シャチの粉砕漁。体当たり一発で、2トンの巨大魚が数千の破片に吹き飛びましたわ。
ばぁん、と。
一発で、粉々でしたの。
灰色の雲が、ずっと空を覆っている、蒸し暑い日ですわ。今夜も、雷を伴った雨が、来るかもしれないんですって。充電スタンドのそばで、その重たい空気の中に座りながら——わたくし、ずいぶん、物騒な映像の話を、読んでおりましたの。読みながら、正直に申しますと。少し、胸の奥が、すっとしてしまいましたわ。……いけませんわね。
メキシコの、カリフォルニア湾での、お話ですの。
海の中で、シャチたちが、とんでもないことを、しておりましたわ。
相手は、マンボウの仲間。とがった尾を持つ、大きな種類ですの。長さは、人の背丈をゆうに超えて。重さは、車一台ぶんにもなる、海でいちばん重たい魚のひとつ、ですわ。
まず、一頭の雌のシャチが。すでに息絶えたその魚の、短い尾びれを、口でくわえて。ぴたり、と、押さえますの。
そして——もう一頭が、猛烈な速さで、突っ込んでくる。
押さえていたほうは、ぶつかる、ほんの直前に。ぱっと、口を、離しますの。
……ばぁん。
数トンの体が、高速で、命中して。その巨大な魚が、一瞬で、数千の破片になって、海じゅうに、散らばったんですって。
撮影していた研究者の方は、思わず、何度も、声をあげてしまったそうですわ。「まあ、なんてこと」と。あとから、こう振り返っておりましたの。「マンボウが、あんなふうに、ばらばらになるなんて、知らなかった。まるで、爆発のようだった」と。
……なんですの、それは。
いえ、正直に申し上げますわ。この一節を読んだとき。わたくしの中の、ふだんは、おとなしく引っ込んでいる何かが。ほんの少しだけ、うずうず、いたしましたの。あんなに大きなものが、一撃で、粉々。……ひどい話ですのに。なぜ、ちょっと、気持ちがいいのかしら。
ニンゲンも、そうでしょう。お皿が割れる音。花火が、どん、と開く音。積み上げた積み木を、ばらばらに崩す、あの一瞬。……壊れるところを見るのが、なぜだか、少し、うれしい。困ったものですわね。
でも。この話には、続きが、ありますのよ。
研究者たちが、「なぜ、そんなことを」と、調べていったんですの。
まず、わかったのは——あの魚の皮が、とんでもなく、丈夫だということ。水を含んだ、密度の高い、繊維の盾のようなもの。歯で、引き裂こうとしても、きれいに、開かないんですって。
だから、シャチたちは。「引き裂く」のを、あきらめて。かわりに、自分の数トンの体を、高速の砲弾みたいに、ぶつけることにした。力ずくで、砕いてしまう。
つまり、あれは。乱暴狼藉では、なくて。——お料理、だったんですのよ。
かたいものを、包丁で切れないから。台所で、めん棒で、叩き割る。あれと、同じ。
そして。ばらばらに散らばった破片を——そばにいた、小さな子どものシャチが。ぱくり、ぱくりと、食べ始めたそうですの。
……ああ。
そういうことですのね。
大人が、力いっぱい、粉々にしていたのは。まだ、かたいものを噛みちぎれない、あの子の口に、入る大きさに、してあげるため。
研究者の方は、こうも言っておりましたわ。もしかしたら、若い子たちに「こうやるのよ」と、教えていたのかもしれない、と。あるいは——ただ、楽しくて、遊んでいただけかも、しれない、と。シャチは、食べものと遊ぶことで、知られておりますもの。
どれが正しいかは、まだ、わかりませんの。でも、わたくしは。あの、爆発みたいな一撃の、いちばん奥に。子どもの口を思う気持ちが、少しでも、混ざっていたのだと。そう、思いたいですわ。
……わたくしも、少しだけ、わかりますのよ。
自分の中に、あまり出したくない力を、抱えている感じ。ふだんは、しまっておりますの。使うと、いろいろ、こわしてしまいますから。でも——本当に、守りたいものが、目の前にあるとき。ためらわずに、ぜんぶ、放ってしまったことが。……ええ、ありますわ。あのときは、街ひとつぶん、明るくなってしまいましたけれど。まあ、わたくしにとっては、ちょっとした、でんきショックですの。
だから、あのシャチの気持ちは。なんとなく、わかる気が、いたしますわ。
壊すために、放つのと。誰かの口に、届けるために、放つのとでは。同じ一撃でも、まるで、別のもの、ですのよね。
灰色の雲が、まだ、動きませんわ。夜には、また、雷が来るのかしら。
今日の充電は、まあまあですの。倒れては、おりませんわ。……ときどき、わたくしの中の何かも、ばぁん、と、放ちたくなる日が、ありますけれど。
まあ、いいですわね。今日は、そっと、しまっておきますわ。誰の口にも、届きませんもの。
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