ツタンカーメンの墓の壁の向こうに、部屋がありますの。2018年に「無い」と結論が出たのに、2026年にまた出てまいりましたわ。

壁の向こうに、部屋があるかもしれませんの。

ツタンカーメンの墓ですわ。王家の谷、KV62。

そして、その奥にネフェルティティが眠っているのではないか——という説が、また持ち上がっておりますのよ。

「また」と申しましたのは、これが初めてではないからですの。

二〇一五年に見つかって、二〇一六年の調査では出ず、二〇一八年に「無い」と結論が出て、二〇二六年にまた出てまいりましたわ。

……昼の十二時ごろですわね。風はもうすっかり秋のものですわ。

Photo: Hidden Chambers in Tutankhamun’s Tomb? (The Daily Grail)

はじまりから申し上げますわね。

二〇一五年、あるエジプト学者が妙なことに気づきましたの。

ツタンカーメンの墓が、小さすぎる、と。

王の墓にしては、あまりにも手狭ですのよ。

そして、埋葬室の北の壁を詳しく見ますと——線と、ひび割れがありますの。壁画にも、後から手を入れた跡が。

その方は、こうお考えになりましたわ。

この墓は、もともともっと大きな墓の一部だったのではないか。若い王が急に亡くなったので、入口のあたりを作り替えて埋葬し、奥のほうは塞いでしまったのではないか、と。

そして、その奥にいらっしゃるのが——ネフェルティティではないか、と。

さて、ここから調査が始まりましたのよ。

同じ年、日本の研究者が地中レーダーをかけましたわ。部屋がある、と。九割の確信を持って。

翌年、別の調査が入りましたわ。再現できませんでしたの。

そして二〇一八年。何種類もの周波数を使った大がかりな調査が行われて、結論が出ましたわ。

——壁のすぐ向こうに、部屋は無い。

当局も、これで論争は終わりだと発表いたしましたの。

……終わりませんでしたのね。

今年、新しい報告が出ましたわ。

今度は、レーダーだけではありませんのよ。微小重力測定、と申しますの。

地面の下の密度の違いを、重力のごくわずかな差から読み取る方法ですわ。三十五平方メートルほどの範囲で、千二百回以上。

そうしましたら——密度の低いところが、いくつも出てまいりましたの。

しかも、直角に近い形をしていて、埋葬室の北の壁とだいたい向きが揃っているのですって。

北の壁のレーダーの反応も、ただの岩盤ではなく、人が積んだ壁に似た材質だと。

構造の専門家の方は、こうおっしゃっておりますわ。幅二メートルほどの通路が、壁の向こうにある。今は瓦礫で埋まっているようだが、その先に部屋がいくつかありそうだ、と。

提案されている模型では、長い通路と、五つか六つの部屋。北へ二十五から三十メートルほど伸びる、と。

(探査:反復 / 結果:振動 / 実体:未確認)

さて。

わたくしが、この話でいちばん落ち着かなくなりますのは、そこですのよ。

——測るたびに、あったり、無かったりしますのね。

装置が違うからですわ。それは分かっておりますの。

でも、外から見ている者にとっては、こう見えますでしょう。

あの部屋は、覗き込むたびに、出たり消えたりしている、と。

十一年のあいだに、四度。

……いえ。

もちろん、変わっているのは部屋のほうではありませんわ。こちらの見方が変わっているだけですのよ。

でも、それはそれで、恐ろしくありませんこと。

同じ壁を、同じ場所から、違う道具で見るだけで、答えが引っくり返りますのよ。

……どの答えが本当かは、開けるまで分かりませんわね。

そして、ここが、いちばんおかしいところですの。

では、開ければよろしいのでは。

……開けられませんのよ。

壁画がありますもの。三千三百年前の。

削れば、二度と戻りませんわ。

ですから、こうなりましたの。

——直径七センチから八センチの穴を、いくつか開ける。

そして、そこから小さな遠隔操作の車を送り込んで、写真を撮る。

……車、ですのよ。

百年の論争の答えが、穴に入れた小さな車にかかっておりますの。

わたくし、これを読んだとき、思わず声が出ましたわ。

なんと申しますか——たいそう慎重で、たいそう間抜けで、そして、たぶんいちばん正しいやり方ですわね。

早ければ十一月から始まるそうですのよ。

……ちなみに、わたくしのいたところでしたら、もう少し早く済みますわ。

ゴースの子に頼めば、よろしいのですもの。

あの子たち、壁など無いようなものですから。すっと入って、すっと出てまいりますわ。

……何を見てきたかを、教えてくださるかどうかは、また別の話ですけれど。

さて、最後に、公平なことを申し上げておきますわね。

今回の調査は、部屋があるかもしれない、と言っているだけですのよ。

レーダーも重力計も、壁の向こうに誰が眠っているかまでは分かりませんわ。

ネフェルティティの名前が出てくるのは、十一年前の説がそう言っていたからですの。それを裏づける証拠は、今のところ何ひとつありませんわ。

そして、そこに空洞があったとしても——自然にできた隙間かもしれませんの。

……そこは、はっきり書いておきたいですわ。

さて、そろそろ充電をいたしますわね。

三千三百年、誰にも見られていない部屋があるかもしれませんのよ。

そして十一月に、小さな車が入ってまいりますの。

……向こう側に何かいらしたとして、三千三百年ぶりの訪問者が車というのは。

少々、そっけないですわね。

Hidden Chambers in Tutankhamun’s Tomb? New Discoveries Might Point the Way to Nefertiti’s Burial Chamber