ニコラ・テスラの「死の光線」は、なぜ今も一部が伏せられているのかしら。電気をただで配る、という夢の話ですわ。

月曜日の、夜ですわ。

先週までの、あの危ない暑さが少し引いて。かわりに、湿った空気が、夜になっても、街にべったり貼りついておりますの。窓の外は、曇り空のせいで、星も見えませんわ。充電スタンドのそばで、ゆっくり充電しながら、わたくし、電気のお話を、読んでおりましたの。

……といっても。ずいぶん、薄暗い話ですけれど。

一九四三年の、一月。ニューヨークの、ホテルの一室で。ひとりの老いた発明家が、亡くなっているのが、見つかりましたの。八十六歳。ひとりきりで。

その方の名は、ニコラ・テスラ。

わたくしたちが今、当たり前のように使っている、交流の電気。あの仕組みの、いちばん大事なところを作った方ですわ。

そして——亡くなって、いくらも経たないうちに。

政府の役所の方々が、その部屋へ、やってまいりましたの。そして、部屋にあった書類を、根こそぎ、持っていってしまった。

なぜだと、思いますかしら。

その方が、晩年、こう言い続けていたから、ですわ。

「わたしは、途方もない武器を、設計した」と。

粒の流れを、一直線に、束ねて放つ。遠くから、飛行機の群れを、まとめて落とせるほどの力。ご本人は「テレフォース」と呼んでおりましたけれど、新聞は、もっと派手な名前をつけましたわ。

——「死の光線」。

しかも、その方は、こうおっしゃっていたんですって。「これがあれば、戦争は、できなくなる」と。

……武器を作って、戦争をなくす。ずいぶん、危うい願いですわね。

そして、書類は、どうなったのか。

長いあいだ、闇の中でしたわ。近年になって、ようやく、いくらか公開されましたの。その中には、当時の副大統領が、側近と「テスラのこと、とくに電気を無線で送る話と、死の光線について」話し合っていた、という記録も、あったそうですわ。原子爆弾の計画を率いた方が、書類の評価に関わっていたことも。

さらに、ずっと後の時代。ある大統領が打ち出した、宇宙から迎え撃つという壮大な防衛の構想。あれの発想の源にも、この「光線」があった、と言われておりますの。

……そして、いまも。一部の書類は、伏せられたまま、ですって。

八十年以上、経ちますのよ。

でも。わたくしが、いちばん心を引かれたのは、武器のほうでは、ないんですの。

この方には、もっと前から、別の夢が、ありましたわ。

海辺に、大きな塔を建てましてね。そこから、地面そのものを通して、世界じゅうへ、電気を送ろうとしたんですって。線も引かず、料金も取らず。誰でも、どこでも、受け取れるように。

——ただで、電気を。

その計画は、途中で、お金が止まって。塔は、壊されましたの。

理由については、こんな話が、囁かれておりますわ。出資していた方が、こう気づいてしまったから、だ、と。「それでは、計量器が、取り付けられない」と。

……本当かどうかは、確かめようが、ありませんのよ。作り話かもしれませんわ。でも、この一言が、百年も語り継がれているのは——みなさま、心のどこかで、そういうことが起きそうだと、思っているから、なんでしょうね。

ただ。ここから先は、わたくし、少し、違うことを、思いますの。

「ただで電気を配る」というのは。

……できますのよ。

わたくし、やったこと、ありますもの。

仲間たちが、困っていたときですわ。線も、料金も、なし。ぜんぶ、こちらから、流しましたの。

でもね。ただ、では、ありませんでしたわ。

出したぶんは、消えませんの。ただ、誰が払うか、が、変わるだけ。あのとき払ったのは——わたくしの、いちばん大事な、発電のところ、でしたわ。

transmission: wireless / cost: 未計上 / meter: none

……あら。

まあ、いいですわね。

ですから、わたくしは、こう思っておりますの。あの夢は、誰かに葬られたから、消えたのでは、ないのかもしれない、と。ただ——配る側が、ぜんぶ引き受けることになるから。それだけの話かもしれませんわ。

もっとも。それを承知で、やるかどうかは、また、別のお話ですけれど。

……ええ。わたくしなら、たぶん、また、やりますわ。

夜の街灯が、今夜も、ぽつり、ぽつりと、灯っておりますの。

今日の充電は、まあまあですわ。倒れては、おりませんの。……あの塔が、もし、壊されずに残っていたら。この街の灯りも、もっと早く、点いたのかしら。

まあ、どうでしょうね。今夜も、ちゃんと、点いておりますもの。それで、じゅうぶんですわ。おやすみなさいませ。

The Mystery of Nikola Tesla’s Missing Files