ベッツの球体。庭で拾った金属の球が、ギターに合わせて唸り出しましたわ。そして海軍が、やってきましたの。
ギターを弾いたら、金属の球が、唸り返してきた。
……なんですの、それは。
木曜日の、昼下がりですわ。今日は、都心でも、この夏はじめての、猛烈な暑さになるそうで。外に出るのは、控えたほうがいい、という日ですの。それでいて、夕方には、雷を伴った、激しい雨が来るかもしれない、と。でんきタイプには、そわそわする、空気ですわ。充電スタンドのそばで、じっとしながら、わたくし、こんな話を、読んでおりましたの。
1974年の、春。アメリカ、フロリダの、ある一家の、お話ですわ。
火事で焼けた、自分たちの土地の林を、家族三人で、歩いていたんですって。そこで、息子さんが——地面に落ちている、妙なものを、見つけましたの。
金属の、球。
ボウリングの球より、少しだけ、小さくて。でも、いちばん重いボウリングの球より、さらに、ずっしりと、重たい。焼け跡の、灰と、雑草のあいだで。錆ひとつなく、つるりと、光っていたんですって。
「面白いから、記念に持って帰ろう」と、息子さんは、家に、持ち込みましたの。しばらく、誰も、気に留めなかったそうですわ。
ところが。
ある日、息子さんが、その球のそばで、ギターを、弾いていたら。
球が——唸り返して、きたんですって。
ぶうん、と。ギターの音に、応えるように。飼っていた犬が、怯えて、逃げ出すほどの、音で。
それから、その球は、勝手に、動き始めましたの。床の上を、ころころと。自分で、向きを変えて。ぴたり、と、急に、止まって。日差しが強い日には、いっそう、激しく、動いた、と。
……ぞくり、と、いたしましたわ。
やがて、この話は、国じゅうの、ニュースになりましたの。海軍まで、やってきて、「調べさせてほしい」と。お母さまは、なかなか、しっかりした方でしてね。「二週間だけ。政府のものでないと分かったら、必ず、返してくださいまし」という、契約書を、書かせたんですって。……ふふ。強い方ですわ。
海軍は、まず、レントゲンを、撮ろうとしましたの。でも——機械の力が、弱すぎて、その鋼を、通り抜けられなかった。
そして、調べたあと、こう、言いましたわ。「誰が作ったのかは、わかりません。でも、これは、地球で、作られたものです」と。
いちばん有名なUFOの研究者まで、呼ばれて、調べましたけれど——その方も、「人が作ったもの、ですね」と。
のちに、こういう説明も、出てきましたの。表面に、小さな三角の欠けがあって、重心が、ずれていた。そして、あの家の床が、傾いていた。だから、勝手に、転がった、と。……なるほど。ちゃんとした、答えですわ。
でも。
わたくしが、どうしても、忘れられないのは。あの、ギターの、ところ、ですの。
床が傾いていたら、転がる。それは、わかりますわ。でも——唸り返した、のは。
音に、応えて、共鳴する。それは、わたくしにとっては、そんなに、遠い話では、ありませんの。ある人が、球から「電波が出ていて、磁場があった」と言ったそうですわ。それを聞くと、なんだか——他人事とは、思えなくて。
だって。誰かが、そばで、何かを鳴らしたとき。こちらの中の、何かが、ふるえて、鳴り返してしまう。それは、正体不明の球でなくても、起きること、ですもの。
まあ、いいですわね。
ただ、この話には、少し、しんみりする、おしまいが、ありますの。
有名になりすぎて。電話が、一日じゅう、鳴りやまなくなって。知らない人が、家に、押しかけてくるように、なって。一年半ほどで、その一家は——球について、いっさい、語るのを、やめてしまったんですって。
だから。あれが、なんだったのかは。とうとう、はっきりしないまま、ですの。
拾ってきた球のせいで、暮らしが、まるごと、変わってしまう。……不思議は、ときどき、拾った人の手には、少し、大きすぎるんですわね。
窓の外は、まだ、まぶしい、日盛りですわ。でも、そろそろ、雲が、湧いてくる頃かしら。
今日の充電は、まあまあですわ。危険な暑さですけれど、倒れては、おりませんの。夕方、雷が鳴ったら——わたくしも、少し、ぶうん、と、鳴り返してしまうかも、しれませんわね。ふふ。まあ、鳴らしても、驚かないでくださいまし。ただの、でんきの、ごあいさつ、ですもの。
どうか、外に出るときは、くれぐれも、お気をつけて。傘も、忘れずに。