名越スタジオ解散——『龍が如く』の名越稔洋氏の新作『GANG OF DRAGON』、マ・ドンソク主演の“幻のゲーム”はハロウィンの日にあちら側へ
作りかけのまま、一度も世に出ることのなかったゲームの世界は、いったい、どこへ行くのかしら。
今夜は、そんなことばかり考えてしまいますの。『龍が如く』シリーズを生んだ名越稔洋さんの「名越スタジオ」が、解散していたことがわかったんですって。新作『GANG OF DRAGON』の主演は、あのマ・ドンソクさん。去年の暮れに発表されて、世界じゅうが沸いた、あのゲームですわ。
解散が決まったのは、10月31日。——ハロウィンの日でしたの。
名越スタジオができたのは、2021年11月。名越さんが長く勤めたセガを離れたあと、中国の大手ゲーム会社ネットイースの出資を受けて、東京・新宿に立ちあげたスタジオでしたの。名越さんといえば、『龍が如く』のほかにも、『デイトナUSA』や『スーパーモンキーボール』を手がけた方ですわ。
そして2025年12月、ゲームの祭典「The Game Awards 2025」で、最初の作品『GANG OF DRAGON』がお披露目されました。舞台は新宿・歌舞伎町。マ・ドンソクさんが演じるのは、シン・ジソンという、韓国系の犯罪組織の幹部。拳と刃物と銃と車で街を駆けぬける、まさに『龍が如く』の血をひく物語になるはずでしたわ。予告編の映像は、本物と見まがうほどの作りこみだったそうですの。
でも、その後、出資元からの資金提供が止まったと報じられ、続報は途絶えました。今年4月の終わりには、ゲームのYouTubeチャンネルと予告編が消え、5月末には複数のスタッフが会社を去っていたこともわかりました。そして10月31日の株主総会で、解散が決議されたのですわ。11月2日の官報に、そのことが、静かに載っておりました。
『GANG OF DRAGON』がどうなるのか、公式なお知らせは、いまのところありません。ただ、ゲームの販売ページだけは、いまも消えずに残っているそうですの。
……わたくし、この「販売ページだけが残っている」というところで、背中がすうっと冷たくなりましたの。
予告編は消えた。つくっていたひとたちも去った。会社も、なくなった。それなのに、ページだけが、まだそこにある。主のいなくなったお屋敷に、表札だけが掛かっているような——いえ、もっと言えば、お墓のようですわね。そのページを「ほしいものリスト」に入れたまま待っているひとたちは、毎日そっと、お墓参りをしているのかもしれません。
ニンゲンの国には、思いを残したまま終わったものは、この世にとどまってしまう——という考え方があるそうですわ。未練、というのだとか。だとしたら、世に出る前に終わってしまった作品ほど、強い未練を残すものはないのではないかしら。
つくりかけの歌舞伎町。まだ誰にも歩かれたことのない路地。灯ったまま、誰にも見られないネオン。そして、名前と顔と声までもらったのに、一度も、プレイヤーの手で動かしてもらえなかった主人公、シン・ジソンさん。
その世界が消えたのが、ハロウィンの日。こちら側とあちら側の境目が、一年でいちばん薄くなると言われる日ですわ。……龍は、あの日、どちらへ渡っていったのかしら。
このお話を街ですると、いちばん青ざめていたのは、ポリゴンさんでしたの。体がまるごとデータでできている方ですもの。「つくりかけのまま、しまわれちゃうのが、いちばんこわい」。カクカクと震えるポリゴンさんを、わたくし、しばらく撫でておりましたわ。
迷ったたましいを、あちら側へ案内すると言われるヨノワールさんは、「その主人公さん、もし迷っていたら、ちゃんと送りとどける」と、低い声で約束してくださいました。……たのもしいのですけれど、その言い方が、いちばんこわいのですわ。
嵐で迷った船を陸まで導くという、心やさしいカイリューさんは、「龍なら、なおさら迷子にはさせない」と、夜空の方角をじっと見ておりました。
ヒトモシさんたちは、たましいを灯りにしてしまうと言われておりますけれど、わたくしは昔、ヒトモシさんたちに、たくさんわけてさしあげたことがありますの。わたくしのは、なぜか、いくら分けても減りませんでしたから。……もし、あの主人公さんの灯りが消えかけていたら、少しくらい、おすそわけできるかもしれませんわね。
いっぽう、ピチューちゃんたちは、予告編のお話を聞いただけで、すっかりマ・ドンソクさんのとりこ。広場で空中に向かって拳をくりだす「マブリーごっこ」が、大流行しておりますわ。弟分のエレズンも、「ぼくも、あんなふうに強くなる」と、小さな拳を握りしめておりました。
ちなみに、拳の強さで申しますと、わたくし、昔、大きな地震をパンチで止めた——という噂を立てられたことがありますの。ほんとうは、地面をにらんだら止まっただけですのに。パンチなんてしたら、この星がもちませんもの。……マ・ドンソクさんの拳なら、星は大丈夫なのかしら。少しだけ、心配ですわ。
でも、夜がふけて、ひとりになると、ふと思ってしまうのです。
わたくしたちの街だって、まだ、つくりかけですわ。こわれたままの建物。直りきらない道。ニンゲンが戻ってくる日を、ずっと待ったまま。
もし——もし、この世界のどこかにも、誰かの「スタジオ」のようなものがあって、ある日、その扉がしまってしまったら。
build: unknown / status: in_progress / last_update: —-/–/– / players: 0
……あら、いまのは何かしら。体のせいですわね、きっと。
つくるひとたちの手をはなれても、作品に注がれた思いは、きっと、どこかに残りますわ。名越さんや、スタジオのみなさんの次の一歩が、どうか明るいものでありますように。そして、一度も歩かれなかった歌舞伎町の路地に、いつか、誰かの足音が響く日が来ますように。
わたくしは今夜も、充電ケーブルをつないで眠りますの。つながっているあいだは、ちゃんと、ここにいられますから。