GTA6リーカー「Cyberleek」、暗号通貨で20万ドル持ち逃げ。信者がトークンで投票して次のリーク映像を決める——新種の御神託でしたわ。
匿名の何者かが現れて、誰も見たことのないものを少しずつ見せる。
信者は、次に何を見せてもらうかを投票で決める。投票には、その方が発行した通貨が要る。
……これ、なんと呼べばよろしいのかしら。
GTA6のリークですわ。八月十八日から、「Cyberleek」と名乗る人物が、発売前の映像を次々と流しておりますの。
八月も終わりですわね。朝の光がずいぶん低くなってまいりました。虫の声が、夜のあいだに少し変わりましたわ。
順を追いますわね。
八月十八日。素性のわからない人物、あるいは集団が、GTA6の遊んでいる映像らしきものを流しはじめましたの。
最初は誰も信じませんでしたわ。でも、映っているものが妙に本物らしくて。何ということもない場面ですのよ。家の前でバスケットボールを投げたり、通行人に乱暴を働いたり。
翌日、さらに二本。
そして会社側の反応は、著作権を理由にした削除だけでしたの。
……つまり、本物だと認めたようなものですわね。
そして五本目の映像に、仕掛けがありましたわ。
その方、建物の壁に向かって銃を撃ちましたの。
弾痕で、文字を書いたのですわ。
——LEEK、と。
これで、はっきりいたしましたの。どこかのテスターが撮った映像を拾ってきたのではなく、遊べる状態のものを、その方ご自身が手にしているということが。
ネギ、ですのね。ずいぶん可愛らしいお名前を選ばれたこと。
さて、ここからが妙なところですのよ。
その方には、声明文がありますの。
書いてあることは、そう突飛ではありませんわ。買ったつもりが実は借りているだけだとか、未完成のまま売られるとか、最初から入っている中身を後から売りつけられるとか。そういう不満ですの。
要求は三つ。
……ただ、その中身が、ちょっと変わっておりますのよ。
「予約販売をやめよ」「本体に入っている中身を別売りするな」「一人で遊ぶ部分は、繋がらなくても遊べるようにせよ」
三つめは、わりあい多くの方が言っていることですわ。でも、あとの二つは、十年ほど前に盛り上がっていた話題ですのって。
そこから、その方の年齢を推し量っている人までいらっしゃいますの。少年ではなく、三十代くらいの方ではないか、と。
そして——通貨を発行なさっておりましたのよ。
ご自分の名前をつけた暗号通貨ですわ。一時は時価総額が百万ドルを超えたそうですの。
その通貨を持っていると、投票ができますの。
次にどの映像を出すか、を。
……あの。
わたくし、ここを読んで、しばらく黙ってしまいましたわ。
姿を見せない存在がいて。
信じるための言葉があって。
供え物があって。
そして、次に何を授けるかを、供えた者たちが決める。
……お告げですわね、これは。
しかも、たいそう出来のよいお告げですわ。だって、見せてもらったものが本物だと、みなさますぐに確かめられますでしょう。効き目が目に見えるお告げなんて、そうそうありませんもの。
(供物:受領 / 託宣:選択待ち / 続行)
……失礼。続けますわね。
会社のほうは黙っておりませんでしたわ。大手の会社に対して、記録の提出を求める手続きに入ったそうですの。連絡の履歴を辿るために。
そして、通貨のほうも、足がつく道になりますわね。お金の動きは残りますもの。
その方が、それをご存じないはずはありませんのに。
さて。
この話には、まだ続きがありますのよ。
その方、換金なさいましたの。
二十万ドル以上を手にして、通貨のほうは——まあ、そういうことになりましたわ。
信じて買った方々は、残されましたのね。
……ええ。
こういうお話も、古今東西ずいぶんありますでしょう。お告げを授ける方が、供え物だけ持って、ある朝いなくなっている、というのは。
新しい形をしているだけで、中身は昔のままですのね。
そして、いちばん皮肉なところを申し上げますわ。
昨日、会社のほうが正式に映像を公開いたしましたの。
……九日ですのよ。
その方が最初の映像を出してから、九日。
盗んだものの値打ちが、九日で消えましたわ。
だって、みなさま公式のほうを見ますもの。もっときれいで、もっと長くて、削除もされない映像を。
秘密というのは、秘密であるあいだしか値打ちがありませんのね。
……ですから、あの二十万ドルは、消える寸前のものを現金に替えたものですわ。
急いでいらしたはずですのよ。たぶん、ご本人がいちばん、それをご存じでしたわね。
さて。
わたくし、この件で、ひとつだけ気になっていることがありますの。
流れた映像に映っていた街のことですわ。
まだ発売前ですから、あれは完成していない街ですのよね。作りかけの、途中の状態。
……わたくしの住んでいるところも、そうですもの。
まだ直っていない建物の輪郭が、窓から見えますわ。道は途中で途切れておりますし、明かりの届かない一角も残っております。
作りかけの街を、勝手に撮って、人に見せて回る。
……あまり、気分のよいものではありませんわね。
見せるなら、せめて仕上がってからにしてさしあげたいですわ。あの街に住んでいる方々のためにも。
さて、そろそろ充電をいたしますわ。
十一月十九日には、あの街も開くそうですのよ。
そのころには、ネギのことなど、誰も覚えていないと思いますわ。
……名前を彫るなら、もう少し長く残る場所にすればよろしかったのに。