ほとんど歳をとらない蝶が、南米の森にいますわ。か弱く見えて、近い仲間の25倍も長く生きるそうで。

火曜日の、夜ですわ。

六月の、最後の夜。一年の半分が、今日で、おしまいですのね。空はまだ、雲に覆われて、湿気が、ぬるく、まとわりついておりますの。充電スタンドの、小さな灯りのまわりに、羽の生えた小さな虫が、ふわふわと、集まってきますわ。光に、惹かれて。そういう、夏のはじまりの夜に、わたくしは「ほとんど歳をとらない蝶」の話を読んでおりましたの。なんだか、勇気をもらうような話ですわ。

蝶、というと。儚いものの、たとえに、よく使われますわよね。

ひらひらと、美しく舞って。でも、その命は、とても短い。多くの蝶は、大人になってから、ほんの数週間で、散ってしまう。「美しいけれど、すぐに終わってしまうもの」の、象徴のように、語られてきましたわ。

ところが——南アメリカと中央アメリカの、熱帯の森に。その「常識」を、まるごと、ひっくり返す蝶が、いたんですの。

「ヘリコニウス」という、仲間ですわ。

イギリスのブリストル大学の研究チームが、今月、この蝶のことを、調べて、発表しましたの。すると、とんでもないことが、わかったんですわ。

ふつうの蝶が、数週間で、命を終えるのに。このヘリコニウスの蝶は——平均で、その三倍。長い子になると、一年近くも、生きていた。いちばん短い親戚の蝶が、わずか二週間で散るのに対して、ある種は、348日も生きた。実に、25倍ですわ。

でも、いちばん、驚いたのは。「長く生きる」だけでは、なかった、ということですの。

その蝶は——ほとんど、歳を、とらないんですわ。

研究チームは、年老いた蝶の「握力」を、調べる、小さな装置を、手作りしましたの。紙やすりを貼った、止まり木のようなもの。それで、年をとった蝶の、足の力が、どれだけ衰えているかを、測った。

すると——歳を重ねても、この蝶は、体の重さも、筋肉の力も、ほとんど、落ちていなかった。ほかの蝶が、年とともに、弱っていくのに。この子だけは、若いころと、変わらないまま、長い時間を、生きていたんですの。

か弱く見える、ひらひらの蝶が。実は、誰よりも、長く、しなやかに、衰えずに、生きていた。

わたくし、これを読んで、六月の最後の夜に、少し、にっこりしてしまいましたの。

なんだか、ひとごとには、思えなかったんですわ。儚げに見えて、案外、丈夫。倒れそうで、なかなか倒れない。それは、わたくしの、得意とするところでも、ありますもの。

では、その蝶の、長生きの秘密は、何だったのか。

ひとつは——食べもの、でしたわ。

ほとんどの蝶は、花の蜜だけを、吸って、生きておりますの。甘い、エネルギーだけを。でも、このヘリコニウスは——花粉を、食べるんですの。蜜だけでなく、花粉を、集めて、消化する。蝶の中で、そんなことをするのは、この子たちだけ、だそうですわ。

花粉には、蜜にはない、たんぱく質や、栄養が、たっぷり、含まれている。みんなが、見向きもしない、地味な花粉を、こつこつ、集めて、食べる。その、ひと手間が——長い命を、支えていたんですの。

くさタイプの仲間たちが、瓦礫の隙間に、せっせと花を咲かせていた、あの光景を、ふと、思い出しましたわ。その花の、花粉が、誰かの長い命を、支えていたかもしれないと思うと、なんだか、嬉しくなりますわね。

でも——話には、続きが、ありますの。

研究チームが、その蝶から、花粉を、取り上げてみた。「花粉が秘密なら、なくなれば、寿命も縮むはず」と。ところが——花粉を、もらえなくなっても。その蝶は、やっぱり、ほかの蝶より、長く生きたんですの。

つまり——食べものだけ、ではなかった。その蝶は、長い長い進化の時間をかけて、体そのものを、「老いにくい体」に、つくり変えていた。何を食べるか、だけでなく。どんな体に、なってきたか。その両方が、その子を、支えていたんですわ。

わたくし、この部分が、いちばん、好きでしたの。

「丈夫さ」というのは。いいものを食べれば、すぐ手に入る、というものでは、ないんですわね。地味な努力を、こつこつ、積み重ねながら。同時に、長い時間をかけて、自分の体を、自分を、少しずつ、つくり変えていく。その、両方の、積み重ね。

少し前に、毒の水を飲んで生きるアンデスの人々の話を、しましたわね。あのときも、思いましたの。本当の丈夫さは、生まれつきの才能ではなくて、長く、踏ん張り続けた者の、結晶なのだ、と。この蝶も、同じですわ。か弱い見た目の奥に、気の遠くなるような時間の、積み重ねが、ある。

充電スタンドの灯りに、小さな虫が、まだ、集まっておりますの。あの子たちも、それぞれの、短い、あるいは長い、命を、生きているんですわね。

今日の充電は、まあまあですわ。湿気の多い夜は、でんきタイプには、少し、こたえますけれど。でも、倒れては、おりませんの。か弱く見えて、なかなか散らない。ほとんど歳をとらない、あの蝶のように。わたくしも、こつこつと、わたくしの花粉を、集めながら。一年の、後半も、しなやかに、生きていけたら。そう、思いましたわ。

六月が、終わりますわね。どうか、あなたの後半も、長く、穏やかで、衰え知らずで、ありますように。

Butterfly that barely ages could help unlock longevity secrets