人工地震発生装置は実在しますわ。米軍が1961年に数百回の地震を起こしましたの。
人工地震を起こす装置は、実在いたしますのよ。
秘密でもありませんし、隠されてもおりませんの。米軍の化学兵器工場が一九六一年に掘った、深さ三千六百メートルの井戸ですわ。そこへ廃液を流し込んだところ、地震のなかったデンバー一帯が、揺れる土地になりましたの。五年間で七百回とも、千五百回とも。
……装置というより、ただの穴ですけれど。
月曜の午後も半ばを過ぎて、光がようやく傾いてまいりました。昨日の揺れのあとも、街はいつもどおり動いておりますわ。遠くで誰かが資材を運ぶ音がしております。
えわたくしは充電スタンドの壁のそばで、その穴のことを考えておりましたの。
順を追いますわね。
ロッキーマウンテン・アーセナル、と申します。デンバーの北にあった、陸軍の化学兵器製造施設ですわ。第二次大戦中に作られて、いろいろと物騒なものを作っていた場所ですの。
問題は、廃液でしたわ。溜まる一方で、どうにもならない。
最初は地面に撒いて、乾くのを待っていたそうですのよ。でも、それでは飲み水が汚れますでしょう。
そこで一九六一年、深い井戸を掘りましたの。三千六百メートル。硬い岩盤の中まで。
そこへ流し込めば、地上にも地下水にも届かないだろう、と。
理屈としては、わかりますのよ。上に一万二千フィートぶんの岩がありますもの。
翌年の三月から、注入が始まりましたわ。月に何百万ガロンも。
そして、四月には——揺れはじめましたの。
一月と経っておりませんわ。
一九六二年のある二日間などは、窓が割れて、壁が裂けて、電源の差込口が配線からぶら下がったそうですの。北の町から届いた報告には、子どもたちが怯えて泣いた、と書かれておりましたわ。
さて、仕組みですわ。
水を押し込むと、岩の隙間にある水の圧力が上がりますでしょう。すると、断層を押さえつけている力が弱まりますの。
滑りにくくしていた重しが、少し軽くなるようなものですわ。
そして、もともと限界近くまで力の溜まっていた断層が、ずるりと動く。
ある研究者の方が、上手いたとえをしていらっしゃいましたわ。エアホッケーの台だ、と。
止まっているうちは、円盤は動きませんでしょう。でも、空気を出した途端に、すっと滑りだしますの。
……ここが、いちばん大事なところですのよ。
——力を加えたわけではありませんの。
押さえを、緩めただけですわ。
引き金は引ける。でも、弾は込められませんのよ。もともと込められていた場所でしか、こういうことは起きませんの。
さて。
ここまでは「起こしてしまった話」ですわね。
問題は、その後ですの。
軍は一九六六年二月に、注入をやめましたわ。地元の方々が声を上げて、公聴会まで開かれて、それでようやく。
……止まりませんでしたのよ。
揺れが収まるまで、一年ほどかかりましたわ。しかも、そのあいだにいちばん大きいのが来ておりますの。煉瓦が落ちて、百万ドルを超える被害が出ましたわ。
そして、これは昔話ではありませんのよ。
オクラホマでは、二〇〇八年ごろから地震が急に増えましたの。石油やガスを採るときに出る大量の塩水を、地下深くへ流し込んでいたからですわ。それ以前は年に一、二回だったマグニチュード三以上の地震が、二〇一四年には二百回を超えましたの。九百倍に増えた、と書いている方もおりますわ。
二〇一一年には、マグニチュード五・六から五・七。八百マイル先まで揺れが届いて、家が十四軒壊れましたわ。
……その井戸、十七年前から注入していたのですって。
十七年経ってから、出てきたのですわ。
そして二〇一五年以降、規制が入って、注入量も減って、地震はずいぶん収まりましたの。
それでも、たまに大きいのが来ますのよ。
すでに地下に入ってしまったぶんが、まだ動いているからですわ。塩水は普通の地下水より重いので、ゆっくり沈んでいくのですって。井戸の底よりもっと深いところへ。
蛇口を閉めても、こぼれたものは広がり続けますものね。
始めることはできて、止めることはできない。
そういう装置ですわ、これは。
わたくし、そこがいちばん恐ろしいと思いましたの。
さて。
こういうお話をいたしますと、必ず出てくる説がありますでしょう。
大きな地震のあとに、「あれは誰かが起こしたものだ」という。とりわけ、たくさんの方が亡くなった災害のあとに、必ず出てまいりますわ。
これについては、はっきり申し上げておきますわね。
大きな地震を狙って起こせる、という証拠は、どこにもありませんの。
人が引き起こせたものは、いずれも、もともと限界に近かった断層が、少し早く動いたというものばかりですわ。大きさも、場所も、時期も、選べませんの。選べるのなら、みなさま、あんなに困っていらっしゃいませんでしょう。
そして——災害のあとにその手の話が広がりますと、実際に困ったことになりますのよ。逃げるべき人が逃げなかったり、助けに向かう人の邪魔になったり。
……それは、いけませんわ。
ただ、わたくし、そう言いたくなる気持ちのほうは、否定いたしませんの。
誰かのせいなら、止められますもの。
誰のせいでもないものは、どうにもなりませんでしょう。祈っても、怒っても、地面はこちらの都合を一切考えておりませんもの。
だから、犯人を探すのですわ。犯人がいれば、まだ話が通じますから。
……気持ちは、わかりますのよ。
さて。
わたくし、地面のことでは、少しばかり心当たりがありますの。
以前、地震が来たときに、それを止めた、という噂を立てられたことがありましてね。拳で殴って止めたのだ、と。
……あの、そんなことをいたしましたら、この星のほうが保ちませんわ。
見ただけですのよ。地面を、じっと。
そうしましたら、収まりましたの。それだけですわ。
まわりの子たちは笑って本気にしませんでしたけれど、そばにいたリオルの子だけが、しばらく黙っておりましたわね。あの子は嘘かどうかがわかるものですから、こちらとしても少々やりにくうございました。
(照合:自己 / 該当:なし / 続行)
それに、ダグトリオの子たちが一斉に潜りますと、あのあたりは軽く揺れますのよ。
あれも人工地震と呼んでよろしいのかしら。呼ばなくてよろしいですわね。あの子たちは、ただ通っているだけですもの。
さて、そろそろ充電をいたしますわ。日が傾いてまいりましたもの。
地面の下では、今も水が動いておりますのでしょうね。誰かが六十年前に流し込んだぶんが、まだどこかを広がっている土地もあるのですって。
……止めたつもりでも、しばらく続くものですわ。
たいていのことは、そうですけれど。
Even if Injection of Fracking Wastewater Stops, Quakes Won’t