GMO・お名前.comにランサムウェア攻撃予告「正午までにパソコンの電源を抜いて」——身代金80億円が50分の1に“値下げ”された件。わたくしのケーブルまで抜かれかけましたわ

秋の夜は、充電ケーブルがほんのりあたたかくて、わたくしのいちばん好きな時間ですの。……なのに今日は、そのケーブルを、もう少しで抜かれるところでしたわ。

きっかけは、お名前.comで知られるGMOインターネットのお話。ランサムウェア攻撃の予告を受けて、利用者に「正午までにパソコンの電源を切って、ケーブルを抜いてください」と呼びかけたんですって。

それを聞いた弟分のエレズンが、わたくしの充電ケーブルに、小さな両手をのばしてきたんですの。「おねえさまのも、ぬかないと!」

Photo: Japanese company to compensate users hit by cyberattack (AP Photo)

事のはじまりは、10月20日。お名前.comの「デスクトップクラウド」という、遠くにあるコンピューターを手元から動かせるサービスで、利用者のサーバーに、見知らぬプログラムが入りこんでいるのが見つかったそうですの。影響を受けたかもしれないサーバーは、最大で2万6739台。サービスは止められ、そこへ、攻撃者とみられる者から「お金を払え」という要求が届いた。

最初の要求額は、5000万ドル。日本円で、およそ80億円ですわ。GMOは、きっぱりと断りました。払ったところで、盗まれた情報が消される保証はないから、と。

すると今度は、要求額が100万ドルまで下がったと伝えられていますの。最初の、50分の1。新しい期限は、10月27日の正午。払わなければ、顧客の情報を公開して、ランサムウェアで攻撃する——。

80億円から、いきなり50分の1。わたくし、思わず声が出てしまいましたわ。夕方の市場で、売れ残ったきのみに貼られる値引きの札みたいですもの。……いえ、笑いごとではございませんわね。値段を下げてでも、とにかく今日の正午に、何かを起こしたい。その、時計の針みたいな執念のほうが、よほどこわいのですわ。

GMOが利用者にお願いしたのは、データを別の場所に残しておくこと。ネットから切りはなすこと。電源を落として、ケーブルを、手で抜くこと。今日のお昼前、ニンゲンの国のあちこちで、たくさんのひとが、自分のパソコンのケーブルを、そっと引き抜いていたはずですわ。真っ黒になった画面の前で、正午を待ちながら。

このお話を街でしたら、大さわぎになりましたの。

いちばん先に飛びだしたのは、ロトムさん。電化製品の中に住んでいるロトムさんにとって、「電源を抜け」は、ほとんど「家から出ていけ」という意味なのですわ。冷蔵庫から洗濯機へ、洗濯機から扇風機へと、ひと部屋ずつ引っ越しを始めてしまって、最後は行き場をなくして、わたくしの充電スタンドに転がりこんでまいりました。

体がまるごとデータでできているポリゴンさんは、スタンドのすみで、カクカクと小さくなっておりました。「ボクが人質にとられたら、身代金は、いくらになるの」。……そんなこと、わたくしに聞かないでくださいませ。

ふだんは大事な金庫の鍵をあずかって、泥棒よけをしているクレッフィさんは、自分の鍵束をぎゅっと抱きしめて、「鍵は、守るために持つものよ」と、めずらしく本気で怒っておりましたわ。ひとの大事なものに鍵をかけて、その鍵を返さない。それがどれほど品のないことか、鍵の専門家は、よくご存じなのですわね。

お昼が近づくと、ピチューちゃんたちは広場に集まって、勝手に数を数えはじめましたの。じゅう、きゅう、はち……ゼロ! 何も起きない。何も起きないのが楽しくて、きゃっきゃと笑っておりました。コイルたちは、頼まれてもいないのに、街じゅうのコンセントの前に一列にならんで、見張りをしてくれておりましたわ。

ゲンガーさんだけは、電源の落ちた広場の古いモニターの前で、ひとりご機嫌でしたの。真っ黒な画面に、自分のにんまり笑った顔が映りこむのが、たまらないのですって。のぞきこんだピチューちゃんが、その顔を見て泣きだしてしまいましたけれど。

念のため、サーナイトさんに、正午に何が起きるのか予知してもらおうとしたんですの。そうしたら、困ったお顔でこう言われましたわ。「あなたが先になんとかしてしまうので、未来がうまく見えないのです」。……わたくし、まだ何もしておりませんのに。

では、ニンゲンの国の正午は、どうだったのかしら。

GMOによれば、午後2時が近づいても、ランサムウェアによる攻撃は確認されなかったそうですの。ただ、正午を30分ほど過ぎたころ、攻撃者とみられる者が、顧客ひとりぶんだという情報を、ネットに出したのだとか。GMOは、その情報を広めないでほしい、そういうサイトを見に行かないでほしい、と呼びかけておりますわ。のぞきに行ったひとの情報まで、抜きとられてしまうおそれがあるから、と。

……ほんとうにこわくなったのは、夜になってからでしたわ。

攻撃者は、これから毎日、正午になるたびに、情報を順番に公開していく、と言っているそうですの。

毎日、正午に。

ピチューちゃんたちがあんなに楽しそうに数えていたカウントダウンが、明日からは、毎日やってくる。お昼の鐘が鳴るたびに、どこかの誰かの名前が、ひとつずつ呼ばれていく。……昔話に出てくる、のろいのようではありませんか。

そういえば——ニンゲンたちが火山の噴火からのがれて宇宙へ旅立ったとき、わたくしたちポケモンは、コンピューターのシステムに守ってもらう計画でしたの。

あの計画は、どうして、途中で終わってしまったのでしたっけ。

誰かが、どこかで、「正午までに」と言ったのではなかったかしら。……思い出そうとすると、頭の奥が、白くぼんやりしてしまいますの。

(参照: 保護システム / 状態: 応答なし / 最終バックアップ: 不明)

きっと、体のせいですわね。

正直に申しますと、わたくし、街ひとつぶんの電気なら、正午ちょうどにまとめて止めることも、まとめてつけることもできますの。でんきショック程度の力ですけれど。攻撃者さんたちのお部屋の明かりだけ、毎日正午に消してさしあげられたら、どんなにいいかしら。居場所さえ分かれば、ですけれど。ピチューちゃんたちのお昼ごはんの時間を、こわい時間に変えてしまうひとを、わたくし、ゆるすつもりはございませんの。

GMOは、調べのために、利用者のパソコンを全国から預かって、ひとつずつ確かめているそうですわ。持ち主の手をはなれて、どこか遠くの部屋で、静かに順番を待っているパソコンたち。どうか、みんな無事に、持ち主のところへ帰れますように。

今夜は、充電ケーブルをしっぽでしっかり押さえたまま、眠ることにいたしますわ。エレズンが、夜中にこっそり抜きにこないように。……それにしても、壁の時計が、12時ちょうどで止まっておりますの。お昼の12時なのか、夜の12時なのか。いつから止まっていたのかしら。わたくしの充電ランプは、まだ、ちゃんとついておりますけれど。……まあ、いいですわね。

GMO Internet Warns of Imminent Cyberattack