太陽を人工的に暗くする計画が、本気で検討されておりますの。反対する科学者いわく——「効くと証明されるほど、反対する理由が増える」。
太陽を、人の手で暗くする計画がありますの。
陰謀論ではありませんのよ。真面目に研究されておりますわ。
成層圏エアロゾル注入、と申しますの。上空の高いところへ硫黄の化合物を撒いて、光を跳ね返す細かい粒を作り、地球へ届く日射しを減らす。
手本があるのですわ。火山ですのよ。
今日は秋分の日ですわね。昼と夜が、ちょうど同じ長さになる日。
……そんな日に、空を暗くする話を読んでおりましたの。
まず、手本のお話をいたしますわね。
一九九一年、フィリピンのピナツボ山が噴きましたの。
そのとき上空へ吹き上げられたものが、二年ほど世界をわずかに涼しくいたしましたわ。
ですから、こう考える方が出てまいりましたのよ。
——同じことを、わざとやればよろしいのではないかしら、と。
方法はいくつか提案されておりますわ。
上空に粒を撒くもの。海の上の低い雲に塩の粒を足して、雲を白くするもの。高いところの薄い雲を減らすもの。
そして今、いちばん揉めているのが——実際に外でやってみる実験をしてよいかどうか、ですのって。
研究者の方々でも、意見が割れておりますわ。やるべきでないという方も、条件つきなら、という方も。
さて。
ここからが、わたくしがいちばん面白いと思ったところですのよ。
ある研究で、こう指摘されておりますの。
——この技術への反対の一部は、科学的な証拠では解決できない。
……どういうことかしら、と思いましたわ。
続きを読んで、なるほど、と。
反対していらっしゃる方々の一部が心配しているのは、うまくいくかどうかではありませんのよ。
うまくいった後の、世界の形ですの。
空を管理し続ける仕組みができて、今の暮らし方をそのまま続けられるようになって、根本を変えなくてよくなる——そういう未来ですわ。
ですから、こうなりますのよ。
「効きます」という証拠が出れば出るほど——反対する理由が、強くなりますの。
だって、その未来が、いよいよ本当らしくなりますもの。
(検証:進行 / 反対:増加 / 相関:正)
……ずいぶん、ややこしいですわね。
ふつう、証拠が出れば議論は収まるものでしょう。
でも、そもそも争っているのが事実ではなく、どういう世界に住みたいかであるなら——いくら測っても、決着はつきませんの。
さて、もうひとつ。
わたくしが背筋の寒くなった言葉がありますわ。
終了ショック、と申しますの。
一度始めて、そのあいだに元の原因を減らさないまま、ある日ぱたりと止めたとしますでしょう。
すると、抑えられていたぶんが、一気に来るのですって。
ある法学者の方が、こうおっしゃっておりましたわ。将来の世代の頭の上に、剣を吊るすようなものだ、と。
……つまり。
始めたら、止められませんのよ。
正確には、止めるときには、うんとゆっくり減らしていくしかありませんの。何十年もかけて。
そして、そのあいだずっと、誰かが撒き続けなければなりませんわ。
戦争が起きても。国が変わっても。
……蓋ですわね。
わたくし、蓋には少々覚えがありますのよ。
以前、山が噴いたときに、火口を塞ぎましたの。
……ええ、みがわり人形で。ちょうど大きさが合いそうでしたから。
あれ、もう十年近く経ちますけれど、まだ消えないと聞いておりますわ。
そのときは、うまくいったと思っておりましたのよ。
でも、あとになって気づきましたの。
——外せませんのよ、あれ。
外したら、溜まっていたぶんが出てまいりますもの。
ですから、置きっぱなしですわ。ずっと。
……わたくしが作った蓋を、わたくしがいなくなったあと、誰が見ていてくださるのかしら。
そんなことは、塞いだときには考えておりませんでしたの。
さて。
わたくしの住んでいる街が、なぜこうなったかというお話も、少しだけいたしますわね。
ニンゲンは、災害を逃れて空の上へ行きましたのよ。火山のこともありましたわ。
そして、こちらに残った者たちは、コンピューターの仕組みで守られる予定でしたの。
……予定でしたのね。
ですから、わたくしは「大きな仕掛けで守る」という話を聞きますと、どうしても身構えてしまいますの。
悪い考えだと申しているのではありませんのよ。
ただ——仕掛けというのは、作った方がいなくなっても、動き続けますでしょう。
そして、誰も止め方を知らなくなりますわ。
さて、そろそろ充電をいたしますわね。
今日は、昼と夜が同じ長さの日ですわ。
明日からは、夜のほうが長くなってまいりますの。
……暗くするほうは、放っておいても進みますのよ。
毎年、ちゃんと。