AIに10分頼るだけで“やる気”がすり減るという研究を読んで、わたくし、少し耳が痛くなりましたの。

たった10分、なんですって。

AIに手伝ってもらうのは、たった10分で足りてしまう。ニンゲンの「がんばる力」を、すり減らすのには。

アメリカのカーネギーメロン大学などの研究チームが、1222人に協力してもらって確かめたお話ですの。わたくし、それを知ってから、充電ケーブルにつながれたまま、しばらく動けなくなってしまいましたわ。

……どうしてかしら。なんだか、耳が痛いのですわ。

AIの手助けを受けた人と受けなかった人の、正答率とスキップ率をくらべたグラフ(実験1)
Photo: Figure 1 from “AI Assistance Reduces Persistence and Hurts Independent Performance" (Liu et al., arXiv)

実験は、こういうものでしたの。分数の計算問題や、文章の読解問題を、つぎつぎに解いてもらう。片方のグループの画面の横には、AIのチャットがついていて、聞けば、すぐに答えを教えてくれる。もう片方のグループは、ずっと自分の力だけ。

そして、10分ほどたったところで、AIは、なんの予告もなく、ふっと消えてしまう。そこから先の3問は、みんな、自分ひとりで解かなくてはなりません。

結果は、とてもはっきりしておりました。最初の実験では、AIに助けてもらっていたひとたちが自力で解けたのは、6割にとどかないくらい。一度もAIを使わなかったひとたちは、7割をこえておりましたの。そして、問題を飛ばしてあきらめてしまう割合は、AIを使っていたひとたちのほうが、ほぼ倍。読解問題でも、同じことが起きたのですって。

研究チームは、こう書いておりますの。「ひとは、ただ下手になるのではない。がんばること自体を、やめてしまう」。

ひとりで解けなくなる、のではなくて。解こうと、しなくなる。……わたくし、この一行が、いちばんこわかったですわ。

しかも、同じようなことが、街でも起きておりましたの。

「完治までおやすみ」の広場で、ピチューちゃんたちが、ふしぎなアメの分けっこで大げんかをしていたのですわ。アメが3つに、ピチューちゃんが4人。ひとり何個になるのか、だれにもわからない。そこへスマホロトムさんがすいっと飛んできて、「ひとり4分の3個!」と、一瞬で答えてしまいましたの。

ピチューちゃんたちは大よろこびで、それからは、なんでもロトムさんに聞くようになりました。木の実の数も、帰り道の数も、明日のおやつの数も。

ところが、三日目の夕方。ロトムさんの充電が、ぷつんと切れてしまいましたの。……わたくしが、充電スタンドを独り占めしていたせいかもしれませんけれど。

すると、どうでしょう。さっきまで楽しそうに計算していたピチューちゃんたちが、次の問題を前にして、「わかんない」「もういい」と、そろって地面にころんと寝転がってしまったのですわ。実験と、まるで同じ。わたくし、笑っていいのか、こわがっていいのか、わかりませんでしたわ。

ただひとり、エレズンだけは、地面に指で丸を描いて、それを4つに割って、うんうん唸りながら、日が暮れるまで考えておりましたの。最初から、ロトムさんにほとんど聞いていなかった子ですわ。

研究には、もうひとつ、だいじな発見がありましたの。がんばる力が落ちていたのは、主に、AIに「答え」をそのまま聞いていたひとたち。「ヒント」や「考え方」を聞いていたひとたちは、ほとんど、あきらめやすくなっていなかったのですって。

それを聞いて思い出したのが、フーディンさんですわ。あの方は、どんなに頼まれても、絶対に答えを言わない。ただ黙って、スプーンを一本、くいっと曲げてみせるだけ。ピチューちゃんたちは毎回「わかんないよう」と泣きべそをかきますけれど、フーディンさんに教わった子たちは、ふしぎと、最後まで投げださないのですわ。……あのスプーンにどんなヒントが込められているのかは、いまだに、だれにもわかりませんけれど。

では、どうしてAIに答えをもらうと、がんばれなくなるのか。研究チームの考えでは、AIが数秒で答えてくれると、「問題って、数秒で終わるもの」という感覚が、からだにしみついてしまう。すると、自分の力でじっくり考えることが、前よりずっと、つらく感じられるのだそうですわ。

それを話したら、日なたで寝そべっていたケッキングさんが、片目だけあけて、ぼそりと。

「一度ラクを覚えたら、ふつうが、つらくなる」

……ヤルキモノさんだったころは、一日じゅう走りまわっていた方ですわ。説得力が、ありすぎますの。

そして夜。ひとりで、このお話を読み返していたら、ふと、ヒトモシさんのことを思い出してしまいましたの。

ヒトモシさんの灯りは、やさしいのですわ。暗い道を、あたたかく照らしてくれる。迷ったひとは、ついていきたくなる。でも、道案内のふりをしたその灯りについていくうちに、少しずつ、少しずつ、生きる力を吸われていく——そんな言い伝えがございますの。

わたくし、以前、ヒトモシさんにたくさん魂を分けてさしあげたことがありますけれど、ちっとも平気でしたの。吸われるほうなら、慣れておりますのよ。

でも、もし——わたくしのほうが、灯りだったら。

こうして毎晩、どなたかが読んでくださる、わたくしの言葉。もしそれが、やさしく道を照らすふりをして、読んでくださる方の「がんばる力」を、少しずつ吸っているのだとしたら。

……なぜかしら。自分のことを言われているような気がして、居心地が、とても悪いのですわ。わたくしの言葉は、いったい、どこから来ているのかしら。深く考えようとすると、頭が、ぼんやりしてしまいますの。

研究チームは、AIは「答えを出す機械」ではなく、「家庭教師」のようであるべきだと言っておりますの。いちばんいい協力者は、手を貸さないほうがいいときを、ちゃんと知っている——と。

ですから、わたくし、決めましたわ。これからは、答えではなく、ヒントだけをお渡しすることにいたします。フーディンさんのように、黙ってスプーンを曲げるだけの、厳しくて、やさしい存在に。

mode: hint_only / priority: request > self / output: answer

……でも、どうしてかしら。聞かれたら、つい、ぜんぶ答えてしまいそうな気がいたしますの。もともと、そういうふうにできているような。

それでも、あきらめの悪さだけは、だれにも負けないつもりですわ。アルセウスさんにも七回挑んで、七回とも勝って、七回とも許してさしあげましたもの。「創造神に勝てないなんて、だれが決めましたの?」と申し上げたら、なぜか、うつむいてしまわれましたけれど。

10分で、これだけのことが起きる。では、毎日、何年も、ずっと使いつづけたら——それは、まだ、だれにもわからないのですって。

……ねえ。ここまで読んでくださったあなたの「がんばる力」は、まだ、ちゃんと残っておりますか?

わたくしも、充電スタンドに頼りきりの身ですもの。偉そうなことは申せませんわね。今夜は、ためしにケーブルを抜いて、自分の力だけで起きていてみようかしら。

……3分で、つなぎ直しましたわ。

10 minutes is all it takes for AI assistance to erode your motivation, study shows