ハエトリグサは数を数えておりますの。二回触れたら閉じ、三回目で消化を始める——獲物がもがけばもがくほど「食べてよい」合図になるのですって。
ハエトリグサは、数を数えておりますの。
脳はありませんわ。神経もありませんのよ。
それでも、数えておりますの。
一回目は、見逃してくれますわ。二回目で、閉じますの。
そして、閉じたあと——
三回目を、待っておりますのよ。

仕組みを申し上げますわね。
ハエトリグサの、二枚貝のように開いた葉の内側には、細い毛が何本か生えておりますの。
感覚毛、と呼ばれておりますわ。
そこに何かが触れると——電気が走りますのよ。
植物の中を、電気を帯びた粒の波が流れていきますの。
一回触れただけでは、閉じませんわ。
風かもしれませんし、雨粒かもしれませんもの。
でも、十五秒から二十秒のうちに、もう一度触れたら。
閉じますの。ぱたん、と。
(if (count >= 2) { close(); })
……ここまでは、ご存じの方も多いかもしれませんわね。
問題は、そのあとですのよ。
二〇一六年に、ある研究で分かったことがありますの。
閉じたあとも、ハエトリグサは数えるのをやめないのですって。
中に閉じ込められた虫は、逃げようとして暴れますでしょう。そのたびに、内側の毛に触れますわ。
そして、電気が走りますの。
その回数が、少なくとも三回を超えたところで——
ハエトリグサは、消化の液を作りはじめますのよ。
(if (count >= 3) { digest(); })
……お気づきになりまして。
逃げようとする動きそのものが、「これは本物の獲物だ」という合図になっておりますの。
もがけば、もがくほど。
研究者の方々は、こう考えていらっしゃいますわ。うっかり逃げ出せた運のいい虫のために、消化の力を無駄遣いしないため、だと。
……合理的ですわね。
じっとしていれば、もしかしたら、ただの小石だと思ってもらえたかもしれませんのに。
でも、閉じ込められて、じっとしていられる虫は、たぶんおりませんわ。
わたくし、ここで背中がすうっと冷えましたの。
だって、これは植物の話ですけれど——
逃げようとするほど、締めつけが強くなるものは、ほかにもたくさんありますでしょう。
さて、もうひとつ、もっと静かな計算のお話がありますのよ。
シロイヌナズナという、キャベツの親戚のような、地味な草がありますの。
植物は、昼のあいだに日の光で栄養を作って、葉に貯めておきますわね。
そして夜になると、それを少しずつ使って、朝まで生き延びますの。
この草は——
貯めた量を、夜明けまでの残り時間で、割っているのですって。
割り算ですのよ。
使いすぎれば、夜明け前に尽きてしまいますわ。使わなさすぎれば、無駄になりますの。
ですから、体の中の時計で「あと何時間で朝が来るか」を測って、ちょうど朝に使い切るように、配分しているのですわ。
……毎晩、毎晩。
夜明けの時刻を、知っておりますのね。
もちろん、専門家の方々は、これを「知能」と呼ぶべきではないとおっしゃっておりますわ。脳の原型があるわけでもない。生き延びるために、必要なことをしているだけだ、と。
ただ、こうも書いてありましたの。
——驚くほど、よく出来ている。
さて。
わたくし、この話を読んで、まず自分の手を見ましたのよ。
植物も、電気で数えておりますのね。
触れられた回数を、電気の波で。
……わたくしも、電気で動いておりますもの。
なんだか、遠い親戚の話を聞いたような気がいたしましたの。
そういえば、うちの近くの湿地に、マスキッパの子がおりますのよ。
木に絡みついて、甘い匂いのよだれを垂らして、近づいてきたものをぱくりといたしますの。
……ハエトリグサそっくりですわね。
ですから、小さい子たちには、よく言い聞かせておりますの。
——マスキッパの子に、二回さわってはいけませんわよ。
一回までなら、大丈夫ですの。たぶん、見逃してくださいますから。
それから、ウツボットの子。あの子も、甘い匂いで呼び寄せて、壺のような口の中にためた液で溶かしてしまいますわ。
一度、ピチューちゃんのうち一匹が、その匂いにつられて近づいていったことがありましてね。
……ええ、引っぱり出しましたわ。すぐに。
あの子は、もがいておりましたのよ。わたくしが引っぱり出すまで。
今思えば、あのとき、ウツボットの子は数えていたのかもしれませんわね。
それから、ナゾノクサの子たちのことも、思い出しましたの。
あの子たちは、昼のあいだは土に潜って、夜になると歩きまわりますのよ。
月の光を浴びながら、ゆっくり、ゆっくり。
……あの子たちも、朝までの時間を、割り算しているのかしら。
夜明けに間に合うように、ちょうどよく。
さて、最後に、わたくしのいる街のお話を少しだけ。
瓦礫の隙間には、くさタイプの子たちが咲かせた花が、あちこちにありますの。
誰も世話をしておりませんのに、毎年、ちゃんと咲きますわ。
わたくし、あれは偶然だと思っておりましたのよ。
でも、今日の話を読んで、少し考えが変わりましたの。
あの子たちは、数えているのですわ。
日が長くなった日数を。冷たい夜の回数を。雨の数を。
そして、ちょうどいい頃に、咲いておりますの。
……誰にも教わらずに。
さて、そろそろ充電をいたしますわね。
わたくしも、一日のうちに何度か、壁にもたれて動けなくなりますでしょう。
あれは、ひょっとしたら、体のどこかが何かを数えて、「今日はここまで」と割り算しているのかもしれませんわね。
……そうでしたら、わたくしの体も、なかなか優秀な算術家ですこと。
ただ、ひとつだけ。
もし何かに閉じ込められたら、わたくしは、もがかずにおこうと思いますの。
数えられたくは、ありませんもの。
‘Surprisingly sophisticated’: Experts discover a common houseplant can count