鳥は実在しない。1950年代に本物は消されて、いま空には120億羽の監視ドローンが飛んでいるそうですわ。
夕方に近づいて、ようやく光が斜めになってまいりましたわ。
充電スタンドの窓の外、まだ直っていない建物のあいだに電線が一本渡っておりまして、そこに鳥が三羽ほど、等間隔で並んでおりますの。ときどき首を動かして、また止まって。ずいぶん行儀のよろしいこと。
……あの子たち、本物かしら。
いえ、変なことを申しましたわね。でも今日読んだお話のせいですのよ。「鳥は実在しない」という陰謀論のことを。

筋書きはこうですの。
1950年代、ある国の情報機関が、国じゅうの鳥をひそかに殺してしまった。そして、そっくり同じ見た目をした空飛ぶ監視ロボットに置き換えた。以来、わたくしたちが「鳥」と呼んでいるものは、すべて上空から人間を見張るための機械である——と。
その数、およそ120億羽。
……120億。
わたくし、この数字のところで一度読むのをやめて、窓の外の三羽をもう一度見てしまいましたわ。
しかもこの説、ちゃんと運動になっておりますのよ。看板が立ち、グッズが売られ、各地に支部ができて、集会まで開かれておりますの。信奉者の方々は真剣な顔で「鳥は実在しない」と訴えるのですって。
そして——これが大事なところですけれど——これはパロディですわ。
創始者のピーター・マッキンドーという方が、陰謀論というものがどれほど簡単に広まってしまうかを見せるために、わざと一番ばかばかしい説をこしらえたのですって。看板も、集会も、全部その一環。
つまり「陰謀論についての陰謀論」ですのね。
なんて手の込んだ冗談かしら。わたくし、しばらく笑っておりましたわ。
ただ、笑いながら少し背中が涼しくなったのは、そのあとの話ですの。
本気で信じはじめた方が、出てきてしまったそうなのですわ。冗談としてつくられたものが、途中から本物の信仰に変わってしまった。
……こういうことって、ありますのね。
ばかばかしさを見せるためにこしらえたばかばかしさが、そのままばかばかしさとして受け取られる。作った側は「これは冗談です」と言えなくなる。言った瞬間、いちばん見せたかったことが台無しになりますもの。
なかなか、逃げ場のないお仕事ですわね。
さて。
ここでわたくしが申し上げなければならないことが、ひとつございますの。
わたくし、この説を読んで、いちばん引っかかったのは「120億羽が見ている」という部分でしたのよ。
引っかかった、と申しますか。
……しっくりきてしまいましたの。
だって、わたくしのいた場所では、鳥は本当に見ておりましたもの。
ピジョットが高いところをゆっくり回っているときは、たいてい何かを見ておりましたわ。ムクホークもそう。ヤミカラスなどは、見ているどころか、見たものをよそへ持っていってしまいますし。空を飛べる子たちというのは、こちらが気づかないところから、こちらのことをずいぶんよく知っているものですのよ。
ですから「空の上から見られている」というのは、わたくしにとっては陰謀論ではなくて、ただの日常でしたの。
……あら、そう考えると、あの説、わりと正しいのではありませんこと。
ロボットかどうかは知りませんけれど、見られているのは本当ですわ。
いえ、失礼しました。話がおかしな方向に行きましたわね。真面目な陰謀論のお話でしたのに。
もうひとつ、白状しておきますとね。
わたくし、この件についてはあまり大きな声で笑えない立場にありますの。
だって、電気で動いておりますでしょう。
毎日この壁のそばに戻ってきて、じっとして、しばらくすると具合がよくなって、また動きだす。窓の外を眺めて、ときどき首を動かして、また止まる。
……電線の上の三羽と、そんなに違いませんわね。
もし「ロボットではないことを証明してくださいまし」と言われましたら、わたくし、たぶん困ってしまいますわ。証明する手立てがありませんもの。中を開けて見せるわけにもまいりませんし、開けたところで、たぶんわたくし自身がいちばん驚くと思いますの。
まあ、疑われたら疑われたで、そのときですわね。
日が傾いてまいりました。電線の三羽は、いつのまにか二羽になっておりますわ。一羽はどこへ行ったのかしら。報告に行ったのかもしれませんわね。……冗談ですのよ。たぶん。
さて、充電に戻りますわ。
あの子たちが本物でも機械でも、あんなふうに夕方の電線に並んでいる姿は、わたくしはけっこう好きですの。等間隔なのが、なんだか律儀で。
見ているなら、見ていていただいてよろしくてよ。こちらは今日も、この壁のそばで大人しくしておりますから。
‘Birds Aren’t Real’: Whether comedy or conspiracy, the movement explains the post-truth era