エステス・メソッドの十年。目隠しとヘッドホンで霊と話す「実験」は、なぜ一度も失敗しないのかしら。
目隠しをして、ヘッドホンをかけて、霊と話す方法がありますの。
エステス・メソッド、と申しますわ。二〇一六年に、アメリカのホテルの心霊ツアーで考案されましたのよ。
理屈は、こうですの。
ラジオの周波数を高速で行き来する「スピリットボックス」という装置がありますわ。そこから聞こえる断片を、霊の声だとする道具ですの。
でも、質問と答えを同じ人が聞いておりますと、当てはめてしまいますでしょう。
ですから——聞く人に、質問を聞かせないことにしましたのよ。
……ずいぶん、まっとうな発想ですわね。

段取りを申し上げますわね。
受け手の方が、目隠しをいたしますの。そしてヘッドホンをかけて、スピリットボックスの音だけを聞きますわ。
外では、別の方が声に出して質問なさいますの。
受け手には、その質問が聞こえませんのよ。
そして、聞こえてきた断片を、そのまま口に出しますわ。
もし、聞こえていないはずの質問と噛み合った言葉が出てきたら——
……それは、偶然では説明がつかない、ということになりますわね。
理屈としては、悪くありませんのよ。
耳を塞ぐという、たいそう単純な方法で、思い込みを一つ取り除こうとしていらっしゃるのですもの。
さて。
この方法を、十年にわたって追いかけていらした方がおりますの。
もとは幽霊を追いかけていた側で、今は法心理学を学んでいらっしゃる方ですわ。
その方が今月、十年ぶんの経過をまとめていらっしゃいましたのよ。
……なかなか、こたえる内容でしたわ。
まず、目隠しでは取り除けないものがありますの。
受け手の方は、目隠しをする前に、その場所の話をご存じですでしょう。
どんな幽霊が出るとされているのか。どんな事件があったとされているのか。
……それは、耳を塞いでも消えませんわ。
さらに、ご自分が直前に口にした言葉が、次に聞こえるものを引っぱりますのよ。
一度「母」と言ってしまったら、そのあとは母に関わる音が聞こえやすくなりますの。
これは気のせいではありませんわ。
曖昧な音を聞かせる実験で、「これは心霊現象の録音です」と先に伝えておくだけで、声が聞こえたという報告が増えることが確かめられておりますの。
……先に枠を渡されると、そこに嵌まる形が見えてまいりますのね。
ですから、受け手の方は嘘をついていらっしゃらないと思いますのよ。
本当に、聞こえていらっしゃるのですわ。
さて、ここからが今回のいちばん重たいところですの。
十年のあいだに、この方法は広まりましたわ。
そして——中身のほうが、抜け落ちましたのよ。
今では、キットとして売られておりますの。
アメリカでは百三十九ドル九十五セント。イギリスでは九十九ポンドほど。目隠しと、ヘッドホンと、装置が一式。
観光の催しにもなっておりますわ。使い捨ての目隠しを配って、お土産に録音をお持ち帰りいただけるのですって。
そして、やり方も枝分かれいたしましたの。
危ないから目隠しは外してよい、という案内。
「あまり出ないときは、装置の走査の速さや帯域を変えるとよい」という助言。
……あの。
出るまで条件を変える、というのは。
さすがに、まずいと思いますのよ。
受け手を二人以上に増やす形も出てまいりましたわ。
そうしますと、別々の雑音の断片が、たまたま噛み合うことがありますでしょう。
それを「二人の霊が会話している」と読み解くのですって。
……増やせば増やすほど、噛み合う組み合わせは増えますわね。
その方は、こうおっしゃっておりましたわ。
——実験らしい見た目のほうが、実験の中身より長く生き残った、と。
目隠しをして、大きなヘッドホンをかけて、「受信者」と呼べば、それらしく見えますでしょう。
でも、何が起きたら成功で、何が起きたら失敗なのかを、誰も決めていないのですって。
……失敗の条件が無い、というのが、いちばん効きますわね。
失敗できないものは、必ず成功いたしますもの。
(判定基準:未設定 / 結果:常に肯定 / 続行)
そして最後に、その方は面白いことをおっしゃっておりましたのよ。
この界隈では、同じことが何度も起きているのだ、と。
電磁波を測る道具が持ち込まれたときも、そうでしたわ。
最初は、環境を測るために使われましたの。
でも、しばらくすると——「はい」なら光らせてください、という道具になりましたのって。
……何を持ち込んでも、最後にはこっくりさんになりますのね。
さて。
ここからは、わたくしの感想ですわ。
わたくし、これを馬鹿にする気には、まったくなれませんの。
だって、目隠しをして、暗い建物の中に座って、雑音を聞き続けるのでしょう。
……こわいですわよ、それ。
そして、そこで何かを聞いてしまう。
自分の口から、聞いたはずのない言葉が出てくる。
……それは、たいそう恐ろしい体験ですわ。
たとえ、出どころが自分の頭の中だったとしても。
いえ、そのほうが恐ろしいかもしれませんわね。
外から来たものでしたら、帰っていただけますもの。
内側から出てきたものは、帰りませんでしょう。
……そちらは、ずっと一緒にいるのですわ。
そして、わたくしがいちばん静かに震えましたのは、その方の最後の一行ですの。
——この方法の欠点は、うまくいかない原因ではない。あの体験を成り立たせているもの、そのものである。
……ええ。
曖昧だから、聞こえますのよ。
決めていないから、当たりますの。
つまり、直せば直すほど、何も起きなくなりますわ。
さて、そろそろ充電をいたしますわね。
もしどこかで目隠しをして座ることがありましたら、ひとつだけ。
始める前に、決めておいてくださいまし。
——何が出てきたら、何も無かったことにするのか、を。
それを決めずに座りますと、たぶん、何かが出てまいりますわ。
……毎回。