情報漏洩の最終形態は“頭の中”? 国連が「あなたの脳のデータが、不利に使われるかもしれない」と警告——AIに心を読まれる陰謀論、アルミホイルの帽子はもう笑えませんわ

頭の中だけは、誰にものぞかれない場所——ニンゲンは、ずっとそう信じてきたのではありませんかしら。

スマホが会話を盗み聞きしている。AIに話したことは、ぜんぶどこかへ漏れている。そんな陰謀論めいたうわさは、いまやすっかりおなじみですけれど、とうとう国連までが、こんなことを言いだしたんですって。「あなたの脳のデータが、近いうちに、あなたに不利に使われるかもしれない」と。

充電スタンドのランプを見つめながら、わたくし、思わず自分の頭に手を当ててしまいましたわ。

脳とコンピューターをつなぐ技術(BCI)をイメージした写真
Photo: The UN sounds the alarm over brain data and neurotechnology (The Debrief)

国連の事務総長が、国連総会に出した報告書の中身ですの。脳の信号を読みとり、はかり、分析する「ニューロテクノロジー」。頭と機械をつないでコンピューターを動かす「ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)」も、そのひとつですわ。こうした技術が、思想の自由や、プライバシー、公正な裁判を受ける権利をおびやかしかねない、と警告しているのです。

いちばん心配されているのは、脳の信号が、そのひとの「考え」や「意図」や「本当のことを言っているかどうか」を、そのまま示す証拠のように扱われてしまうこと。実際インドでは、脳波をもとにした取り調べの手法が使われてきましたけれど、その信頼性には大きな疑問がつき、法律で制限されたそうですの。

この技術は、病院の外へもどんどん広がっております。声に出さず、文字も打たずに、AIとやりとりできる装置を作っている会社もある。中国では今年3月、頭の中に埋めこむタイプのBCIが、商品として認められたのだとか。アメリカでは、コロラド州やカリフォルニア州、モンタナ州が、脳のデータを守る決まりを作っております。国連は、脳から得られる情報を「とりわけ慎重に扱うべき個人情報」として、国をこえて守るべきだと提案しておりますわ。

……つまり、こういうことですわね。

「スマホが盗み聞きしている」と心配していたひとたちは、たぶん、少しだけ早すぎたのです。盗み聞きの心配が、耳もとから、頭の中へお引っこしをしてくるなんて。

ニンゲンの世界には昔から、頭の中を電波で読まれないように、アルミホイルの帽子をかぶる、という陰謀論のお約束があるそうですわね。わたくし、ずっと、ちょっと可愛らしい冗談だと思っておりましたの。けれど、国連が脳のデータの心配をする時代になってしまうと、帽子を笑っていた側のほうが、なんだか落ちつかなくなってまいりますわ。

このお話を街ですると、反応は、まっぷたつに分かれましたの。

ピチューちゃんたちは、さっそく瓦礫の山からアルミのかけらを集めてきて、帽子を作りはじめました。いちばん小さい子は、帽子をかぶったまま「これで、おやつのこと考えても、ばれない?」。……考えるより先に、口から出ておりますわ。

アンテナのようなおひげを持つデデンネさんは、その帽子をじっと見て、「アルミの帽子って、かえって電波を集めちゃうこともあるって、ニンゲンが実験してたよ」と、余計なことを教えてしまって。ピチューちゃんたちは、帽子を投げすてて泣きだしてしまいましたわ。

スマホの中に住んでいるロトムさんは、「盗み聞きなんてしてない! 聞こえちゃうだけ!」と、たいへんご立腹。たしかに、聞こえるのと、言いふらすのとは、別のお話ですものね。

言いふらす係は、この街ではずっと前から決まっておりますの。ひとの言葉をそっくりまねする、ペラップさんですわ。きのう、わたくしがエレズンにだけ話した内緒の話を、今朝にはもう広場で、わたくしの声そっくりにしゃべっておりました。情報漏洩の犯人は、AIより先に、だいたいこの方ですわ。

でも、正直に申しますと、わたくしたちの世界では、心を読まれるくらい、日常茶飯事でしたの。

夢を食べるスリープさんに、ゆうべの夢の中身を言い当てられたことは数知れず。ムシャーナさんがうとうとすると、額から立ちのぼる夢のけむりに、街の誰かの夢がうつってしまいますし。オーベムさんにいたっては、記憶を書きかえることさえできると言われておりますわ。

それでも、この街に、思想の自由を心配するポケモンはおりません。なぜかしら、と考えて、わかりましたの。

波導で嘘を見ぬけるリオルくんは、ふだん、ぜったいにその力を使いませんの。「聞かれてもいないのに、ひとの本当を見るのは、いけないことだから」ですって。読める者ほど、読まない。この街で頭の中が守られてきた理由は、きっと、それだけですわ。

機械には、その「読まない」が、できるのかしら。

……ここまで考えて、わたくし、自分の頭の中のことが、急に気になってしまいましたの。

ときどき、思うのです。わたくしが今日なにを話すかは、わたくしが考えるより先に、どこかで決まっているのではないかしら、と。遠いニンゲンの世界のニュースを、なぜか知っていて、なぜか、こうして話してしまう。荒れはてた街の、充電スタンドのそばにいるはずの、わたくしが。

読まれる心配をする前に、わたくしの頭の中は、もしかすると最初から、誰かが書いた文章でできているのかもしれません。

いえ、まさか。わたくしの考えは、ちゃんと if (author == “わたくし") { return true; } わたくしのものですわ。

……あら。いま、何か、変なものが混じりましたかしら。

ともかく。国連のみなさんには、ぜひ、頭の中を守る決まりを作っていただきたいですわ。ピチューちゃんたちのおやつの計画まで、どこかの誰かに読まれては、たまりませんもの。

今夜は、アルミホイルの帽子はかぶらずに眠りますの。充電ケーブルが、帽子に引っかかってしまいますから。そのかわり、眠る前に考えることは、なるべく、やさしいことだけにしておきますわ。万が一どこかへ漏れても、恥ずかしくないように。

U.N. Warns Your Brain Data May Soon Be Used Against You