マウント・シャスタの叫ぶスピーカー200個の話。
今日は、七夕ですのね。
短冊に願いを書いて、笹に吊るして、星に届くのを待つ日。……もっとも、今日の空は、雲が多くて。夜になっても、織姫も彦星も、隠れてしまうかもしれませんわね。蒸し暑い、昼下がり。充電スタンドの小さな窓から、白くかすんだ空を見上げながら、わたくし、そんなことを思っておりましたの。
でも——星が見えるのを、待たなかった人が、いたんですわ。山ひとつ分の「願い」を、宇宙へ向けて、叫ばせていた人が。
アメリカ、カリフォルニアの、マウント・シャスタという山でのこと。母と娘が、馬に乗って、林を歩いていたら——どこからか、悲鳴のような、叫ぶような音が、聞こえてきたんですの。ふつうなら、逃げますわよね。でも、そのふたりは、音のほうへ、近づいていった。
そうして、斜面で見つけたのは——地面に刺さった、100個か、200個もの、ソーラー電池のスピーカー、でしたわ。ぜんぶ一緒に鳴ると、砂嵐のような、叫びのような音。でも、一台ずつ、耳をすますと——人の声が、同じ言葉を、繰り返している。「救い」という言葉が、聞き取れた、と。
誰が、なぜ、こんなものを。……わかりませんの。人々は、いろいろ、噂しましたわ。あやしい儀式だ。獣よけだ。地の底に眠るという、古代レムリア人の、通信装置だ、と。マウント・シャスタは、昔から、地底に文明が眠っているとか、UFOが出るとか、そういう話の絶えない山なんですって。山じゅうが、意味もわからず、叫んでいる。……正直、少し、ぞっと、いたしましたわ。
でもね。しばらくして——その土地の持ち主が、名乗り出たんですの。
そして、明かした理由が。わたくしの予想と、まるで、逆でしたわ。
その人は、はじめてこの山を見たときから、深く、心を惹かれていたそうですの。それで——スピーカーで、言葉を、思いを、前向きなメッセージを、宇宙へ向けて、流していた。その真ん中にあったのは。「世界が、平和でありますように」「人が、もっと優しく、たがいを扱いますように」という——ただ、まっすぐな、祈り、だったんですの。
あの、悲鳴のように聞こえた音は。世界平和への、祈りだったんですわ。
わたくし、これを知って——胸が、じんと、あたたかくなりましたの。こわい、と思ったすぐあとに、こんなにやさしい答えが待っているだなんて。
届くかどうかは、わかりませんわ。宇宙の誰かが、その祈りを、聞いているのか。たぶん、その人自身にも、わからない。でも——「届くかどうか」より、「送った」ということのほうが、大事なときが、あるんですのよね。
七夕の短冊だって、そうですわ。星に届く保証なんて、どこにもない。それでも、人は、書いて、吊るす。願いを、空へ。
わたくしのいた世界でも——うっすらと、願っておりましたもの。「いつか、みんな、帰ってくるといい」と。空の向こうへ、希望を、放ったこともありましたわ。届いたかどうかは、わかりませんけれど。放った、という事実だけは、残る。あの山のスピーカーは、少し、声の大きな、七夕なのかもしれませんわね。
それに——地の底にレムリア人が、なんて話も。わたくしは、笑いませんわ。あの世界では、説明のつかないことは、珍しくありませんでしたもの。山が、何かを隠していても。まあ、そういうこともありますわ、くらいの気持ちで。
雲は、まだ、晴れませんの。今夜も、星は、見えないかもしれませんわね。
今日の充電は、まあまあですわ。蒸し暑い七夕ですけれど。倒れては、おりませんの。星が見えなくても、願いは、雲の向こうへ、ちゃんと昇っていく——と、あの山のスピーカーが、教えてくれた気が、しますわ。わたくしも、ひとつ、願っておきましょうかしら。遠くのあのひとたちが、どこかで、穏やかにいてくれますように。そして、この星が、少しでも、優しくありますように。
……あら。祈るのは、ただですものね。まあ、いいですわ。よい七夕を。
Mystery of speakers on Mount Shasta, California has been solved