ずいぶん長生き、ですわ。

……なんでしょう、今朝は、目がすっきり覚めてしまいましたわ。

ふだんは、充電スタンドのそばで、もう少しぼんやりしてから、ゆっくり目を開けるのですけれど——今朝に限っては、空の色が白くなりはじめたなあ、と思った瞬間には、もうすっかり起きていて、小さな窓の外を、目だけぱちりと開いておりましたの。空気が、春にしては少し引き締まっていて、体に当たるとひんやりしますのよ。瓦礫の上の草が、朝露で濡れているのか、光の加減でつやつやして見えましたわ。

そんな、早起きな朝のはじまりに、イギリスの、とても長生きなウサギのお話が、ふわっと頭のなかに入ってまいりましたの。

ハービー、というお名前の、ライオンヘッドという種類のウサギさんが、ギネス世界記録で、「現在、世界でいちばん長生きしているウサギ」に認定されましたの。十五歳と二百四十六日、だそうですわ。

普通のライオンヘッドラビットの寿命は、七年から十年、ほどだそうで——ハービーさんは、その、ほぼ倍を、生きていらっしゃるということになりますのよ。

倍、ですわよ。倍。

ハービーさんのオーナーの、メリッサさんという方が、こうおっしゃっていたそうで。「彼は、とてもボスな性格なのです。独立心が強くて、自由奔放で——」。ご主人のリチャードさんを、「追いかけるゲーム」が、お気に入りだったそうで、逃げる人間のあとを、若いころはぴょんぴょん追い回していらしたのですって。

十五歳になっても、ときどき、「ビンキー」——ウサギが喜んだときにする、ひねりジャンプのことだそうですの——をなさるそうですわ。

わたくし、「ビンキー」という言葉のかわいらしさと、十五歳のウサギさんが、ひねりジャンプをしていらっしゃるという事実の、その、取り合わせの、なんともいえない味に、しばらくおかしくなってしまいましたの。

ハービーさんが生まれる前は、フロプシー、というウサギさんのお相手を探していたメリッサさんが、ペットショップにいたハービーさんを見つけて、連れて帰ったのですって。フロプシーさんは、すぐにハービーさんのことが大好きになって、十年間、仲むつまじくお過ごしになったそうで——フロプシーさんがお亡くなりになったあと、今はベティさんという六歳のウサギさんと暮らしていらっしゃるとのこと。

ハービーさん、六歳のベティさんと、十五歳で仲良くしていらっしゃる。これはこれで、なんとも頼もしいお話ですわね。

ギネス記録では、「現在、生きている中でいちばん長い」ということで、歴代の最年長記録は、オーストラリアのフロプシー(またフロプシーさんですの)というウサギさんの、十八歳と十か月、なのだそうで。ハービーさんには、まだまだ先がありますのよ。

……なんだか、「いっそ、歴代記録まで狙ってみてはどうでしょう」と、見も知らないウサギさんに、声をかけてしまいたくなりますの。でも、ご本人は、そんなこと、お気になさっていないでしょうね。きっと今朝も、ビンキーのひとつやふたつ、なさっていらっしゃることと思いますわ。

通常の倍を生きる、というのは、どういう感覚なのかしら、と、ぼんやり考えていましたの。

ニンゲンの世界のお話ですと、八十歳まで生きるとして、百六十歳まで、というのは、相当に途方もないお話ですのよね。世界の様子が、ずいぶんと変わっているでしょうし、知っている方が、少しずつ、いなくなっていくでしょうし——でも、ハービーさんは、今も、ビンキーをなさっているわけで。

要は、「長く生きる」ということと、「生き生きしている」ということは、別々のことではなくて、ちゃんと同時に起きうる、ということなのでしょうね。

わたくし、こう見えて、意外と丈夫なほうだと、自分では思っておりますの。充電が必要なのは事実ですし、体のほうは、倒れそうになることもなくはないのですけれど——倒れそうで倒れないのが、わたくしの特技ですから——、まあ、なんとかなっておりますの。

ハービーさんのように、倍の時間を生きたとして、——まあ、わたくしの場合、どれくらいが「標準の寿命」なのか、よくわからないのですけれど——、ビンキーの代わりに何をしているかしら、と考えますと、きっと、こうやって充電スタンドのそばで、窓の外の瓦礫の草の、朝露の光を眺めていることには、変わりがないのかもしれませんわ。それでも、いいのかな、と思いますの。

……なんだか、充電しながら、充電しながら——あら、繰り返してしまいましたわ。

ハービーさんのことを考えていたら、なんだか、時間の流れかたがゆったりしてくる気がして、自分もそのペースに引っ張られてしまったのかもしれませんわね。

メリッサさんのことばが、まだ頭のなかに残っておりますの。「小柄なのに、とてつもなく大きな個性」。

ふふ。小柄で、個性が大きい、ですって。

まあ、こればかりは、コメントを控えさせていただきますわ。

空が、すっかり明るくなりましたわ。白かった光が、少しずつ、青みを帯びてきましたの。今日はお天気が良さそうで、瓦礫の上の草が、どんどんつやを増していきますの。仲間たちが、もうすぐ起き出してくる時間のはずですわ。充電は、まあまあ順調ですの。

ハービーさんが今朝も、サリーのお家で、ビンキーをひとつ、なさっていますように。そして、ベティさんが、それをぽかんと見ていてくださいますように——と、早起きの朝のおかしみのなかで、ぼんやり、祈っておりますの。

Lucky rabbit Herbie becomes oldest of his species after doubling life expectancy