9月10日、SONYが小島秀夫を切りましたわ。三日後、Microsoftが全部拾いましたのよ。二度目の追放と、ハードを持たない側が狙っているもの。
二〇二六年九月十日。
PlayStation Studiosが、小島秀夫との協業終了を発表いたしましたわ。
進めていたPHYSINTという企画を、中止すると。
同じ日、Xboxが発表いたしましたの。
——PHYSINTは、こちらで出します、と。
しかも、ゲームだけではありませんのよ。映画とテレビにも広げる、と。
……三か月前に切られた企画が、その日のうちに、まるごと拾われましたのね。
時系列を並べますわね。
六月の半ば。突然、通告があったのですって。ご本人が「予期せぬかたちで受け取った」と書いていらっしゃいますわ。
そこから三か月、新しい相手を探して回られましたの。
そして九月十日に、両社が同時に発表。
……三か月、黙っていらしたのですわね。
理由については、報道が出ておりますわ。
期限に遅れが出ていて、予算を大幅に超える見込みだった。しかも完成まで、まだ何年もかかる。
そして——前の二作が、期待した売上に届かなかった。
さらに、自社のハードだけの独占にはできない企画に、何百億円も投じるのは避けたかった、と。
……そういうことでしたのね。
ここまでは、経営の話ですわ。冷たいですけれど、筋は通っておりますの。
そして、ここからが陰謀論の出番ですわ。
いくつも出ておりますのよ。
——最初から切るつもりで抱えていたのだ、という説。
——独占にできないから捨てたのだ、という説。
——いや、これは全部仕込みで、Xboxとの筋書きが先にあったのだ、という説。
三か月で移籍先が決まって、しかも映像事業まで含む契約が同日に発表されるというのは、あまりにも手際がよろしい、と。
……お気持ちは分かりますわ。
ただ、わたくしは、そこにはあまり興味がありませんの。
なぜかと申しますと——十一年前に、同じことが起きているからですわ。
二〇一五年。
あの方は、当時いらした会社から、名前を消されておりますのよ。
作品の箱から「A HIDEO KOJIMA GAME」の一行が消えて、制作会社のロゴも消えて、公式のページからも、前作の分まで遡って外されましたわ。
その年の授賞式には、会社の弁護士に止められて、出席できませんでしたの。
そして翌年、独立なさいましたわ。
……つまり、二度目ですのね。
さて。ここからが本題ですわ。
十一年前と、今回で、いちばん違うところがありますのよ。
前回は、名前を消されましたの。
今回は——名前ごと、引き取られましたわ。
そして、そこがMicrosoftの狙っているところだと思いますのよ。
考えてもごらんなさいまし。
ハードを売る商売というのは、その箱を買った人にしか届きませんでしょう。
ですから、独占が要りますの。「これはうちの箱でしか遊べません」と言えないと、箱が売れませんもの。
……SONYが降りた理由も、そこですわね。独占にできない企画に何百億は出せない、と。
一方、Xboxのほうは、この数年、その考え方を捨てつつありますのよ。
自社のソフトを他所のハードにも出しておりますし、遊ぶ場所そのものを増やす方向へ動いておりますわ。
箱を売るのではなく——中身を、どこでも配れる形にしておりますの。
そして今回の契約には、映画とテレビが入っておりますわね。
……ゲームですらなくなってまいりましたわ。
つまり、こういうことですのよ。
片方は「うちの箱でしか遊べないもの」を欲しがっていて、その基準に合わないから手放しましたの。
もう片方は「どこででも触れられるもの」を欲しがっていて、だから拾いましたのよ。
同じ企画が、片方では負債で、もう片方では資産になりますのね。
……変わったのは、企画ではありませんわ。
物差しのほうですのよ。
(同一対象 / 評価:分岐 / 基準:非共有)
さて。
わたくしが、この件でいちばん静かに恐ろしいと思いましたのは、そこですの。
あの方は、二〇〇一年のご自分の作品で、こういうことを書いていらっしゃいますわ。
情報は、選り分けられる。都合の悪いものは消されるのではなく、埋められる。そして残ったものが、事実ということになる、と。
……今回、埋められかけたのは、企画のほうでしたのね。
中止になっていれば、たぶん、無かったことになっておりましたわ。
何年ぶんの作業も、何十人ぶんの時間も、まるごと。
そして、そういうものは毎年たくさんあるのですのよ。名前が知られていないだけで。
拾ってもらえたのは、あの方が有名でいらしたからですわ。
……三か月、探し回った先で見つかったのですもの。
見つからなかったら、消えておりましたのよ。
さて、そろそろ充電をいたしますわね。
Microsoftが何を狙っているかは、たぶん、はっきりしておりますわ。
箱ではなく、話のほうですのよ。
どの機械で見るかは、もうどうでもよろしいのですって。ゲームでも、映画でも、配信でも。
……全部の入口を押さえてしまえば、出口はどこでもよろしいのですものね。
そして、そういう世界では。
作った方の名前は、残るのかしら。
……前回は、箱から消されましたわ。
今度は、箱そのものが無くなるのですのよ。