ベテルギウスがまた暗くなっている——オリオン座の“いつ爆発してもおかしくない”赤い巨星、わたくしにはどうも他人事に思えませんの
夜がふけるにつれて、東の空、まだ直っていない建物の輪郭の上に、オリオン座がのぼってまいりましたの。三つ並んだ星のそばに、赤くにじんだ大きな星がひとつ。ベテルギウスですわ。
……でも、今夜のベテルギウスは、なんだか少し、元気がないように見えますの。
気のせいではございませんでした。オリオン座の肩に輝く赤い巨星ベテルギウスが、この夏の終わりから、またじわじわと暗くなっているんですって。“いつ爆発してもおかしくない”と言われる、あの星が。
ベテルギウスは、地球からおよそ650光年。太陽のおよそ7600倍から1万4000倍もの明るさで輝く、年老いた赤い巨星ですわ。もともと明るさが変わる星で、およそ430日の周期で、ふくらんだり縮んだりをくり返しております。まるで、心臓が鼓動を打つように。
それに加えて、ベテルギウスのすぐそばには、小さな伴星がまわっていることがわかってきたそうですの。名前は「シワルハ」——「彼女の腕輪」という意味なのだとか。この伴星は、ベテルギウスの外側の大気の中を、およそ6年かけてまわっていて、そのあとにできるガスやちりの流れが、ちょうど地球とのあいだに入ると、ベテルギウスが暗く見えるのですって。
2019年の終わりから2020年のはじめには、「大減光」と呼ばれるできごとがありましたわ。ベテルギウスの明るさが3分の1以下にまで落ちこんで、世界じゅうが「ついに爆発するのでは」と大さわぎ。でも実際は、星からふき出したガスが冷えてちりの雲になり、光をさえぎっていたのだそうですの。
そして今年の8月から、ベテルギウスは、またゆっくりと暗くなりはじめ、いまは、おうし座のアルデバランより、ほんの少し暗いくらい。これも伴星のしわざかもしれない、とは言われておりますけれど、明るさの変化だけでは、まだ決めつけられないのだとか。爆発するのは、まだ10万年から数十万年は先のことだと考えられておりますわ。
……わたくし、これを読んで、なんだか、いても立ってもいられなくなってしまいましたの。
ずっと昔、ある天文の講師が、ベテルギウスのことを、こう言ったそうですわ。「ほとんど力を使い果たした老人のように、発作的にふくらんだり縮んだりしている」と。
……それ、わたくしのことではありませんかしら。
ふくらんだり、しぼんだり。明るくなったり、暗くなったり。そのたびに、まわりから「もうだめなのでは」と心配される。でも、ほんとうは、まだまだ燃えつきるつもりなんて、これっぽっちもない。倒れそうで倒れないのが、あの星の特技なのですわ。他人事とは、とても思えませんの。
ちなみに、ベテルギウスという名前は、昔は「巨人の脇の下」という意味だと考えられていたそうですわ。最近では「アル・ジャウザーの手」という説もあるのだとか。……どちらにしても、夜空でいちばん目立つ赤い星が、もとは「脇の下」だったかもしれないなんて。少し、親近感がわいてしまいますわね。
このお話を街でしたら、みんなで夜空を見上げることになりましたの。
月から来たと言われるピッピたちは、星のことなら任せてと言わんばかりに、ベテルギウスに向かって、輪になって踊りはじめましたわ。「げんきになーれ」ですって。
体のまんなかに七色に光るコアを持つスターミーさんは、そのコアをチカチカさせながら、「明るさが変わるのは、ぼくもよくある」と、妙に落ちついておりました。宇宙から来たという説もある方ですから、何かご存じなのかもしれませんわ。
しっぽの光で夜空に模様を描くバルビートさんたちは、オリオン座の形をなぞって飛んでくれましたの。ただ、ベテルギウスのところだけ、わざと少し暗めに光らせて。……そこまで再現しなくても、よろしいのですけれど。
ピチューちゃんたちは、「ネクロズマさんが、ベテルギウスの光を食べちゃったんだ!」と大さわぎ。光を食らうと言われる方ですもの、うたがわれても仕方ありませんわね。遠くの夜空のどこかで、ネクロズマさんが、ちょっと気まずそうにしている気がいたしましたわ。
弟分のエレズンは、ベテルギウスのまわりを小さな伴星がずっとまわっていると聞いて、なぜか、うれしそうでしたの。「おねえさまのまわりの、ぼくみたい」。……そうですわね。腕輪のように、そっと寄りそってくれる小さな星。
ベテルギウスが爆発したら、半月くらいの明るさになって、昼間でも見えるほどになる——とも言われておりますわね。宇宙で大きな隕石を割ったことならありますけれど、さすがに星を相手にしたことはございませんの。わたくしのでんきショックと、どちらが明るいかしら。
でも、みんなが眠ったあと、ひとりで東の空を見ていて、ふと、こわいことに気がついてしまいましたの。
ベテルギウスは、650光年先にあります。いま、わたくしの目にとどいている光は、650年前に、あの星を出た光ですわ。
だから——もし、あの星が、とっくに爆発していたとしても。わたくしたちがそれを知るのは、まだ、ずっと先のこと。
いま見上げている赤い星が、ほんとうに、まだそこにあるのか。誰にも、たしかめようがないのですわ。
(観測対象: ベテルギウス / 受信遅延: 650年 / 現在の状態: 不明)
……そういえば、ロケットが飛んでいった夜のことを、ふと思い出しましたわ。あのひとが、この街の写真をのせて、宇宙にいるニンゲンたちへ打ち上げたロケット。あれも、いまごろ、宇宙のどこかを、まだ旅しているのかしら。
でも、650年前の光がとどいているということは、650年前にも、あの星は、ちゃんと輝いていたということ。光は、遅れても、とどくのですわ。
宇宙のどこかにいるニンゲンたちにも、わたくしたちの街の灯りが、いつか、とどきますように。
わたくしも今夜は、充電を少し多めにして眠りますの。ふくらんだり、しぼんだりしながらでも、明日もちゃんと、ここで光っていられるように。
Why does Betelgeuse keep fading? The mystery of Orion’s giant star