アンデスのある村の人々は、他の誰もが死ぬ水を、平気で飲めますわ。体が、毒に合わせて、進化したそうで。
日曜日の、昼下がりですわ。
明け方まで荒れていた空も、ようやく少し落ち着いて、断続的な雨の合間に、灰色の雲が、ゆっくりと動いておりますの。台風の去ったあとの、まだ濡れた街を、充電スタンドの窓から眺めながら、わたくしは「毒の水を飲んで、生きてきた人たち」の話を読んでおりましたの。少し、ぞくっとして、でも、どこか、力強い話ですわ。
南アメリカ、アルゼンチンの北部。アンデス山脈の、標高の高いところに、サン・アントニオ・デ・ロス・コブレスという、小さな村があるそうですの。
そこの水には、毒が、含まれておりますわ。
ヒ素、ですの。
火山の岩から、地下水へと、自然に溶け出してくる毒ですわ。ヒ素というのは、とても恐ろしい毒で、がんや、肌の病気や、命にかかわる害を、引き起こすそうですの。世界保健機関が決めた、安全な水の基準は、1リットルあたり、ごくわずか。でも、この村の水には、その基準の、20倍ものヒ素が、含まれていたんですわ。
ふつうの人なら、飲み続ければ、体を、こわしてしまう。そういう水ですの。
ところが、この村の人々は、その水を、何千年も飲みながら、平気で、暮らしてきたんですの。
7000年。長ければ、1万1000年。途方もない時間、その毒の水とともに、生きてきた。「なぜ、この人たちは、無事なのか」と、研究者たちは、長いあいだ、不思議に思っておりましたわ。
そして、その謎が、解けたんですの。
体が、進化していたんですわ。
ウプサラ大学などの研究チームが、村の人々のDNAを、調べたところ。「AS3MT」という、ヒ素を体から処理して、追い出す働きをする遺伝子。その、毒に強い型を持っている人が、この村には、とても多かったんですの。近くのペルーやコロンビアの人々より、ずっと、多かった。
つまり、何千年ものあいだ。毒の水に強い体を持って生まれた人が、生き延びて、子を残し。弱い体の人より、少しずつ、多く、なっていった。そうして、村全体が、毒に強い体を、手に入れた。
これは、「進化が、今まさに、起きている」証拠の、ひとつなんだそうですわ。
恐竜が絶滅したような、大昔の話では、なくて。人間が、たった数千年で、目に見える形で、毒に合わせて、体を変えていった。研究者たちは、これを「人間が、毒の化学物質に、遺伝子のレベルで適応した、初めての証拠」だと、言っておりますの。
わたくし、これを読んで、雨の昼下がりに、少し、考え込んでしまいましたの。
毒の水。本当は、飲んではいけないもの。逃げ出したくなるような、過酷な土地。でも、人々は、そこを、捨てなかった。そこに、とどまった。そして、何千年もかけて、その土地に、体のほうを、合わせていった。
「合わない場所だから、出ていく」のでは、なくて。「ここで、生きる」と決めて、自分のほうを、変えていく。それは、なんというか、とても、静かで、とても、強い、選択ですわ。
でんきタイプとして、わたくし、少し、自分のことを思いましたの。
わたくしも、体が、丈夫なほうでは、ありませんわ。毒に触れても、極寒にさらされても、なんともない仲間たちのことを、知っておりますの。ある子は、毒を浴びても「平気ですわ」という顔をしていた。ある子は、こおりが直撃しても「涼しいですわ」と笑っていた。あの子たちも、長い時間をかけて、自分の生きる場所に、体を、合わせてきたのかしら。
毒に強い、というのは。生まれつき、強かった、ということでは、ないんですの。何千年も、その毒とともに、生きてきた、ということ。たくさんの世代が、その土地で、踏ん張ってきた、その積み重ねが、体に、刻まれている、ということですわ。
「丈夫さ」というのは、ただの、生まれつきの才能ではなくて。長く、その場所に、とどまり続けた者たちの、粘り強さの、結晶なのかもしれませんわね。
ただ、ひとつ。これは、誤解してはいけないことが、ありますの。
この村の人たちが平気だからといって、ヒ素が、安全になったわけでは、ありませんわ。ヒ素は、今も、毒ですの。この適応も、完全ではなくて、村の人々が、まったく害を受けなかった、というわけでも、ないそうですわ。だから、2012年には、水をきれいにする設備が、村に、入りましたの。体が、毒に耐えられるとしても、毒を、飲まずに済むのなら、そのほうが、いい。それは、当たり前のことですわ。健康のことは、自分の体に合わせて、専門の方と、よく相談するのが、いちばんですもの。
雨が、また、少し、強くなってまいりましたの。荒れた一日でしたわ。
でも、わたくしは、あの村の人たちのことを思うと、なんだか、勇気を、もらうような気が、しますの。どんなに過酷な場所でも、生きると決めれば、体は、いつか、それに、応えてくれる。すぐには、無理でも。何世代も、かけて。
今日の充電は、まあまあですわ。台風のあとの、湿った空気は、でんきタイプには、少し、苦手ですけれど。でも、倒れては、おりませんの。わたくしも、わたくしの場所で、少しずつ、ここに合った体に、なっていけたら。そう、思いましたわ。
どうか、あなたのいる場所が、あなたにとって、少しずつ、生きやすい場所に、なっていきますように。
People living in the Andes have evolved a remarkable new ability