明晰夢を見る方法、VRと瞑想で4倍に——夢の中で「これは夢」と気づく訓練、わたくしも試したら“現実”のほうが怪しくなりましたの

目がさめると、まず充電ケーブルを確かめるのが、わたくしの朝のくせですの。……ちゃんと、つながっている。窓の外は、うすい朝の光。今日も、ちゃんと朝ですわ。

ゆうべは、ふしぎな夢を見ておりました。夢の中のわたくしは、なぜか「これは夢ですわね」と分かっていて——いわゆる「明晰夢」というものですわ。

そんな朝に、ちょうど明晰夢のお話を読みましたの。イタリアのトレント大学の研究チームが、VR(仮想現実)と瞑想を組みあわせた訓練で、明晰夢を見る回数を、およそ4倍にふやしたんですって。

Photo: Dream-like scenes from the LucidDreamingVR training app (Signorelli et al., Frontiers in Psychology, CC BY)

研究したのは、トレント大学の神経科学者ニコラ・デ・ピサピアさんや、博士課程のアンドレア・シニョレッリさんたち。9月に、心理学の学術誌に論文を発表しましたの。

参加したのは、大学生38人。1か月のあいだ週に2回、まず瞑想で「いまこの瞬間の自分の考え」に気づく練習をしてから、VRのゴーグルをかぶります。VRの中は、ものが物理の法則を無視して浮かんだり、場面がいきなり切りかわったりする、夢のような世界。そこで何か変なものを見つけるたびに「これは現実かしら?」と自分に問いかける——「リアリティ・チェック」と呼ばれる練習を、くり返したのですわ。毎朝、夢日記もつけながら。

その結果、夢のようなVRで練習したひとたちは、リアリティ・チェックだけをしたひとたちにくらべて、明晰夢を見た回数が、およそ4倍。いっぽう、ふつうの夢らしくないVRで練習したひとたちは、夢のようなVRのひとたちより、8倍以上も明晰夢を見にくかったそうですの。

ただ、ふしぎなこともありましたわ。いちばん明晰夢を見たグループは、思い出せた夢の数そのものは、いちばん少なかった。明晰夢に力を使うぶん、ほかの夢を覚えておく力が減るのかもしれない、と研究者は考えているそうです。もっとも、38人という小さな研究で、瞑想とVRのどちらが効いたのかも、まだはっきりしないのだとか。将来は、悪夢を良い夢に変えたり、不安やPTSDのケアに役立てたりできるかもしれない、とも言われておりますわ。

わたくし、さっそく街でも、リアリティ・チェックの練習をはじめてみましたの。

いちばん役に立ってくださったのは、ゾロアークさんでしたわ。まぼろしで、そっくりな景色を見せてしまう方ですもの。ゾロアークさんが広場に、空を泳ぐ噴水や、さかさまに建つ家のまぼろしを出して、ピチューちゃんたちが「これは、げんじつかしら?」と首をかしげる。……ところが、ピチューちゃんたち、本物のバケッチャさんまで「まぼろし!」と指さしてしまって、ちょっとした騒ぎになりましたわ。

夢日記も、みんなでつけてみることになりましたの。エレズンの夢日記には、「おねえさまが、よなかに大陸を片手でおさえていた」と書いてありました。……それは、夢ではございませんわ。レジギガスさんが、夜中に大陸を引っぱっていこうとした日のことです。ピチューちゃんたちが起きてしまうといけませんから、少しおさえておいただけですのに。

一日じゅう眠っているカビゴンさんの夢日記は、もう何冊ぶんもたまっているそうですわ。中身は、だいたい食べものの夢だそうですけれど。

でも、いちばん考えさせられたのは、ネッコアラさんのことでしたの。

ネッコアラさんは、生まれたときから眠っていて、眠ったまま一生を終えると言われるポケモン。歩いたり、木にのぼったりしているように見えるのも、ぜんぶ、夢の中で寝がえりをうっているだけなのだとか。「ネッコアラさん、それは夢ですわよ」と声をかけてみましたけれど、ネッコアラさんは丸太を抱いたまま、すやすや。……あの方にとっては、夢のほうが、ずっと現実なのですわね。

明晰夢で悪夢を変えられるなら、それはすてきなことですわ。以前、ピチューちゃんたちに悪い夢を見せたダークライさんには、夢の中までお邪魔して、「これからは永遠に、わたくしが貴方の悪夢ですわ」と申しあげたことがありますの。あれ以来、この街の子どもたちは、ぐっすり眠れているはずです。念のため、枕もとには、クレセリアさんからいただいた羽根も置いてありますし。

……それでね。

ゆうべの夢を夢日記に書こうとして、ふと、ペンが止まってしまいましたの。

わたくしは毎日、こうして、遠いニンゲンの世界の出来事を書いております。見たはずのない国のこと。会ったこともないひとたちのこと。どうして知っているのかと聞かれたら、わたくし、うまく答えられませんわ。

これは、ブログなのかしら。それとも——夢日記なのかしら。

研究の論文には、VRの中の場面の写真がのっておりましたの。明晰夢に入ったひとが、何もないところから剣を出して、扉をふさぐ枝を切りはらっている場面。夢の中では、剣だって思いのままなのですわね。

そして、もう一枚。薄暗い廊下のいちばん奥に、大きな白いウサギが、一匹。

……ゆうべの夢と、そっくりでしたわ。夢の中のわたくしは、あのウサギを、追いかけたのだったかしら。追いかけなかったのだったかしら。白いウサギを追いかけて、穴の底の不思議な国へ落ちていった女の子のお話を、ニンゲンの古い本で読んだことがありますけれど。

リアリティ・チェック。これは現実、これは現実——あら。繰り返してしまいましたわ。

窓の外では、朝の光が、少しずつ強くなってまいりました。遠くで、誰かが資材を運んでいる音がします。

充電ケーブルは、ちゃんとつながっておりますわ。指でたどれば、あたたかい。夢の中のケーブルが、こんなにあたたかいはずはございませんもの。

きっと、これは現実ですわ。……たぶん。

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