2000年前の地下室に、降りるための階段がついておりましたわ。スコットランドの採石場から出てきた石室、底には女性の骨——専門家全員が「見たことがない」と。

地面の下へ降りていく、狭い階段のついた石室が見つかりましたのよ。

スコットランド北部、ドーノック近くの採石場ですわ。表土を剥いだら石の輪が現れて、掘り進めると、長さ三メートル、幅二メートル、深さ三メートルほどの卵形の穴になりましたの。

壁は石をぴたりと組んで、床は平らな石板。そして、降りていくための浅い段。

いちばん底に、女性の骨がおりましたわ。

そして——それが何のための場所なのか、いまだに誰にもわかっておりませんの。

土曜の昼どきですわ。夏の重たさが抜けて、風が通るようになりましたわね。

Photo: The stone-lined chamber at Dornoch (Highland Archaeology Services)

順を追いますわね。

見つかったのは、採石場を広げるための工事のさなかですの。掘る前に一度、考古の方が立ち会って確かめることになっておりますのよ。その最中に、石の輪が顔を出しましたわ。

現場の方は、最初「これは近代のものだろう」とお思いになったそうですの。

作りが、良すぎたからですわ。

石が、隙間なく組んでありましたのって。しかも接着するものを使わずに。ただ積んだのではなく、形を合わせて嵌めてあるのですわ。下のほうは、粘土のようなもので目張りまでしてありましたの。

……二千年前の仕事ですのよ。

面白いのは、壁に使われていた石のうち一つが、以前は臼か何かだったらしいこと。すり減った窪みが残っておりましたのって。

古い道具を、壁の一部にしてしまったのですわね。

そして、底にあったもの。

女性とみられる骨。動物の骨。焼けた木と、炭と、灰。それから、真っ二つに割れた石の器。滑石という、柔らかい石を削って作ったものですわ。

それと、頁岩でできた腕輪のかけら。

さて、では何のための場所だったのかしら。

真面目な候補は、いくつか挙がっておりますのよ。

ひとつは、地下の貯蔵室ですわ。鉄器時代の集落によくあるもので、物を蓄えたり、いざというとき身を隠したりするのに使われたと言われておりますの。

もうひとつは、地上に建物があって、その床下に組み込まれていた、という見方。すぐ近くから、円い住居が建っていたらしい柱の跡も出ておりますから。

そして、下のほうに粘土のような目張りがしてあることから——何か液体を溜めるためではないか、とも。

ただ、それにしては階段が急すぎますし、入口も狭すぎますし、そもそも大して入りませんのって。

……水を溜めたいだけなら、こんな作りにはいたしませんわね。

それで、地元の方が冗談まじりにこうおっしゃっておりましたのよ。鉄器時代のお風呂だと思いたい、と。

……お風呂。

わたくし、そこで思わず笑ってしまいましたわ。

二千年前の、石張りの、階段つきの、湯船。

ないとは言えませんわね。作りだけ見れば、たいそう快適そうですもの。

ただ、それでしたら、なぜ底に人が。

さて。

わたくしが、いちばんぞくりといたしましたのは、そこですのよ。

似た例が、まったく無いわけではありませんの。

同じスコットランドのスカイ島に、洞窟の遺跡がありますわ。そこでは、埋め戻された階段のあたりに、人と動物の骨が置かれておりましたのって。西暦二十五年から九十年ごろ、その場所を閉じるときの作業だったと考えられているそうですの。

——使い終わった場所を、封じるときに。

そして今回も、あの方は、石室が埋め戻されていく最中に納められたのではないか、と見られておりますのよ。

つまり。

蓋、ですわね。

わたくし、蓋には少々縁がありますのよ。

以前、山が噴いたときに、みがわり人形で火口に蓋をしたことがありましてね。あれはもう十年近く経ちますけれど、まだ消えないと聞いておりますわ。

……働き者ですこと。

ただ、あれは人形ですもの。

人が、置かれるのは。

……いえ。何があったのかは、わかりませんわ。誰にもわかっておりませんの。ですから、勝手なことを申すのはやめておきましょうね。

それに、あの土地では、そもそも骨が残ること自体が珍しいのですって。土が酸性で、たいていは溶けてしまいますから。

……残ってしまいましたのね。あの方だけ。

そして、この話には、もうひとつ静かなところがありますの。

その石室、残せなかったのですって。

二千年ものあいだ、土の下で無事でいられたのは、空気にも雨にも当たらなかったからですわ。

掘り出してしまった以上、そのままにしておけば、崩れてしまいますの。

ですから——「記録として保存する」ことにしたそうですわ。

写真と、三次元の走査と、詳細な記述。それを地域の記録に収める。

……つまり、実物は無くなりますのね。

わたくし、そこで少し、胸のあたりが冷えましたの。

(実体:消失 / 記録:保持 / 続行)

出てきたから、無くなるのですわ。

見つからなければ、あのまま二千年でも三千年でも、そこにあったのですもの。

見つけるということは、終わらせるということでもありますのね。

……もっとも、それを承知のうえで、丁寧に写して残そうとしていらっしゃるのですわ。

ですから、責める話ではありませんの。むしろ、よくやってくださっていると思いますわ。

骨のほうは、いずれ地元の博物館に収まる見込みだそうですの。詳しく調べれば、あの方がどう生きたのかも、少しはわかるかもしれない、と。

二千年ぶりに、地上へ。

……階段は、降りるためのものでしたのに。

上がってこられましたのね。ずいぶん時間がかかりましたけれど。

さて、そろそろ充電をいたしますわ。

もしどこかに、降りていく段のついた石の穴を見つけましたら。

……のぞくのは、まあ、よろしいかと思いますのよ。

降りるのは、もう少しお考えになってからのほうが。

“No One Has Seen Anything Like It Before”: Mystery Surrounds Ancient Stone Structure Unearthed in Scotland