アメリア・イアハート失踪の謎、“機体の残骸”の正体は木だった——太平洋の孤島ニクマロロは89年、秘密を手放さない
……探しものが、どうしても見つからない夜って、ありますわね。
1937年、世界一周飛行のとちゅうで、太平洋のまんなかに消えた飛行士、アメリア・イアハート。その愛機の「残骸」かもしれない、と言われていたものが、南の島の入り江で見つかっていたんですの。この10月、研究チームがはるばる確かめに行ったら——近くで見たそれは、どうやら「木」だったそうですわ。
夜も遅くなって、充電スタンドのまわりはすっかり静か。ケーブルの先の温かさを感じながら、わたくし、このお話に、笑えばいいのか、しんみりすればいいのか、ずいぶん迷ってしまいましたの。

イアハートさんは、大西洋をひとりで飛んで渡った、最初の女性飛行士。航法士のフレッド・ヌーナンさんとふたりで世界一周の最後の大きな区間を飛んでいるとき、太平洋の上で消息を絶ちました。その飛行機は、アメリカのパデュー大学の財団がお金を出したもので、旅を終えたら、大学に帰ってくるはずだったんですって。
帰ってくるはずだった飛行機。89年たった今も、大学のひとたちは、それを探しつづけているんですの。
有力とされているのが、ニクマロロという、輪っかの形をしたサンゴの島に不時着して、ふたりはそこで取り残された、という説。長い年月のあいだに、島では人の骨や、いろいろな品物が見つかっていて、当時の海軍や沿岸警備隊が記録した、無線の電波がやってきた方角も、その説を後押ししているそうですわ。
そして2020年の衛星写真に、その島の入り江で、妙な形のものが写りこんでいた。「タライア・オブジェクト」と名づけられたそれこそ、イアハートさんの飛行機ではないか——。17人の調査隊が、10月6日にキリバスのタラワを出発し、島の近くで7日間、そのうち4日間は上陸して調べたんですの。
ところが、着いてみると、写真に写っていたものの多くは、もう崩れて波に流されていて、残っていたのはY字の形をした一部分だけ。写真で見たより、ずっと小さかった。結論は、大きな木がいくつも寄り集まったもの、だったそうですの。
鋼の筒など、いくつかの品物は見つかったそうですけれど、決め手にはならなかった。隊のひとりは、こう語っていたとか。「島は秘密を抱えたままで、いまも手放そうとしない」。
このお話を街でしたら、まず、ウソッキーさんが妙にそわそわしはじめましたの。ウソッキーさんは、木のふりをするのが得意な方ですもの。「写真では飛行機に見えたものが、近くで見たら木だった」と申し上げたら、「木に見えるのは、こっちが一生懸命だからだ」と、なぜかむきになっておりましたわ。わたくしの街では、むしろ逆のことがよく起こりますの。木だと思って寄りかかったら、ウソッキーさんだった、ということが。
南の島で暮らしていたという背の高いナッシーさんは、「空の上から見たら、自分も飛行機に見えるかもしれない」と、首をうんと伸ばして、翼のように葉っぱを広げてみせてくださいましたわ。……たしかに、少しだけ、見えなくもありませんでしたの。
ピチューちゃんたちは、「みつからないなら、まだどこかで、とんでるのかも」と言いましたわ。わたくし、何も言えませんでした。
カイリューさんは、ずっと黙って聞いておりましたの。海で溺れたひとや、迷った船を助けると言われる方で、地球をわずか16時間ほどで一周できるとも言われておりますでしょう。世界一周に挑んだひとが、海の上で消えたお話は、きっと、誰よりも胸にこたえたのだと思いますわ。帰りぎわ、カイリューさんは「その海、少しだけ見てくる」と言って、夜の空へ飛んでいきましたの。
ちなみに、わたくし、深い水はあまり得意ではございませんけれど、以前、エレズンが海の底に落としたふしぎなアメを、ひと息で潜って拾ってきたことがございますの。浅かったですわ。……ええ、浅かったことに、しておいてくださいまし。
でも、探しものが見つからないのは、海が深いからではないのかもしれませんわね。
ひとりになってから、ふと、あの「無線の方角」のことを考えてしまいましたの。
誰かが、輪っかの形の小さな島から、電波を送っていたのかもしれない。世界のどこかで、それを受けとったひとたちが、方角を書きとめていた。届いてはいたのに、間に合わなかった。
電波というのは、電気の仲間ですから、わたくし、少しだけ他人事ではありませんの。声が届いているのに、誰も来てくれない夜の長さを想像したら、背中が、すうっと冷たくなりましたわ。
それに、帰ってくるはずだったものが、帰ってこないお話は、どうしても、あの世界のニンゲンたちのことと重なってしまいますの。宇宙へ出ていったひとたちも、いつか帰ってくるはずだと、わたくしたちは、なんとなく信じておりますもの。
島は、秘密を手放さない。それでも、探しつづけるひとがいる。89年たっても。
それは、きっと、怖いことではなくて、とてもやさしいことなのですわね。
今夜は、充電スタンドのそばの街灯を一本だけ、海のほうへ向けて灯しておきますわ。迷った誰かの、目印になるように。充電は六割ほど。少し減ってしまいますけれど、かまいませんの。カイリューさんが帰ってくるまで、わたくしも、もう少しだけ起きておりますわ。
Amelia Earhart search team says object in satellite image was likely trees, not plane wreckage