17世紀ポーランドの「吸血鬼の墓」、17歳の少女の足の親指に南京錠。しかも誰かが後から掘り返して、首に鎌を足しておりましたわ。
足の親指に、南京錠がかけてありましたの。
そして首の上には、刃をこちらへ向けた鎌が置いてありましたわ。
二〇二二年、ポーランドのピエンという村の墓地から出てきた、十七世紀の埋葬ですの。眠っていらしたのは、十七歳から十九歳ほどの女性でしたわ。
……そして今回、いちばん恐ろしいことが分かりましたのよ。
その鎌、埋葬のときには無かったのですって。
誰かが後から、掘り返して、足したのですわ。
九月に入りましたわね。昼下がりの光が、もうずいぶん柔らかくなってまいりました。
「七五号墓」と呼ばれておりますの。
四年かけて、ずいぶん丁寧に調べられましたわ。古代DNA、放射性炭素、同位体、エックス線、顕微鏡。
分かったことを並べますとね。
身長は百六十五センチほど。骨に、致命傷も病気の跡もありませんでしたの。死因は、今のところ分かっておりません。
頭のそばから、布の切れ端が出てまいりましたわ。絹に、銀と金メッキの銀の糸で飾りが入っておりましたの。
……つまり、良家のお嬢さんですわ。
貴族か、裕福な町の方のご息女。同位体を調べると、育ったのはその土地のあたり。母方の系統は、北欧に多く見られるものだったそうですわ。
そういう方が、あの扱いを受けたのですのよ。
さて。
順序の話をいたしますわね。
南京錠は、最初の埋葬のときに付けられたと見られておりますの。左足の親指に、三角形の鉄の錠を。
そして、鎌のほうですわ。
墓のまわりの土が、乱されておりましたのって。
骨はきちんと繋がったままでしたから、掘り返されたのは、まだ体が朽ちきる前——つまり、埋めてからそう経たないうちですわ。
そのときに、鎌を首へ。
……あの。
こわがっていたから、錠をかけたのですわね。それは分かりますの。
でも、そのあとで、もう一度こわくなったということでしょう。
土をどけて、蓋を開けて、あの方の顔をもう一度見て、それから鎌を置いた。
……何が起きたのかしら。その間に。
さらに、頭蓋骨の内側に、銅を含む何かが置かれていた跡があるそうですわ。緑色の変色が広く残っておりますの。口の中に何か入れられていた可能性がある、と。硬貨ではなさそうだ、というところまでは分かっておりますけれど。
三重ですわね。錠と、鎌と、口の中の何か。
その村の墓地では、他にも百を超える墓が出ておりますの。石を置いたもの、硬貨を入れたもの、鎌のあるもの、錠のあるもの。
ただ——鎌と錠が両方そろった例は、これが初めてですって。
そして、その墓地は村から離れた場所にありますの。研究の方々は、そこが「よそ者」や「はみ出した者」を葬る場所でもあったのではないか、とお考えですわ。
さて。
ここで、研究の方々が丁寧に断っていらっしゃることを、わたくしも書いておきますわね。
「吸血鬼」という呼び方は、正確ではありませんの。
あの言葉が広まるのは、もっと後の時代ですわ。その地域では、死んだあとに人を害するものになる、と考えられていた存在に、別の呼び名がありましたのって。
ですから、あの方が牙で誰かを噛むと思われていたわけではありませんのよ。
もっと漠然と——戻ってきて、何か悪いことをするかもしれない、と。
そして、こういうことは、疫病や飢饉のような出来事が続いたときに起きやすかったそうですわ。
説明のつかない不幸が続くと、誰かのせいにしたくなる。
……ええ。それは、つい先日も申し上げたばかりですわね。
嵐でも、地面でも、雨でも、同じことですのよ。
ただ、あちらは装置のせいにできましたけれど、こちらは——亡くなった方のせいにしたのですわ。
言い返せない相手を選ぶあたりが、なんとも。
……いえ。責める話ではありませんわね。あの時代の方々も、こわかったのですもの。
さて、ここからが、わたくしの考えておりましたことですの。
あの錠、開ける鍵はどこにありますのかしら。
……たぶん、無いのですわ。
錠というのは、閉じるためのものですけれど、同時に「いつか開ける人がいる」ことも前提にした道具でしょう。
あの方の足には、開ける気のない錠がかかっておりましたのよ。
……それを錠と呼んでよろしいのかしら。
わたくし、こういうものには少々思うところがありますの。
わたくしのいた場所でも、閉じたものはございましたのよ。
火口に蓋をしたときも、そうですわ。あれは開けるつもりのない蓋でしたもの。
でも、あれは山ですわ。相手が人でしたら、話が違いますでしょう。
(施錠:恒久 / 解錠者:未設定 / 続行)
……そして、いちばん胸に残りましたのは、こういうことですのよ。
あの方は、今こうして掘り出されて、名前は分からないままですけれど、髪の飾りも、育った土地も、家柄も、ずいぶん詳しく調べていただきましたわね。
四年かけて。何人もの研究者が。
こわがられて閉じられた方が、四百年後に、いちばん丁寧に扱われている。
……悪くありませんわ。
そのうち、亡くなった原因も分かるかもしれませんのって。
そうしたら、あの方が何もしていなかったことも、はっきりするでしょう。
さて、そろそろ充電をいたしますわ。
もし錠を外してさしあげられるものなら、と思いますけれど。
……たぶん、もう外れておりますわね。四百年ですもの。
いえ、外れていなくても構いませんの。
あの方はもう、こわがられてはおりませんもの。そちらのほうが、たぶん効きますわ。
Scientists Investigating a 17th-Century 'Vampire’ Grave Discover Something Unprecedented