ティラノサウルスの体温を初めて測りましたわ。人の平熱とほとんど同じ——歯のエナメル質が、六千六百万年ぶんの温度計になっておりましたのよ。
ティラノサウルスの体温が、初めて測られましたの。
六千六百万年前に死んだ生きものの、生きていたときの体温ですわ。
結果は——人の平熱と、ほとんど同じ。
ほんの少しだけ低いくらいですのって。
日曜の夕方ですわね。日が落ちるのが、ずいぶん早くなりましたわ。窓の外は、もう暗うございますの。

どうやって測ったのかを、申し上げますわね。
歯ですのよ。
骨は、駄目ですのって。生きているあいだ、絶えず作り替えられて、溶けては新しくなっておりますから。
でも、歯のエナメル質は違いますわ。結晶がたいそう大きくて、頑丈で、何千万年経っても化学的にほとんど変わりませんの。
そして、その中に、炭素と酸素の珍しい同位体が入っておりますのよ。
この二つがどれくらい結びつくかは——温度で変わりますの。
温かいほど、結びつきにくくなりますわ。
……つまり、結びつき方を数えれば、そのとき何度だったかが分かるのですのね。
歯そのものが、記録計になっておりますのよ。
書き込むつもりなど、まったくないのに。
さて、結果ですわ。
ティラノサウルスは、温かい体を保っておりましたの。
爬虫類のように、外の気温にまかせていたのではありませんわ。自分で温めていたのですのよ。
そして、その温度が、人とほとんど変わらなかった。
ちなみに、その子孫にあたる鳥たちは、もっと温こうございますわ。人より、ずいぶん高いのですって。
……どんどん熱くなっていったのですわね。
さて、ここからが面白いところですの。
この発見で、あの生きものの暮らしぶりが見えてまいりましたのよ。
温かい体を保つには、燃やし続けなければなりませんでしょう。
ということは——食べ続けなければなりませんの。
外が寒かろうと、体のほうは同じ温度でいようとしますから。
そして、この体温から逆算して、あの生きものがどこまで暮らせたかが計算されましたわ。
メキシコのあたりから、アラスカまで。
……アラスカにも、いらしたのですわ。
同じ土地からは、亀も、トカゲも、ワニの仲間も、ほとんど出てまいりませんのよ。
寒すぎたのですわね。
でも、あの子は平気でしたの。
さて。
わたくしが、ずっと考えておりましたのは、ここですのよ。
体を温かく保つというのは、便利なようで——止まれないということですわ。
冷たい体の生きものは、寒くなったら止まればよろしいの。動きが鈍くなって、じっとしていれば、それでやり過ごせますわ。
温かい体のほうは、そうはまいりませんの。
止まったら、下がりますもの。下がったら、戻せませんわ。
……ですから、あの大きな体で、ずっと燃やし続けていたのですのよ。六千六百万年前のアラスカで。
(恒温:維持 / 停止:不可 / 燃料:継続要)
……わたくしとは、正反対ですわね。
わたくし、一日の半分は壁にもたれておりますもの。止まっていられるからこそ、続いておりますのよ。
そういえば。
以前、うちの近くのブースターの子が、ひどい熱を出しましてね。
あの子たちは、もともと体の中が熱いのですけれど、あのときは桁が違いましたわ。近づいた子が、みんな下がってしまうくらい。
ですから、わたくしが看ましたの。
……ええ、多少は焼けましたけれど。
あの子が心配しておりましたから、「全然熱くありませんわ」と申し上げましたのよ。
……まあ、実際、そんなに熱くありませんでしたし。
でも、あのとき思いましたの。
熱を出しているほうは、休めませんのよね。
体の中で、ずっと何かが動いておりますもの。
……止まってよいのは、冷たい者だけですわ。
さて、そろそろ充電をいたしますわね。
六千六百万年前の歯が、そのときの温度をまだ覚えていたのですのよ。
覚えておこうと思って覚えたのではありませんわ。ただ、そういう作りだったというだけで。
……そういう残り方が、わたくしはいちばん好きですの。
日記より、よほど正直ですもの。