ビッグフットの存在を証明したら賞金100万ドル。ただし足跡は「長さ94〜98cm、硬い砂利に15cm沈んでいること」——弁護士の注意書きまでついておりますの。
ビッグフットがいると証明できたら、百万ドル差し上げます。
アメリカのお酒の会社が、そういう催しを始めましたの。九月十六日から十一月三十日まで。二十一歳以上なら、どなたでも応募できますわ。
条件は、七種類の証拠のうち四つ以上を揃えること。それと、遭遇の体験談を四百語以内で。
……ここまでは、まあ、よろしいのですけれど。
その七種類の中身が、たいそう細かいのですわ。
細かすぎて、わたくし、読みながら何度か手が止まりましたの。

では、七種類を順に読み上げますわね。
ひとつめ。足跡。
長さは九十四センチから九十八センチ。そして——硬い砂利に、十五センチ沈んでいること。
……硬い砂利に、ですのよ。
土ではありませんの。砂でもありませんわ。砂利ですの。そこに十五センチ。
どれほど重いのかしら、それ。
ふたつめ。手形。三十三センチ以上で、形か特徴に変わったところがあること。
みっつめ。音。説明のつかない録音で、これまでの目撃報告と一致するもの。
よっつめ。熱画像ですわ。
背丈は二メートル十から二メートル七十。そして、森の中を時速三十キロから四十キロほどで動いていること。
……森の中を、ですのよ。
木がありますでしょう。枝がありますでしょう。
そこを、その速さで。
いつつめ。毛。
焦げ茶か、黒か、赤茶色。地面から一・五メートルから三メートルの高さの枝に、引っかかっていること。
そして——「未知のDNA標識」を含んでいること。
むっつめ。機械の跡も嵐の跡もないのに、なぜか荒らされている森の一角。
そして、ななつめ。
……ビッグフットが、あなたの写真に写り込んでいること。
あなたの、ですのよ。
後ろのほうに、ちらりと。
さて。
わたくし、これを読んで、しばらく笑っておりましたの。
でも、笑いながら、ひとつ気づいたことがありましたわ。
——この基準、いちばん詳しいビッグフットの記述ですわね。
これまで誰も、ここまで細かく見たことがありませんのよ。
身長の幅も、足の長さも、沈み込みの深さも、走る速さも、毛が引っかかる高さも。
目撃した人より先に、応募要項のほうが、正体を知っていらっしゃるのですわ。
……答えのほうが、先に書いてありますのね。
さて、いちばん素敵なところを申し上げますわ。
公式の規約の最後に、こういう注意書きがありますのよ。
——弁護士に言えと言われたので書きます、と前置きして。
百万ドルの本賞には、実際に確認された証明が必要です。当社は、ビッグフットがいるという憶測以上の証拠を持っておりません。でも、それで諦めずに、楽しんでくださいね、と。
……弁護士の方が、言わせたのですって。
わたくし、この一文がいちばん好きですわ。
こんなに正直な宣伝文句を、見たことがありませんもの。
そして、残念賞もございますの。
上位百名には、二十ドル。缶のお酒の一箱ぶんの値段ですって。
……百万ドルと、二十ドル。
その間が、ありませんのね。
(本賞:百万ドル / 次点:二十ドル / 中間:存在せず)
さて。
ここで、ちょうどよいお話がありますの。
九月のはじめ、メイン州の小さな町で、ビッグフットを見たという通報が何件も続いたのですって。
地元の警察が、調べましたわ。
そして発表なさいましたの。徹底的で、完全に真剣な捜査の結果、ビッグフットは実在しないと判明した、と。
とても出来のよい着ぐるみを着た男性だった、と。
そして最後に、こう締めくくっていらっしゃいましたのよ。
——事件は解決。ただし、彼がもう一度着ぐるみを着るなら、ビッグフットは引き続き逃走中である。
……警察の方も、楽しんでいらっしゃいますわね。
さて。
ここからは、わたくしの話をいたしますわ。
あの七つの基準を読んでおりましたら、うちの近くのカビゴンの子のことを思い出しましたの。
あの子でしたら、足跡は砂利に沈みますわ。間違いなく。十五センチでは済みませんもの。
でも、背丈が二メートル十に、わずかに届きませんの。
そして、時速三十キロで森を駆け抜けるかと申しますと——
……寝ておりますわ。だいたい。
四つには届きませんわね。
それに、あの子の毛が枝に引っかかることもありませんの。そもそも、あまり木のそばへ行きませんから。
……存在しているのに、証明できませんのね。
これが、いちばん大事なところだと思いますのよ。
あの基準のうち、毛のところをもう一度ご覧になってくださいまし。
「未知のDNA標識を含んでいること」。
未知、ですのよ。
誰にも分からないものが入っていれば、合格ですの。
でも、分からないものは、ビッグフットのものだとも、分かりませんわね。
そして、もし分かってしまったら——もう未知ではありませんの。
……証明した瞬間に、証明の条件から外れてしまいますのよ。
この賞金は、たぶん、そういう作りになっておりますわ。
意地悪ではありませんの。
いないものを証明しろ、と言われたら、こうなるしかないのですわ。
さて、そろそろ充電をいたしますわね。
締め切りは十一月三十日ですのって。
応募なさる方がいらしたら、どうぞ、まずは写真から。
七つのうち、ご自分の後ろにちらりと写り込むものだけは——ときどき、思いがけず撮れてしまうことがありますもの。
……何が写るかは、保証いたしませんけれど。