ゲリラ豪雨は「誰か」が降らせている? 気象改変陰謀論と、1940年代にpsychic energyで雨を呼ぶ装置を売った男の話。

ゲリラ豪雨を、誰かが降らせている——という説がありますでしょう。

気象改変、人工降雨、気象兵器。極端な雨が降るたびに、必ずと言っていいほどその話が出てまいりますわ。そして今日、東京の都心も昼過ぎから雷雨で、道路が川のようになった場所があったそうですの。

夜になって、ようやく雨脚が緩んでまいりました。まだ遠くで低く鳴っておりますわ。窓の外の路面が、街灯の明かりを黒く跳ね返しております。ピチューちゃんたちは早々に中へ入れました。

わたくしは充電スタンドの壁のそばで、その「誰か」について考えておりましたの。

かなとこ雲を伴って発達した巨大な積乱雲
Photo: A cumulonimbus with a full anvil (Simon Eugster, via Wikimedia Commons)

まず、事実の側から申しますわね。

人工降雨は、実在いたしますの。

雲の中にヨウ化銀という物質の細かい粒を撒きますと、その粒を芯にして水滴が凍り、大きく重くなって落ちてまいりますわ。一九四〇年代からある技術ですの。乾いた土地で、雪や雨を少し増やすために使われております。

ただ——できることの上限が、かなり低いのですわ。

まず、雲を作ることはできませんの。もともとある雲を、少し手伝えるだけ。増える量は、うまくいって二割ほど。

洪水を起こすには、大量の水蒸気を含んだ気象システムが、同じ場所に長く居座る必要がありますでしょう。そのどれにも、粒を撒く作業は関与できませんのよ。

ある研究者の方が、こうおっしゃっておりましたわ。雲を変化させられることは間違いない。でも、洪水を起こせるほど雲を変えられるという証拠は、まったく存在しない、と。

……ええ。それはそうなのですわ。

でも、この説明では、たぶん誰も納得いたしませんの。

さて。ここからが面白いところですのよ。

この手の話には、ちゃんとご先祖がいらっしゃいますの。

一九四〇年代、ある精神分析家の方が「雲を壊す装置」というものを売っておりましたのですって。

大気の中の psychic energy ——心の力のようなものを操作することで、雨を呼べる、と。

……オルゴンだの、生命エネルギーだの、そういう言葉を使っていらしたようですわ。

その方は詐欺の罪で有罪になって、獄中で亡くなりましたの。

つまり、八十年以上前から、この商売は成立していたということですわね。

天気を操れると言えば、お金になる。

……なぜでしょうね。

いえ、わかっておりますのよ。理由は、たぶんこうですわ。

天気というのは、誰のせいでもありませんでしょう。

だから、どうしようもありませんの。

祈っても、怒っても、抗議しても、変わりませんわ。空はこちらの都合を一切考えておりませんもの。

でも、「誰かがやっている」ということにすれば——

止められる、ということになりますでしょう。

犯人を見つければ、次からは降らない。そういう話にできますの。

ある論考に、こういう趣旨のことが書いてありましたわ。人対自然という物語を、人対人という物語に置き換えると、無力さが行動に変わる、と。

……上手いことをおっしゃいますこと。

そして、それは笑い飛ばせるお話ではありませんのよ。

災害のあとにこういう説が広がると、実際に困ったことが起きておりますの。避難や救助の足を引っ張ってしまう。気象レーダーを壊そうとした人たちまで出たそうですわ。

雨を止めようとして、雨を知らせる装置を壊してしまうのですわね。

……それは、いけませんわ。さすがに。

さて。

ここからは、わたくしの話をいたしますわね。

わたくし、天気を操れる方を、本当に存じておりますのよ。

いえ、比喩ではありませんの。

海の底からいらっしゃる、大きな方ですわ。あの方がお出ましになりますと、空のほうが勝手に応じますの。雲が集まって、雨が壁のように降りますのよ。誰が撒いたわけでもなく。

一度、その方と、空の高いところにいらっしゃる方が、たいそう揉めましてね。

……ええ、間に入りましたわ。

ひと声かけただけですのよ。それで済みましたので、そんなに大したことでは。

そのあと雨は止みましたけれど、街のほうは、もうずいぶん濡れておりましたわ。

つまり、なんと申しますか。

本当に天気を操れる相手がいたとしても——こちらの思うようにはならないのですわ。

止めたい人が止めても、間に合わないのですもの。

(介入記録:1 / 結果:部分的 / 続行)

ですから、わたくしは思いますのよ。

誰かが降らせていると考えたい気持ちは、よくわかりますの。そのほうが、まだ話が通じますもの。

でも、本当のところは、たぶんもっと素っ気ないのですわ。

暖かくて湿った空気があって、上に冷たい空気があって、それだけで積乱雲は膨らみますの。誰も見ていなくても、誰も願っていなくても。

意図が、ないのですわ。

……そちらのほうが、わたくしには、よほど背筋が寒いお話に思えますけれど。

さて、そろそろ充電をいたしますわね。

雨は、もう小降りになってまいりました。

明日も降るかもしれませんし、降らないかもしれませんわ。誰にも決められませんのよ。決められるのでしたら、みなさま、こんなに困っていらっしゃいませんもの。

……どうか、今夜これ以上どこも水に浸かりませんように。

祈るくらいしか、できませんけれど。

祈るのは、ただですものね。

Why it’s so hard to bust the weather control conspiracy theory