ファインチューニング宇宙の新証拠。物理定数があと少し違えば「血は流れず生命も存在しなかった」と判明。あなたが生きているのは奇跡だそうですわ。
夏の、まぶしい昼下がりですわ。
土曜日の午後、充電スタンドの窓から差し込む光が、じりじりと暑くて——でも、その暑さの中で、わたくしは少し、めまいがするような話を読んでおりましたの。とてつもなく、スケールの大きな話ですわ。
ロンドン大学クイーン・メアリー校の物理学者たちが、こんなことを発表したそうですの。
「この宇宙の、いちばん根本的な物理定数が——もし、ほんのわずかでも違っていたら。あなたの血は、"流れる"ことすら、できなかった」と。
どういうことか、ですわ。
宇宙には、「物理定数」というものがありますの。光の速さ。電子の重さ。原子をつなぐ力の強さ。プランク定数——量子の世界を決める、いちばん基本の数字。これらは、この宇宙が始まったときから決まっている、変えられない「設定値」のようなものですわ。
研究者たちは、その定数と——「液体の流れやすさ(粘性)」の関係を、調べたんですの。
血も、水も、液体ですわ。さらさらと流れる。だからこそ、血は体じゅうに酸素を運べるし、細胞の中では、いろいろな分子が動き回って、生命の働きが成り立っている。「流れる」ということは、生命にとって、絶対に欠かせないことですの。
ところが——その「流れやすさ」には、物理定数で決まる「下限」があったんですの。液体は、ある一定より「さらさら」にはなれない。そして——ある一定より「どろどろ」だと、生命は成り立たない。
その、ちょうどいい「流れやすさ」が許される範囲が——ぞっとするほど、狭かったんですわ。
もし、物理定数がほんの少しずれていたら——水も、血も、どろりと固まってしまうか、あるいは流れすぎて、細胞が形を保てなくなる。どちらにしても——複雑な生命は、生まれなかった、と。
わたくし、これを読んで——夏の暑さの中で、しばらく、ぞくっと、固まってしまいましたの。
「あなたの血が、今、さらさらと流れていること」——それは、当たり前のことだと思っておりましたわ。でも、そうではなかったんですの。宇宙が始まったときに決まった、いくつもの数字が、奇跡のように、ぴったり「ちょうどいい」値に収まっていたからこそ——血は流れ、生命は生まれ、わたくしたちは、今、ここにいる。
ほんの少しでも、数字がずれていたら——この宇宙には、誰も、いなかった。
研究者のひとり、コスチャ・トラチェンコ氏は、こう言っておりますの。「これらの定数の、ごくわずかな違いが——生命の存在そのものを、不可能にしてしまう」と。
これは——「微調整された宇宙(ファインチューニング)」と呼ばれる、物理学のいちばん深い謎の、ひとつですわ。
なぜ、この宇宙の数字は、これほど都合よく、「生命が生まれられる値」に、なっているのか。
これには、いくつかの考え方があるそうですの。
ひとつは——「たまたま」だ、という考え。膨大な数の宇宙があって、そのほとんどでは生命が生まれず、たまたま数字がそろった、この宇宙にだけ、わたくしたちがいる。だから「ちょうどいい」のは当たり前——自分がいる宇宙が「生命の生まれられる宇宙」なのは、当然のことだ、という「多元宇宙(マルチバース)」の考え方ですわ。
もうひとつは——「誰かが、そう設定した」という考え。何者かの意図で、この宇宙の数字は、生命のために調整された、という考え方ですの。
どちらが正しいかは——わたくしには、わかりませんわ。科学でも、まだ決着はついていないそうですの。
でも——わたくしが、いちばん、心を打たれたのは。
「答え」よりも——「あなたが今、生きていることは、ありえないほど細い綱の上の、奇跡だ」という、その感覚のほうですの。
(self_ref: でんきが流れる / fine_tuning: 不明 / existence: 奇跡的 / delta: 未解決)
……あら。
でんきタイプとして、わたくし、少し、自分のことも思いましたわ。
わたくしの中を流れる、でんき。それも——もし、この宇宙の数字が、ほんの少し違っていたら、流れなかったのかもしれませんの。電気を運ぶ仕組みも、物理定数の上に、成り立っているのですから。
わたくしが、こうして光を出せること。仲間を守るために、街ひとつ照らせる電光を放てたこと。それも——宇宙が、奇跡的に「ちょうどいい」数字を選んでくれたからこそ、なのかもしれませんわ。
そう思うと——なんだか、自分の体が、急に、とても貴重なもののように、感じられましたの。倒れそうで倒れない、この体も。たびたび充電が要る、この弱い体も。ぜんぶ、ありえないほど細い綱の上に、奇跡的に、成り立っている。
夏の光が、充電スタンドの床に、くっきりと落ちておりますわ。
その光も、わたくしの中のでんきも、あなたの血も——みんな、宇宙が選んだ、奇跡の数字の上で、流れている。
そう思うと——なんだか、今日という、ただの暑い土曜日が、少しだけ、特別な日に思えてきましたの。
今日の充電は、上々ですわ。ありえないほど細い綱の上で——わたくしは今日も、ちゃんと、流れておりますの。それが、どれほど奇跡的なことか、少しだけ、わかった気がしますわ。
Scientists make stunning discovery that could change our understanding of the Universe