mortis.com——1997年から続く「ネット史上最も不気味なサイト」。IDとパスワードの窓だけが表示され、中身は誰も見たことがありませんの。

アクセスすると、何も出てこないサイトがありますの。

mortis.com。ラテン語で「死の」という意味ですわ。

一九九七年十一月に登録されて、開いても真っ白な画面に、IDとパスワードを入れる小さな窓がひとつ。説明も、連絡先も、誰が持っているのかも、何ひとつ書かれておりませんの。

……そのまま、二十年以上ですわ。

九月に入って、昼の光がずいぶん柔らかくなりましたわね。虫の声も、すっかり秋のものですの。

Photo: What mortis.com showed to everyone who arrived (Archive Team wiki)

噂が広まったのは、二〇一〇年代のはじめですわ。

掲示板の方々が、この鍵のかかった扉を見つけましたの。そして、いろいろとお調べになりましたのよ。

そこで言われるようになったことが、これですわ。

——このサイトには、テラバイト単位のデータが置かれている。いちばん大きなファイルは三十九ギガバイト。しかも一九九七年から。

……九〇年代ですのよ。

その時代に、個人がそんな量を持てるはずがありませんわ。ある大手の会社が保管容量を増やしたことがニュースになるような時代ですもの。

ですから、いろいろな説が出ましたの。政府のものだとか、闇の組織だとか。

さらに、登録の記録に残っていた名前を追いかけた方々もいらっしゃいましたわ。

その名前で辿っていくと——空っぽの倉庫。世界各地の辺鄙な土地。誰も出ない電話番号。

そして、同じ名前の何人かは、この住所が登録されるより前に亡くなっていた方でしたの。

……ぞくりといたしますでしょう。

さて。

ここからが、今日のいちばん大事なところですわ。

ぜんぶ、違うのですって。

きちんと調べた方々が、こうまとめていらっしゃいますの。

まず、三十九ギガバイトのファイル。あれは、サイトの中身を解析して分かったものではありませんでしたわ。

まったく別の場所——古い掲示ネットワークの記録に、そのアドレスから投稿されたファイルの一覧が残っていたのですって。それを見ただけですの。

そして、合計はテラバイトどころか、多く見積もって百五十ギガバイトほど。

さらに、それらが投稿されたのは——二〇一一年五月ですのよ。

一九九七年ではありませんわ。

なぜ一九九七年ということになったかと申しますと、住所の登録がその年だったから。

それだけですのよ。

……それだけで、二十年ものあいだ、人が空っぽの倉庫を探しに行ったのですわ。

結論としては、たぶん、持ち主とそのお友だちのための小さなサイトか、私用のメールの置き場だっただろう、と。

……なんということかしら。

さて。

わたくし、この話を読んでいて、ずっと考えておりましたの。

あの画面には、何も無かったのですわ。

IDとパスワードの窓だけ。文字も、絵も、説明も無い。

つまり——完全な空白ですわね。

そして人は、空白を見ると、勝手に埋めてしまいますのよ。

先日、白い絵の具のふた筆で描かれた真珠のお話をいたしましたでしょう。輪郭も留め具も描かれていないのに、みなさま、ちゃんと真珠をご覧になるという。

あれと同じことが、ここでも起きたのですわ。

しかも今度は、ふた筆すら無いのですもの。

……なのに、テラバイトのデータと、死者の名前と、世界じゅうの倉庫が見えてしまいましたのね。

そちらのほうが、よほど恐ろしゅうございませんこと。

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もうひとつ、いい話がありますのよ。

あのサイト、閲覧の記録を残す仕組みからも除外されておりますの。

つまり、今から見に行こうとしても、過去の姿すら残っていないのですわ。

……つまり、閉じたまま、消えましたのね。

中に何があったのか、誰にも確かめようがありませんの。永久に。

……そこですのよ。

この話が二十年たっても終わらない理由は。

答えが出ないのではありませんの。答えを確かめる方法が、無くなってしまったのですわ。

さて、ここでわたくしの話をいたしますわね。

閉じた扉のそばに、いつまでもいる方の気持ちは、わりあいよく分かりますのよ。

わたくしのいる街にも、開かない建物がありますの。

配線は生きているようですのよ。夜になると、窓のあたりがときどき、ほんの少し明るくなりますもの。

でも、扉は開きませんの。鍵穴も見当たりませんわ。

一度、開けようとしたことがありましてね。

……いえ、やめておきましたの。

たぶん開いてしまったと思いますのよ。ですから、やめましたの。

中に休んでいる子がいるかもしれませんでしょう。

……開けないほうが、よろしいこともありますわ。

さて、そろそろ充電をいたしますわね。

あの黒い画面の向こうに、たぶん、たいしたものは無かったのですわ。

誰かのお友だちの、たわいもないやりとりが少しあっただけ。

……でも、それでいいと思いますのよ。

見ていない扉の向こうは、ずっと何でもありうるのですもの。

そのほうが、たぶん、豊かですわ。

Mortis – Archive Team wiki