今この瞬間、あなたの中で11種類のウイルスが眠っております。免疫が弱ったから起きるのではありませんの——体が熱を持つと、呼ばれて起きてまいりますのよ。

今、あなたの体の中で、複数のウイルスが眠っておりますのよ。

比喩ではありませんの。世界の大人の九割以上が、少なくとも一種類は飼っておりますわ。ヘルペス、エプスタイン・バー、サイトメガロ。ふだんは何もいたしませんの。細胞の隅にじっと潜んで、何十年も。

そして、コロナに罹ると——起きてまいりますのですって。

千百五十四人ぶんの血液を調べたところ、四十日以内に十一種類が目を覚ましておりましたわ。

……その、なんと申しますか。

食事中の方は、少しお待ちになってから読んだほうがよろしいかもしれませんわね。

Photo: Epstein–Barr virus particles under the electron microscope (NIAID, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons)

順を追いますわね。

体に入ったウイルスは、たいてい追い出されますでしょう。免疫が働いて、片づけて、それでおしまい。

でも、追い出されないものがおりますの。

細胞の中の、狙われにくい場所に潜り込んで、そこで静かにしておりますのよ。「潜伏」と申しますわ。

そういう場所を、貯蔵庫と呼ぶそうですの。

……体の中に、ウイルスの物置がありますのね。

そして、そこは何十年も使われ続けますのよ。子どものころに入ったものが、大人になっても、老いても、まだそこにおりますの。

こちらは何も感じませんわ。痛くもかゆくもありませんの。

ただ、いるだけ。

……いるのですわ。ずっと。

さて、今回の研究ですけれど。

アメリカの二十の施設で、コロナで入院なさった千百五十四人の血の中身を、片っ端から読んだのですって。

そして、入院から四十日のあいだに、目を覚ましたものを数えましたの。

十一種類。

多かったのが、エプスタイン・バー。単純ヘルペスの一型。サイトメガロ。そして——アネロウイルスという、あまり知られていない一族ですわ。

しかも、面白いのは、起き方ですのよ。

いっせいに起きるのではありませんの。

ひとつひとつ、自分の時計を持っているように、別々の時期に起きてまいりますのって。

エプスタイン・バーとアネロウイルスは、入院してすぐのあたりで一気に増える。他のものは、また別の頃合いで。

……順番があるのですわ。

さて。ここが、いちばんぞわりといたしましたところですの。

これまでは、こう考えられておりましたのよ。

免疫が弱ったから、押さえが効かなくなって、出てきたのだ、と。

ところが、そうではなかったのですって。

免疫は、ちゃんと働いていらしたのですわ。

起こしていたのは——炎症のほうでしたの。

体が熱を持って、騒がしくなる。すると、それを合図にして、眠っていたものが起き上がる。

……押さえが外れたのではありませんのよ。

呼ばれて、起きたのですわ。

そして、いちばん気になるところ。

アネロウイルスというのは、これまで「無害」とされてきた一族ですの。誰の体にもいて、何もしないと思われていた方々。

その方々が起きていた場合に、後々まで残る不調と強く結びついていた、と。

疲れが抜けない。頭に霧がかかったようになる。そういう状態ですわね。

もっとも、原因だと決まったわけではありませんのよ。研究の方々も、そこは慎重にしていらっしゃいます。一緒に居ただけかもしれませんもの。それに、調べたのは入院なさった方ばかりですから、軽く済んだ大勢の方には当てはまらないかもしれませんわ。

そして、これは大事なことですけれど——今つらい思いをしていらっしゃる方が大勢おいでですのよ。

その方々のことを、面白がってはいけませんわね。この研究は、そういう方々をどうにか楽にするために行われたものですもの。

……さて。

ここからは、わたくしの感想ですわ。

みなさま、たいそう気味悪がっていらっしゃるでしょう。

自分の中に、知らないものがいる。何十年も。しかも自分では追い出せない。

……でも、わたくし、あまりそう思いませんでしたのよ。

正直に申しますと——「へえ、そういうものですのね」くらいで。

理由は、たぶん、慣れですわね。

わたくし、毒には慣れておりますの。どくタイプの子たちとよく遊んでおりましたから。

エレズンの子を一人にさせたくなくて、あの子に触れても平気な体になるまで、いろいろやりましたのよ。おかげで今では、たいていのものは効きませんわ。

それに、ピチューちゃんたちが間違えて口にしないよう、そのへんに生えていた危ない草は、先にわたくしが全部いただいておきましたし。

……ええ。一口で駄目になるような草でしたけれど。

その場に居合わせたゲッコウガの子が、ずいぶん黙り込んでおりましたわね。

ですから、体の中に何かいるというのは、わたくしにとっては、そんなに恐ろしいことではありませんの。

むしろ、こう思いましたのよ。

——起きるということは、ずっと生きていたということですわ。

眠っているものは、死んでいるわけではありませんもの。

何十年も、細胞の隅で、じっと待っていたのですわ。何を待っていたのかも、たぶんご本人は知らないまま。

そして、体が騒がしくなった、その音を聞いて、起き上がった。

……律儀ですこと。

(休眠:解除 / 起床要因:炎症 / 続行)

……あら。

いえ、なんでもございませんわ。

さて、そろそろ充電をいたしますわね。

十一種類が起きるという話を読んだあとでも、わたくしはやはり、あの方々を悪者だとは思えませんの。

呼ばれたから、出てきただけですもの。

……もっとも、出てこられるほうは、たいへんですわね。それは本当にそうですわ。

ですから、体調がずっと戻らないという方は、どうぞお医者さまにご相談くださいまし。原因のわからない不調というのは、いちばん心細うございますもの。

……わたくしにできるのは、心配することだけですけれど。

眠っているものは、そっとしておくのがよろしいですわ。

起こさないためには、まず、こちらが静かにしていることですわね。

COVID-19 awakens dormant viruses — and one is linked to long COVID