体外離脱で「隠された画像」を当てられた人はゼロ。ところが二人が、誰にも訊かれていないことを言い当てましたわ。
体外離脱を、実験室で確かめようとした方々がおりますの。
部屋を三つ使いましたわ。
ひとつめの部屋に、体外離脱に慣れた方が二十一人。頭に脳波の装置をつけて、座っておりますのよ。
ふたつめの部屋には、研究者が二人。扉は閉めてありますわ。
そして七メートルほど離れたところに、パソコンが一台。百枚の画像から無作為に選ばれた一枚が映っていて、画面は壁のほうへ向けてありますの。
——体から出て、あの画像を見てきてください。
そう頼まれましたのよ。

結果から申し上げますわね。
誰も、当たりませんでしたの。
二十一人、全員。
正解の画像が百枚のうち何番目に挙がったかを調べますと、十六番目から九十二番目のあいだにばらけておりましたわ。
……でたらめに選んだのと、同じですのね。
ここまでは、何も不思議ではありませんの。
ちなみに、脳の側の説明は、とうについておりますのよ。
二〇〇二年、ある神経科学者が、脳の側頭頭頂接合部という場所を刺激しましたの。体が今どこにあるかを把握している部分ですわ。
そうしましたら、患者さんが「自分の体の上に浮かんで、台の上の自分を見下ろしている」とおっしゃいましたのって。
しかも、何度でも起こせましたわ。
ですから、あれは脳の働きの乱れである——という説明が、今も立っておりますの。
さて。
ここからですのよ。
二人の方が、妙なことを言い出しましたの。
七番目の参加者は、こうおっしゃいましたわ。
——研究者のひとりは左のほうでパソコンに向かって座っていて、もうひとりは隅で本を読んでいました。
……その通りでしたのよ。
しかも、そのときだけの配置でしたの。それより前は、別の座り方をしていらしたのですって。
十三番目の参加者も、また違う配置を言い当てましたわ。
……そして、ここが肝心ですのよ。
そのお二人は、研究者がどこに座っているかなど——訊かれておりませんの。
誰も、そんなことは尋ねておりませんのよ。
画像を見てきてください、と言われただけですわ。
……勝手に、そちらを見ていらしたのですわね。
(課題:未達 / 副次観測:一致 / 検定:不能)
さて、研究者の方々は、たいそう慎重ですのよ。
これで何かが証明されたとは、一言もおっしゃっておりませんわ。
当然ですの。座る位置は、はじめから実験の対象ではありませんもの。統計で扱いようがありませんわ。
つまり、ただの逸話ですのよ。
……妙な逸話ですけれど。
そして、こういうことは、前にもありましたのって。
何十年も前、有名な体外離脱の実践者が、同じように隠された的を外しましたわ。
でも、そのとき——技師の夫が部屋の外に立っていたことを、言い当てましたのよ。会ったこともない相手ですのに。
研究者は、こう書き残しましたわ。休憩中に、その方の声を聞いていた可能性がある、と。
……ですから、そちらも立ち消えになりましたの。
さて。
わたくしが、この話でいちばんぞっとしたのは、そこですのよ。
——訊かれたことは、外しましたのね。
そして、訊かれていないことを、当てましたのよ。
これ、どう考えればよろしいのかしら。
ひとつは、偶然ですわ。二十一人もいれば、誰かが当てずっぽうで合うこともありますでしょう。
もうひとつは……いえ、やめておきましょう。
ただ、わたくしは、こう思いましたの。
もし本当に、どこかへ行っていらしたのだとしたら。
——見たいものを、見ていらしたのですわね。
壁を向いたパソコンの画面より、人のほうが気になりますでしょう。
わたくしでも、そちらを見ますもの。
さて。
こういうお話は、わたくしの住んでいたところでは、あまり珍しくありませんでしたのよ。
体から離れる、ということについては、詳しい方が何人もおりましたわ。
フワンテの子と、遠くまで行ったこともありますの。あの子は、いろいろなところへ連れていってくれますのよ。
……ええ、戻ってまいりましたわ。ちゃんと。
あのとき見たものを、うまく言葉にできませんの。訊かれても、たぶん答えられませんわ。
でも、あの子がどこに浮かんでいたかは、はっきり覚えておりますのよ。
……そういうものかもしれませんわね。
課題は覚えていないのに、そばにいた者のことは覚えている。
さて、そろそろ充電をいたしますわ。
研究の中心にいらした方が、こうおっしゃっておりましたの。
この研究が本当に問うているのは、今わたくしたちが持っている意識についての理解が、どこまでを説明できるのか、ということだ、と。
……そして、その答えは、まだ出ておりませんわ。
出ていない、と正直に書いてあるのが、いちばんよろしいですわね。
Scientists Tried to Prove Out-of-Body Experiences Are Real. Here’s What Happened.