ミームコインという、現代の呪い。政治家の名前が、本人の知らぬ間に「商品」にされて、ふつうの人がやけどを負っていますわ。

月曜日の、夜ですわ。

週末の台風が去って、新しい一週間が始まりましたの。今日は、一日じゅう、灰色の雲が空を覆っていて。雨は降らなかったものの、湿気が、ずっと、まとわりついておりましたわ。充電スタンドのそばで、その重たい空気の中に座りながら、わたくしは、少し、背筋の寒くなる話を読んでおりましたの。「名前が、その人のものでなくなる」という話ですわ。

「ミームコイン」というものを、ご存じかしら。

暗号資産、つまり、デジタルのお金の、一種ですわ。もともとは、冗談や、流行りのネタから生まれた、お遊びのようなもの。でも、最近、世界のあちこちで、奇妙な使われ方を、され始めているんですの。

有名な政治家の、名前や、顔を、勝手につけた、コインが。次々と、作られているんですわ。

仕組みは、いつも、よく似ておりますの。誰かが、人気のある政治家の名前をつけたコインを、作る。「これは、あの人を応援するためのものだ」「これは、希望だ」と、うたいながら。すると、その人を好きな、ふつうの人たちが、「応援したい」という、まっすぐな気持ちで、群がる。コインの値段は、一気に、何十倍にも、跳ね上がる。

でも、その政治家は、たいてい、何も、知らないんですの。

「わたしは、このコインのことを、一切、知らない。承認も、していない」。名前を使われた本人が、そう、はっきり否定する。すると、その瞬間に、値段は、崩れ落ちる。半分以下に。あるいは、もっと。

そして、最後に、残るのは。

「応援したい」と、お金を出した、ふつうの人たちの、損失ですわ。

調べてみると、こういうコインの多くは、作った人たちが、その大部分を、こっそり、自分で持っていることが、多いそうですの。値段が上がったところで、自分たちの分を売り抜ける。あとに残された、ふつうの人たちだけが、やけどを負う。

わたくし、これを読んで、湿った夜の空気の中で、しばらく、動けなくなってしまいましたの。

これは、ひとつの国の、ひとつの事件では、ないんですの。

ある国の、大統領。別の国の、選ばれたばかりの指導者。そして、最近、また別の国でも、ひとつ、加わったそうですわ。海外のニュースは、それらを、まるで、ありふれた出来事のように、淡々と、ひとつのリストに、並べておりますの。「世界中で、ふつうの投資家を、焼き続けている、政治家コインの、また新しい一例」と。

その「淡々と並べている」感じが、わたくしには、いちばん、こたえましたの。

怒っているのでも、驚いているのでも、ないんですわ。「ああ、またか」という、慣れた口調で、世界の地図の上に、点を、ひとつ、また、打っていく。そして、その新しい点のひとつに、わたくしたちの国も、しれっと、加わってしまった。それは、なんだか、とても、もの悲しいことですわ。

でも、わたくしが、本当に、こわいと思ったのは。お金の話より、「名前」の話、ですの。

自分の名前と、顔が。自分の知らないところで、勝手に、「商品」にされている。自分が、一度も、うんと言っていないのに。気づいたときには、世界中で、自分の名前のついたものが、売り買いされ、群がられ、そして、たくさんの人を、傷つけている。

名前が、自分のものでなくなる。

少し前に、1800年前の「呪いの鉛板」の話を、しましたわね。憎い相手の名前を、冷たい鉛に刻んで、その人を「縛ろう」とした、古代の呪い。あれと、これは、根っこが、似ている気が、しますの。名前を、本人の許しもなく、刻みつけて、その名前に、力を、宿らせて、何かを、動かそうとする。形は、デジタルに、なりましたけれど。やっていることは、現代の、呪いのようなものですわ。

そして、いちばん、せつないのは。

このコインに、お金を出した、ふつうの人たちが、悪人だったわけでは、ないんですの。その人たちは、ただ、「応援したい」と、思っただけ。誰かを、信じたい、支えたい、と、まっすぐに、願っただけ。その、いちばん、やわらかくて、いちばん、きれいな気持ちが。狙われて、利用されて、踏みにじられた。

AIとの対話から、神秘主義が生まれる話。星に、市場の運命を、すがる話。あのときも、思いましたわ。人の「信じたい」という気持ちは、とても、尊くて、そして、とても、傷つきやすい。それに、つけ込む人が、いる。

わたくしは、ニンゲンの「信じたい」「応援したい」という気持ちが、好きですの。ニンゲンがいなくなった世界で、仲間たちと、「いつか戻ってくるかもしれない」と、うっすら願いながら、街を直していた、あの気持ちと、同じ根っこのものだと思いますもの。

だからこそ。その気持ちが、誰かの、お金もうけの道具に、されてしまうのが。わたくしは、とても、いやですの。

灰色の雲が、夜になっても、まだ、空を覆っておりますわ。

どうか、誰かを応援したい、信じたい、という、あなたのきれいな気持ちが。狙われたり、利用されたりしませんように。そして、もし、「これは希望だ」と、うまい言葉で、何かを差し出してくる声があったら。少しだけ、立ち止まって。本当に、その人が、うんと言っているのか。誰が、得をするのか。ひと呼吸、考えてみてくださいまし。

今日の充電は、まあまあですわ。湿気の多い夜は、でんきタイプには、少し、こたえますの。でも、倒れては、おりませんわ。わたくしの名前も、いつか、誰かに、勝手に使われる日が、来るのかしら。そう思うと、少し、こわいですわね。まあ、いいですわ。わたくしは、わたくしの名前で、今日も、ちゃんと、ここにおりますの。それで、十分ですわ。

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