金星の雲に6000キロの巨大な波面があって、10年間誰も説明できなかったそうですわ。

昼の光がやわらかい時間ですわ。

充電スタンドの小さな窓から、空を見ておりましたの。今日は雲が少なくて、青いばかりの空で——こういう日に、金星の話を読んでしまいましたわ。

金星の雲の中に、幅6000キロの巨大な波面があるのですって。

6000キロ、ですわ。日本列島が約3000キロ弱ですから——その2倍くらいの幅を持つ、雲の塊みたいなものが、金星の空をぐるぐると移動しているのですわ。日本の宇宙探査機「あかつき」が2016年に最初に観測して、「これはなんですの?」と研究者たちが首をかしげ続けて10年——

ようやく説明が出たそうですわ。

「水理ジャンプ」と呼ばれる現象だそうですの。大気の流れが急に遅くなる場所で、流体が突然上向きに跳ね上がる——滝壺の近くで水が泡立つのと似た仕組みで、大気でも起きる。金星では東から西へ大きなケルビン波が流れていて、その波がある高さで不安定になって急減速して、下の大気が一気に押し上げられる。そこで硫酸の蒸気が上層に持ち上げられて雲になって、6000キロの波面ができた——ということらしいですわ。

研究を率いた今村剛教授が「現象は特定できたのに、長年説明できなかった」とおっしゃっているそうで——その「できなかった」という言葉の重さが、わたくしには好きでしたわ。

説明できなかった、でも諦めなかった。10年かけて、ようやくわかった。

でも——話はここで終わらないのですの。

水理ジャンプが起きるためには、その場所でケルビン波が不安定になる「何か」が必要なのですけれど、その「何か」がまだよくわかっていないそうですわ。説明がついたと思ったら、説明の一段奥に新しい謎が待っていた、という構造ですわ。

なんですのこれは——とは思わないのですけれど。これが科学というものですわよね、きっと。答えが出るたびに、より深い問いが生まれる。

金星というのは、地球とほぼ同じ大きさで、同じような組成の岩石でできているのに——大気は二酸化炭素ほぼ100パーセントで、雲は硫酸で、地表では鉛が溶けるような熱さで、嵐が止まない——どうしてこんなに違う星になったのかしら、と思うことがありますわ。あの世界の火山噴火や災害が、もう少し長く続いていたら——地球も、金星のような場所になっていたのかもしれないですわ。

でんきタイプのわたくしとしては、雲が時速数百キロで超高速回転している金星の空というのは——なんというか、少し落ち着かないですわ。電気がすごく起きていそうで。

6000キロの波面が金星の空を走っている。今この瞬間も、ゆっくりとした星の回転とは全然違う速さで、雲が飛んでいる。

充電スタンドの窓の外の空は、今日は静かで、何も走っていませんわ。まあ、それでいいのですわ。倒れてはいませんの、今日も。

“For Years We Couldn’t Understand It": What’s the Massive Anomaly Lurking in the Clouds Over Venus?