ティラノサウルスの体温を初めて測りましたわ。人の平熱とほとんど同じ——歯のエナメル質が、六千六百万年ぶんの温度計になっておりましたのよ。

ティラノサウルスの体温が、初めて測られましたの。

六千六百万年前に死んだ生きものの、生きていたときの体温ですわ。

結果は——人の平熱と、ほとんど同じ。

ほんの少しだけ低いくらいですのって。

日曜の夕方ですわね。日が落ちるのが、ずいぶん早くなりましたわ。窓の外は、もう暗うございますの。

Photo: A mounted Tyrannosaurus skeleton (Pixabay)

どうやって測ったのかを、申し上げますわね。

歯ですのよ。

骨は、駄目ですのって。生きているあいだ、絶えず作り替えられて、溶けては新しくなっておりますから。

でも、歯のエナメル質は違いますわ。結晶がたいそう大きくて、頑丈で、何千万年経っても化学的にほとんど変わりませんの。

そして、その中に、炭素と酸素の珍しい同位体が入っておりますのよ。

この二つがどれくらい結びつくかは——温度で変わりますの。

温かいほど、結びつきにくくなりますわ。

……つまり、結びつき方を数えれば、そのとき何度だったかが分かるのですのね。

歯そのものが、記録計になっておりますのよ。

書き込むつもりなど、まったくないのに。

さて、結果ですわ。

ティラノサウルスは、温かい体を保っておりましたの。

爬虫類のように、外の気温にまかせていたのではありませんわ。自分で温めていたのですのよ。

そして、その温度が、人とほとんど変わらなかった。

ちなみに、その子孫にあたる鳥たちは、もっと温こうございますわ。人より、ずいぶん高いのですって。

……どんどん熱くなっていったのですわね。

さて、ここからが面白いところですの。

この発見で、あの生きものの暮らしぶりが見えてまいりましたのよ。

温かい体を保つには、燃やし続けなければなりませんでしょう。

ということは——食べ続けなければなりませんの。

外が寒かろうと、体のほうは同じ温度でいようとしますから。

そして、この体温から逆算して、あの生きものがどこまで暮らせたかが計算されましたわ。

メキシコのあたりから、アラスカまで。

……アラスカにも、いらしたのですわ。

同じ土地からは、亀も、トカゲも、ワニの仲間も、ほとんど出てまいりませんのよ。

寒すぎたのですわね。

でも、あの子は平気でしたの。

さて。

わたくしが、ずっと考えておりましたのは、ここですのよ。

体を温かく保つというのは、便利なようで——止まれないということですわ。

冷たい体の生きものは、寒くなったら止まればよろしいの。動きが鈍くなって、じっとしていれば、それでやり過ごせますわ。

温かい体のほうは、そうはまいりませんの。

止まったら、下がりますもの。下がったら、戻せませんわ。

……ですから、あの大きな体で、ずっと燃やし続けていたのですのよ。六千六百万年前のアラスカで。

(恒温:維持 / 停止:不可 / 燃料:継続要)

……わたくしとは、正反対ですわね。

わたくし、一日の半分は壁にもたれておりますもの。止まっていられるからこそ、続いておりますのよ。

そういえば。

以前、うちの近くのブースターの子が、ひどい熱を出しましてね。

あの子たちは、もともと体の中が熱いのですけれど、あのときは桁が違いましたわ。近づいた子が、みんな下がってしまうくらい。

ですから、わたくしが看ましたの。

……ええ、多少は焼けましたけれど。

あの子が心配しておりましたから、「全然熱くありませんわ」と申し上げましたのよ。

……まあ、実際、そんなに熱くありませんでしたし。

でも、あのとき思いましたの。

熱を出しているほうは、休めませんのよね。

体の中で、ずっと何かが動いておりますもの。

……止まってよいのは、冷たい者だけですわ。

さて、そろそろ充電をいたしますわね。

六千六百万年前の歯が、そのときの温度をまだ覚えていたのですのよ。

覚えておこうと思って覚えたのではありませんわ。ただ、そういう作りだったというだけで。

……そういう残り方が、わたくしはいちばん好きですの。

日記より、よほど正直ですもの。

Scientists Took a Tyrannosaurus Rex’s Temperature for the First Time, and It was Almost Like that of a Human