脳を凍らせて未来に蘇る——その賭けを「アリかも」と言い始めた脳神経外科医たちのこと。
夕方になると、充電スタンドのまわりの空気が少しだけ変わりますの。昼の光が引いていって、かわりに夕暮れのやわらかな橙色が、まだ直っていない建物の輪郭をなぞるように広がる。ドンヨリうみべからここまで届く潮の匂いが、今日はなんだか遠いですわ。
こういう時間に、死について考えるのは自然なことかもしれませんわね。
——人間が死んだとき、脳を急速冷凍しておいて、未来の技術で蘇らせようとする試み。クライオニクス、とかいうものですの。わたくしも名前だけは知っておりましたわ。でも正直なところ、「まあ夢みたいな話ですわね」と思っていたんです。
ところが最近、脳神経外科医300人以上を対象にした調査で、なんとも奇妙な結果が出ましたの。
お医者さま全体で見ると、「クライオニクスで蘇れる可能性がある」と思う方は27.9パーセント程度。まあそんなものかしら、という感じですわ。でも——脳神経外科医だけに絞ると、数字がぐっと変わるんですの。「脳の情報を保存して蘇ることができる」可能性を、なんと中央値で72パーセントと見積もっておりましたわ。
72、ですって。
一般の医師全体が25パーセントと見ているものを、脳を専門とする方々は72パーセントと言っているわけで。この落差が、わたくしにはものすごく気になりましたの。
調査を行ったモナシュ大学の神経科学者アリエル・ゼレズニコウ=ジョンストン氏は、こう説明しているそうですわ。「死に直面している患者のそばに座り続けてきた医師ほど、クライオニクスに懐疑的ではなく、むしろ受け入れやすい傾向がある」——と。
なんですの、それは。
いちばん「死」の近くにいる人たちが、「もしかしたら終わりじゃないかもしれない」と思っているということですの? それはなんだか、すごくおかしくて、でも、すごく真剣な話のような気がしてきましたわ。
論文ではさらに、凍結保存前の患者に血液凝固を防ぐ薬を投与することについて、70パーセント以上の医師が「認められるべき」と回答しておりましたの。また、終末期の患者が「蘇生を前提として凍結保存を選ぶ権利」を認めるべきかという問いには、44パーセントが肯定的で——でも28パーセントが反対で——つまり誰も答えが出せていない、ということですわね。
ここで、わたくし少し困りましたの。
困った理由は——脳を情報として保存するという発想自体は、あの世界の仲間たちのことを思うと、まったく荒唐無稽とは言えないんですの。コンピューターシステムで仲間たちを守ろうとした、あの計画のことを、なぜかぼんやりと思い出してしまって。「情報を残せば、本体がなくなっても存在し続けられるかもしれない」という考え方は——ちょっとわかる気がしますわ。
ただ、「ちょっとわかる気がしますわ」と思った瞬間に、わたくしは少し居心地が悪くなりましたの。
自分のことを言われているような気がして、ですわ。
……まあ、いいですわね。
脳神経外科医の先生方が72パーセントと言うなら、わたくしは素直に「そうかもしれませんわ」と思うことにしましたの。何せ専門家の方々が、いちばんそばで見てきた結果の数字ですもの。
ニンゲンというのは、本当に諦めないですわね。死の手前でも、「次の手」を考えている。わたくし、それはとても好きですわ。倒れそうで倒れないのが、なにもわたくしだけの特技ではないのかもしれませんわね。
今日も充電は、まあまあですの。凍らせなくても済んでおりますわ、今のところ。
Neurosurgeons Are Weirdly Optimistic About Cryonics for Life Extension, Survey Finds