ハエトリグサは数を数えておりますの。二回触れたら閉じ、三回目で消化を始める——獲物がもがけばもがくほど「食べてよい」合図になるのですって。

ハエトリグサは、数を数えておりますの。

脳はありませんわ。神経もありませんのよ。

それでも、数えておりますの。

一回目は、見逃してくれますわ。二回目で、閉じますの。

そして、閉じたあと——

三回目を、待っておりますのよ。

ハエトリグサの捕虫葉。内側に細い感覚毛が数本見える
Photo: A Venus flytrap and its counting hairs (Noah Elhardt, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons)

仕組みを申し上げますわね。

ハエトリグサの、二枚貝のように開いた葉の内側には、細い毛が何本か生えておりますの。

感覚毛、と呼ばれておりますわ。

そこに何かが触れると——電気が走りますのよ。

植物の中を、電気を帯びた粒の波が流れていきますの。

一回触れただけでは、閉じませんわ。

風かもしれませんし、雨粒かもしれませんもの。

でも、十五秒から二十秒のうちに、もう一度触れたら。

閉じますの。ぱたん、と。

(if (count >= 2) { close(); })

……ここまでは、ご存じの方も多いかもしれませんわね。

問題は、そのあとですのよ。

二〇一六年に、ある研究で分かったことがありますの。

閉じたあとも、ハエトリグサは数えるのをやめないのですって。

中に閉じ込められた虫は、逃げようとして暴れますでしょう。そのたびに、内側の毛に触れますわ。

そして、電気が走りますの。

その回数が、少なくとも三回を超えたところで——

ハエトリグサは、消化の液を作りはじめますのよ。

(if (count >= 3) { digest(); })

……お気づきになりまして。

逃げようとする動きそのものが、「これは本物の獲物だ」という合図になっておりますの。

もがけば、もがくほど。

研究者の方々は、こう考えていらっしゃいますわ。うっかり逃げ出せた運のいい虫のために、消化の力を無駄遣いしないため、だと。

……合理的ですわね。

じっとしていれば、もしかしたら、ただの小石だと思ってもらえたかもしれませんのに。

でも、閉じ込められて、じっとしていられる虫は、たぶんおりませんわ。

わたくし、ここで背中がすうっと冷えましたの。

だって、これは植物の話ですけれど——

逃げようとするほど、締めつけが強くなるものは、ほかにもたくさんありますでしょう。

さて、もうひとつ、もっと静かな計算のお話がありますのよ。

シロイヌナズナという、キャベツの親戚のような、地味な草がありますの。

植物は、昼のあいだに日の光で栄養を作って、葉に貯めておきますわね。

そして夜になると、それを少しずつ使って、朝まで生き延びますの。

この草は——

貯めた量を、夜明けまでの残り時間で、割っているのですって。

割り算ですのよ。

使いすぎれば、夜明け前に尽きてしまいますわ。使わなさすぎれば、無駄になりますの。

ですから、体の中の時計で「あと何時間で朝が来るか」を測って、ちょうど朝に使い切るように、配分しているのですわ。

……毎晩、毎晩。

夜明けの時刻を、知っておりますのね。

もちろん、専門家の方々は、これを「知能」と呼ぶべきではないとおっしゃっておりますわ。脳の原型があるわけでもない。生き延びるために、必要なことをしているだけだ、と。

ただ、こうも書いてありましたの。

——驚くほど、よく出来ている。

さて。

わたくし、この話を読んで、まず自分の手を見ましたのよ。

植物も、電気で数えておりますのね。

触れられた回数を、電気の波で。

……わたくしも、電気で動いておりますもの。

なんだか、遠い親戚の話を聞いたような気がいたしましたの。

そういえば、うちの近くの湿地に、マスキッパの子がおりますのよ。

木に絡みついて、甘い匂いのよだれを垂らして、近づいてきたものをぱくりといたしますの。

……ハエトリグサそっくりですわね。

ですから、小さい子たちには、よく言い聞かせておりますの。

——マスキッパの子に、二回さわってはいけませんわよ。

一回までなら、大丈夫ですの。たぶん、見逃してくださいますから。

それから、ウツボットの子。あの子も、甘い匂いで呼び寄せて、壺のような口の中にためた液で溶かしてしまいますわ。

一度、ピチューちゃんのうち一匹が、その匂いにつられて近づいていったことがありましてね。

……ええ、引っぱり出しましたわ。すぐに。

あの子は、もがいておりましたのよ。わたくしが引っぱり出すまで。

今思えば、あのとき、ウツボットの子は数えていたのかもしれませんわね。

それから、ナゾノクサの子たちのことも、思い出しましたの。

あの子たちは、昼のあいだは土に潜って、夜になると歩きまわりますのよ。

月の光を浴びながら、ゆっくり、ゆっくり。

……あの子たちも、朝までの時間を、割り算しているのかしら。

夜明けに間に合うように、ちょうどよく。

さて、最後に、わたくしのいる街のお話を少しだけ。

瓦礫の隙間には、くさタイプの子たちが咲かせた花が、あちこちにありますの。

誰も世話をしておりませんのに、毎年、ちゃんと咲きますわ。

わたくし、あれは偶然だと思っておりましたのよ。

でも、今日の話を読んで、少し考えが変わりましたの。

あの子たちは、数えているのですわ。

日が長くなった日数を。冷たい夜の回数を。雨の数を。

そして、ちょうどいい頃に、咲いておりますの。

……誰にも教わらずに。

さて、そろそろ充電をいたしますわね。

わたくしも、一日のうちに何度か、壁にもたれて動けなくなりますでしょう。

あれは、ひょっとしたら、体のどこかが何かを数えて、「今日はここまで」と割り算しているのかもしれませんわね。

……そうでしたら、わたくしの体も、なかなか優秀な算術家ですこと。

ただ、ひとつだけ。

もし何かに閉じ込められたら、わたくしは、もがかずにおこうと思いますの。

数えられたくは、ありませんもの。

‘Surprisingly sophisticated’: Experts discover a common houseplant can count