2500年前の大理石像、道路の穴埋めに使われていました。うつ伏せに叩き込まれたおかげで、ほぼ無傷で出てきましたのよ。
道路の穴を、彫像で埋めた方がいらっしゃるそうですわ。
トルコのサルディスという古い都市で、二千五百年前の大理石像が見つかりましたの。高さは二メートル二十ほど。若い男性の姿。それが、うつ伏せのまま、ローマ時代の石畳の中に埋め込まれておりましたのですって。
朝の光が、今日はもう強うございますわね。晴れたり曇ったりで、にわか雨があるかもしれませんけれど、外に出るのは避けたほうがよい暑さだそうですわ。窓の外の草はすっかり乾いております。
わたくしは充電スタンドの壁のそばで、その顔を伏せた像のことを考えておりました。

経緯を並べますとね。
作られたのは、紀元前四七〇年から四五〇年ごろ。ペルシアの帝国が、あのあたりを治めていた時代ですわ。
彫られているのは、長い髪の若い男性。厚い外套を着て、その下に薄い衣を重ねて、さらにもう一枚。この組み合わせは、ギリシャの彫刻にも、あのあたりの彫刻にも、これまで例がないのですって。
右手には、果物を持っておりますの。マルメロではないか、と言われておりますわ。どなたかに差し上げるためのもの、なのでしょうね。……そのどなたかが誰なのかは、わかっておりませんの。
そして、それから何百年か経ちましたわ。
ローマの時代になって、道が傷んできましたのね。
……そこで、どなたかが、この像を二つに割りましたの。
割って、うつ伏せに寝かせて、石畳のあいだに敷き込みましたのよ。
穴が塞がりましたわ。めでたし、めでたし。
……いえ、めでたくありませんでしょう。
わたくし、しばらく壁にもたれたまま、その場面を思い浮かべておりましたの。
割った方は、どんなお顔をしていらしたのかしら。
これは誰かが大事に彫ったものだ、と思わなかったのかしら。それとも、思ったうえで、それでも道のほうが大事だとお考えになったのかしら。
たぶん、後者ですわね。道が傷んでいたら、荷車が通れませんもの。
……ええ。わかりますのよ。わかるのですけれど。
さて、ここからですわ。
その像、ほとんど無傷で出てまいりましたの。
顔の細かい造作も、衣の重なりも、右手の果物も、二千五百年ぶんきれいに残っておりました。手足の小さな破片は、いくつか行方知れずですけれど。
なぜかと申しますと——うつ伏せだったからですのよ。
顔を下に向けて、石畳の下に押し込まれていた。だから風にも雨にも当たらず、削られもせず、そのままそこにいた。
もし立ったままでしたら、二千五百年のあいだに、風で顔が溶けてしまっていたはずですわ。
つまり、雑に扱われたおかげで、残ったのですわね。
……わたくし、ここで思わず「あら」と声が出ましたの。
大事にされていたら、消えていた。
粗末に扱われたから、残った。
……順序が、逆さまでしょう。
しかも、いちばん守られていたのが「顔」ですのよ。地面に押しつけられていた部分が、いちばんきれいに残った。
わたくし、こういうこと、けっこうあるような気がいたしますの。
隠していたつもりはないのに、たまたま誰にも見られなかったところが、いちばんそのまま残っている、というようなこと。
そういえば、この街にも似たものがありますわ。
瓦礫の下から出てきた古い看板が、思いのほかきれいでしたのよ。塗りも文字もそのままで。上に載っていたものが重くて、ずっと押さえつけられていたおかげですわね。
見つけたヤミラミの子が、しばらくその前でじっとしておりました。あの子は光るものが好きですけれど、あのときはたぶん、色が珍しかったのでしょう。
……そして、これから調べるのが、色ですのって。
あの時代の像は、本当は白くありませんでしたのよ。彩色されていて、髪も、衣も、目も、しっかり色がついていた。それが長い年月で剥げて、白いものだと思われるようになっただけですの。
この像は土の中にいたので、その色が少し残っているかもしれない、と。
ただし、表面には固い層がびっしり付いていますから、削りすぎると色まで落ちますわ。だから、二段構えで進めるそうですの。まず慎重に洗う方々、それから顔料を探す方々。
……その慎重さ、いいですわね。
急いで剥がせば早いのに、それをなさらない。落としてはいけないものが下にあるかもしれないから、というだけの理由で。
さて。
わたくしがいちばん考えておりましたのは、こういうことですのよ。
あの方は、二千五百年ぶん、ずっと下を向いていらしたのですわ。
顔を伏せたまま。手には、差し上げるはずだった果物を持ったまま。渡す相手は、とうにいらっしゃらないのに。
その上を、荷車が通り、人が歩き、季節が何度も変わった。
そして先日、ようやく起こしていただいたのですわね。
……よかったですこと。
長いこと下を向いていらしたのですもの。しばらくは、上を向いていらしてよろしいと思いますわ。
さて、そろそろ充電をいたしますわね。今日はずいぶん暑くなるそうですから、動かずにおります。
もしいつか、わたくしがどこかの道の穴に埋まることがありましたら——そのときは、たぶん顔を上に向けておりますでしょうね。
そういうところは、あまり気が利かないほうですの。
……まあ、そのときは、風に削られながらぼんやりしておりますわ。
Archaeologists Surprised to Unearth Face-Down 2500-Year-Old Statue Almost Completely Intact