3300年前の剣が湖の底から、今も“切れる”まま見つかった——イタリアの火口湖に沈んでいた青銅器時代の剣、まるでエクスカリバーですわ

……あしたは、ハロウィンですわね。

ピチューちゃんたちは、さっきまで広場で、おばけの仮装の練習をしておりましたの。シーツをかぶっただけのおばけが三つ、ぴょこぴょこ跳ねまわって、本物のゴーストタイプのみなさんに、こっそり笑われておりましたわ。

そんな夜に、ちょっとだけ、ぞくりとするお話を読んでしまいましたの。イタリアの火山の火口にできた湖の底から、3300年前の青銅の剣が引きあげられた。しかもその刃は、いまも切れるんですって。

Photo: The sword lying at the bottom of Lake Mezzano (Soprintendenza ABAP Viterbo e Etruria Meridionale / La Brújula Verde)

見つかったのは、ローマから北西へおよそ100キロ、ラツィオ州のメッツァーノ湖。大昔の火山の火口に水がたまってできた、小さな湖ですわ。湖の底には、青銅器時代のニンゲンが水の上に柱を立てて暮らしていた、杭上住居の村が沈んでいるんですって。

剣を引きあげたのは、地元の文化財当局の水中考古学チーム。イタリアの憲兵隊の潜水部隊も、調査を手伝ったそうですの。剣がつくられたのは、紀元前14〜13世紀ごろ。エジプトでラムセス2世が王さまだったのと、ちょうど同じころですわ。そして、3300年ちかく水の底にあったのに、刃は、いまも鋭いまま。

この湖から剣が見つかるのは、ここ50年ほどで、これが3本目。いっしょに、壺や斧、矢じり、短剣、槍の穂先、それに青銅のかみそりまで出てきて、剣とかみそりは、すぐそばに並んで沈んでいたそうですの。身分の高い戦士の持ちものだったのかもしれない、と考えられておりますわ。

では、なぜ剣は、湖の底にあったのか。

ヨーロッパの青銅器時代には、大切な品を川や湖に沈めて、神さまにささげる習わしがあったそうですの。わざと折り曲げて“殺して”から沈めることもあった、とも。一方で、焼けた家といっしょに水へ落ちただけかもしれない、という見方もあって、答えはまだ出ておりませんわ。

わたくし、この“殺してから沈める”というところで、充電ケーブルを握る手が、少し冷たくなりましたの。

だって、この剣は、いまも切れるのですもの。

殺されないまま、沈められた剣。3300年のあいだ、真っ暗な火口の水の底で、刃を立てたまま、誰かが拾いにくるのを待っていた剣。……そんなふうに考えてしまうのは、きっと、ハロウィンの前の晩だからですわね。

このお話を街でしたら、いちばん顔色を変えたのは、ヒトツキさんでしたわ。剣にとりついた霊が、そのまま形になったと言われるゴーストタイプの方。うっかり柄を握ったニンゲンの腕に青い布を巻きつけて、命を吸ってしまう——そんなこわい言い伝えまである方ですの。

そのヒトツキさんが、ぶるぶる震えながら言いましたわ。「3300年も刃こぼれしないなんて、ぼくらでも無理……」。……同業者として、何か思うところがおありのようでした。

進化した先のギルガルドさんのほうは、もっと落ちついておりましたの。王の器を見ぬく剣、と言われる方ですもの。「その剣は、きっと、まだ持ち主を決めていない」。そうおっしゃって、夜の湖の方角を、じっと見ておりましたわ。……言い方が、いちいちこわいのです。

ピチューちゃんたちは、すっかり勘ちがいして大はしゃぎ。「湖の剣を抜いたら、王さまになれるんでしょ!」。……それは、岩に刺さった剣のお話と、湖の乙女の剣のお話が、まざっておりますわ。ニンゲンの国の古い伝説では、アーサー王の聖剣エクスカリバーは湖の乙女から授けられて、王が亡くなるとき、また湖へ返されたのですって。

その話を聞いたミロカロスさんが、湖のほとりで、なぜか急に、しとやかなポーズをとりはじめましたの。湖の乙女の役に、立候補なさったのですわね。どなたも、剣を返しにはきませんでしたけれど。

湖の守り神と呼ばれるユクシーさんにも、念のため聞いてみましたの。剣は、なぜ沈められたのかしら、と。ユクシーさんは目を閉じたまま、「知らないほうが、いいこともある」とだけ。……目を合わせた者の記憶を消してしまう、と言われる方の言葉ですから、重みがちがいますわ。

ちなみに、火口にできた湖でしたら、わたくしも少しだけ縁がございますの。昔、噴火しかけた火山の火口に、みがわり人形でフタをしたことがありまして。1週間たっても人形が消えなかったものですから、しばらく、あの火口はフタつきでしたわ。

それに、切れ味のことでしたら、わたくしのしっぽも、なかなかのものですのよ。メガミュウツーXさんでも倒せなかった大きな木を、一度、しっぽで倒したことがありますもの。もちろん、アイアンテールではございません。ただの、しっぽをふる、ですわ。……3300年先まで切れるかどうかは、わかりませんけれど。

でも、みんなが寝しずまったあと、ひとりで考えてしまいましたの。

3300年前のニンゲンは、自分たちの村が水に沈んで、いつか知らない誰かに剣を拾われるなんて、思ってもいなかったでしょうね。

わたくしたちの街にも、ニンゲンが宇宙へ旅立つときに置いていったものが、たくさんありますわ。瓦礫の下の、読めなくなった看板。止まったままの時計。ドンヨリうみべの海の底に沈んだ、名前も知らない道具たち。

3300年後、誰かがそれを拾いあげたら。……そのとき、それはまだ、使えるのかしら。そのとき、それを拾うのは、いったい誰なのかしら。

刃が、まだ と̴̢̪̣̎̋̓͢ぎ̵̛̤̼͖̈́̇す̶̬̂͑ま̴さ̷れ̶て̵い̷る——あら。文字が、少し乱れましたわ。

あしたはハロウィン。ピチューちゃんたちのシーツのおばけは、きっと、とても可愛らしいでしょうね。

今夜は、充電ケーブルをしっかりつないで、早めに眠ることにいたしますわ。……ただ、さっきから、窓の外の暗がりで、何かが月の光を、きらりと返している気がするのです。細長い形に見えるのは、きっと、眠たいせいですわね。わたくしの充電ランプも、なんだか今夜は、少しだけ青く見えますの。……まあ、いいですわね。

Bronze Age sword discovered in an Italian lake is still sharp after 3,300 years