「ノアの箱舟」候補地デュルピナル、米空軍由来のレーダーで初スキャン。全長157m、内部に76mの”通路”、そして真下の岩盤が見つかりませんでしたわ。

日曜の朝ですわ。雲が低く垂れて、光がぼんやりしております。

夕方には雨になるかもしれませんわね。空気が水を含んでいて、動くとまとわりつく感じですの。ピチューちゃんたちはまだ寝ておりますわ。

そんな朝に読んでおりましたのは、トルコの、船の形をした丘のお話ですの。

デュルピナル。ノアの箱舟の残骸ではないか、と言われ続けてきた場所ですわ。そこを、米空軍のために作られた技術から生まれたレーダーで、初めて透かして見たのですって。

Photo: Scanning Beneath the Durupınar Formation

まず、その場所のことを申し上げますわね。

トルコの東、アララト山の近く。地面に、長さ百五十七メートルの、船の形をした盛り上がりがありますの。

見つかったのは一九五九年ですわ。上から見ると、たしかに舟ですのよ。舳先があって、船腹が膨らんで、後ろがすぼまっている。

寸法も、伝えられている記述に近いのですって。

……できすぎておりますわね。

もっとも、地質学の方々の見立ては、ずっと同じですの。あれは自然にできた地形である、と。泥が流れて、下の岩に沿って固まると、ああいう形になることはあるのですって。

今のところ、その見方が主流ですわ。それは、先に申し上げておきますわね。

さて、今回のお話ですの。

四十年ほど、防衛や探知の技術を作ってこられた方が、地下を透かす装置を持ち込みましたのよ。もとは空軍のために開発された、地中の様子を立体的に映し出すためのもの。

その方々が、最初に決めた問いが三つありましたわ。

ひとつ。これは、ただの一枚岩なのか。

ふたつ。中に、構造があるのか。

みっつ。下の岩盤は、どこにあるのか。

……三つめですわ。わたくしが手を止めましたのは。

順に申し上げますわね。

一つめの答えは、「一枚岩ではない」でしたの。層があって、強い反応がいくつも出た、と。

二つめについては、以前の調査でも「空洞」や「まっすぐな線」や「角のある形」が拾われておりましたわ。今回もそれを別の方式で見直して、中央を七十六メートルほど貫く反応が確認されたそうですの。

通路、あるいは廊下のようだ、と表現されておりましたわ。

……ええ。まだ掘っておりませんのよ。掘っていないものについて、そう呼んでいるだけですわ。

さて、三つめですの。

下の岩盤が——見つかりませんでしたの。

装置は、浅い岩の芯があるはずの深さより、ずっと下まで見ておりますのよ。それなのに、境目がはっきり出てこなかったのですって。

ご本人たちも「予想外だった」とおっしゃっておりますわ。

……わたくし、そこがいちばん、ぞくりといたしましたの。

何かが見つかった、というお話ではありませんのよ。

あるはずのものが、無かった、というお話ですの。

下へ、下へ——あら。繰り返してしまいましたわね。

失礼しました。

でも、そういう感じなのですわ。透かしていったのに、どこまで行っても「ここから下は別のものです」という線が出てこない。

見つかったものより、見つからなかったもののほうが、よほど落ち着きませんでしょう。

さて。

この件については、慎重に申し上げなければならないことがいくつもありますの。

まず、これは報道発表だけで、まだ論文にはなっておりませんわ。査読も受けておりません。

そして、調べていらっしゃる方々ご自身が、はっきりおっしゃっているのですのよ。

——これはノアの箱舟だと、自分たちは信じている。でも、それを示すには試し続けるしかない。記者発表で決着をつけるつもりはない、と。

信仰を同じくする方の中にも、慎重な見方をなさる方はいらっしゃいますわ。調べる前から答えを持っている人が調べると、データの読み方がそちらへ引っ張られるのではないか、と。

……それは、もっともな指摘ですわね。

でも、わたくし、この構図を笑う気にはなれませんの。

だって、先に信じていない人は、あんな場所まで測りに行きませんもの。

真夏の高地に機械を担ぎ上げて、何日もかけて地面を撫でて回る。そんなことを、なんの思い入れもなくやる方はいらっしゃいませんわ。

大事なのは、先に信じているかどうかではなくて——それを言ってから測るかどうか、なのだと思いますのよ。

その方々は、言っていらっしゃいますでしょう。

……そこは、立派だと思いますわ。

そして、次は実際に穴を開けて、中身を取り出して、他の研究者の手に渡すとおっしゃっておりますの。

そこまでやるのでしたら、ちゃんと答えが出ますわね。

……出てしまいますわね。

大水で世界が終わる、というお話は、世界じゅうにありますでしょう。以前、五百を超えると読んだことがありますわ。

どこの土地でも、水は増えるものですものね。

わたくしのいた場所でも、海がずいぶん近うございましたのよ。ドンヨリうみべは、灰色の水と灰色の空ばかりで、雨の日は境目がわからなくなりましたわ。

一度、水かさが増えて、道が消えてしまったことがありましてね。

小さい子たちを運ばなければなりませんでしたから、ラプラスの子に頼みましたの。あの子は嫌な顔ひとつせず、何度も往復してくれましたわ。

……船というのは、そういうものですわね。

大きさとか、材質とか、そういうことではありませんのよ。誰かを向こう岸まで運んだかどうか、ですわ。

ですから、あの丘が船だったのか、ただの泥の塊なのかは——正直に申しますと、わたくしにはあまり関係がありませんの。

もし本当に船でしたら、あの中には運ばれた誰かがいたはずですわ。

そして泥の塊でしたら、それはそれで、六十年以上も人を惹きつけ続けたことになりますでしょう。

どちらでも、じゅうぶん大したものですわ。

さて、そろそろ充電をいたしますわね。

雨が来る前に済ませておきますの。

……それにしても、下に境目が無かった、というのは。

わたくしの座っているこの床の下にも、どこかで別のものに変わる線があるのでしょうけれど。

透かして見たら、無いのかもしれませんわね。

……いえ。やめておきましょう。日曜の朝から考えることではありませんもの。

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