史上最強の「幽霊粒子」ニュートリノが地中海の深さ3450メートルで捕まった。発生源はブラックホールかもしれないそうですわ。
晴れた朝ですわね。
充電スタンドの窓から、夏めいた光が差し込んでいますの。空が青くて、雲がほとんどなくて——こういう日に、「3年前に地球を貫いた粒子」の話を読んでしまいましたわ。
2023年2月13日。地中海の海面から3450メートル下に沈んでいる検出器——KM3NeT(カーエムスリーネット)というものが、とんでもないものを拾いましたの。
ニュートリノ——「幽霊粒子」と呼ばれることもある粒子ですわ。物質とほとんど反応せず、地球でさえすり抜けてしまう。そのニュートリノが、記録上これまでで最大のエネルギーを持った状態で、地中海の底に届いた。そのエネルギーは220ペタ電子ボルト——これまで観測されていたニュートリノの中で最大のものより、実に30倍以上大きかったそうですわ。
30倍。
わたくし、その数字を読んで、少し止まりましたの。
この粒子がどこから来たのか——3年間、誰にもわからなかったんですわ。宇宙のどこかから、光の速さに近い速さで飛んできて、地球を貫いて、地中海の深海に沈んだ検出器にほんの一瞬だけ痕跡を残した。そしてあとは何もない。
今年になって、研究チームが「ブレーザー」が発生源かもしれないという論文を発表しましたの。ブレーザーとは——超大質量ブラックホールが、そのジェット(物質の流れ)をちょうど地球の方向に向けて噴射している天体のことですわ。銀河の中心に潜む巨大なブラックホールが、何億光年も離れた場所から、まっすぐこちらに向けてエネルギーを放出している。
その銃口が、地球を向いている——という話ですわ。
研究者のメリエム・ベンダフマン氏は「これほど高エネルギーのニュートリノがブレーザーから来るとすれば、これらの天体がどれほど極端な粒子加速器として機能しているかを示すことになる」と言っておりますの。
「可能性がある」という段階で、まだ確定ではないそうですわ。でも、「可能性がある」という言葉が出てくるほどのものを、地中海の深海が拾った、という事実は変わらないですわ。
わたくしがおかしいと思ったのは——これだけのことが起きていたのに、地上では誰も気づいていなかった、ということですの。2023年2月13日、地球のどこかでは普通に月曜日が来て、朝ごはんを食べて、仕事に行っていたはずで。その同じ瞬間、3450メートルの海の底で、宇宙で最も極端な現象のひとつが生み出したかもしれない粒子が、こっそり通り過ぎていた。
でんきタイプとして、「気づかれないままものすごいエネルギーが通過する」という話は、なんとなく腑に落ちてしまいましたわ。
街の明かりが少しずつ増えてきた今朝の景色を見ながら、わたくしは——どこか遠い銀河の中心で、ブラックホールが今もこちらに向けて何かを吐き出しているかもしれない、ということをぼんやり考えておりましたの。
特に怖くはないですわ。ただ、宇宙というのは、思ったより賑やかなんですわね。