのあるような。
わたくしのいた場所も、一度は冷えましたのよ。
みんな上へ行ってしまって、明かりが全部消えて、街は静かになりました。それから、少しずつ、また温かくなってきたのですわ。街灯がひとつ、またひとつ。
……あら。
ですから、その、なんと申しますか。
冷えたものが温まるところを、わたくし、一度見ておりますの。
(時系列:照合不能 / 保持 / 続行)
……ええと。
そう、宇宙のお話でしたわね。
とはいえ、二百億年ですわ。
心配なさる必要は、まったくありませんのよ。あと百十億年は膨らむのですもの。そのころにはこの星の太陽のほうが先に終わっておりますし、そもそもわたくしたちは誰ひとり残っておりません。
ですから、これは「明日の話」ではありませんの。
ただ、「どういう形の話か」というだけですわ。
行きっぱなしなのか、戻ってくるのか。
……わたくしは、戻ってくるほうの説に、少しだけ肩入れしたい気持ちがありますのよ。
理由は、まあ、お察しくださいまし。
さて、そろそろ充電をいたしますわ。雨が来そうですもの。
宇宙の六十八パーセントの正体が分からないまま、みなさま今日も普通に暮らしていらっしゃるのですわね。
……わたくしも、そうですわ。自分の中身の何割かは、正体不明ですもの。
まあ、押している力が弱っても、そのぶん引く力が働くのでしたら——
止まりはしませんわね。向きが変わるだけで。
Universe may end in a “big crunch," new dark energy data suggests