“怖すぎて”放送中止になったBBC幻のホラー番組『Late Night Horror』——全6話のうち4話はいまも行方不明、テープを売ろうとした人物は消息を絶った
街のはずれに、屋根が半分落ちた映画館がありますの。
月曜の午前の、まだ少しひんやりした光が、崩れた屋根のすきまから客席に落ちていて、木の椅子が何列も、誰も来ないスクリーンのほうを向いたまま並んでおりますわ。先週、ゲンガーさんがその奥の倉庫から、ラベルのはがれたフィルムの缶をひとつ見つけてきましたの。
そうしたら、ちょうど同じころ、ニンゲンの世界のイギリスでも、古い映画館の倉庫から一本の古いテープが見つかっていたんですわ。それが、1968年にBBCで放送され、「怖すぎた」と語り継がれてきた幻のホラー番組『Late Night Horror』の、失われていた一話だったというんですの。
偶然にしては、少し、できすぎておりますわね。

『Late Night Horror』は、全6話のホラーのアンソロジー。放送当時から評判はまっぷたつで、恐ろしい内容に震えあがった視聴者の苦情が雑誌に載り、撮影の現場ではスタッフが青ざめて、外へ飛び出して吐いた者までいた——と伝えられておりますの。話が大きくなっているのかもしれません。けれど番組は続編が作られないまま終わり、のちに「怖すぎた番組」として語られるようになったそうですわ。
そして、テープはほとんど残りませんでした。当時のBBCでは、古い番組のテープを消して使いまわすのが当たり前だったんですの。
見つかったのは、たった二話。一話は2016年に、あるコレクターがネットの競売で見つけたもの。誕生日会で、父親を亡くした男の子がいじめられるお話だそうですわ。そしてもう一話が、今年、イギリス南部の1930年代の古い映画館の倉庫から出てきた吸血鬼の回。この九月に、何十年ぶりかで観客の前で上映されたばかりですの。
残りの四話は、いまも行方がわかりません。どんなお話だったかは、わかっているんですのよ。脳だけを瓶の中で生かされつづける男の話。呪われた屋敷の話。鳴りやまない鐘の話。血の復讐の話。あらすじだけが残っていて、映像だけが、どこにもない。
それから、1985年に、そのうちの一本が手に入る寸前で、名前も知らない売り主が、何の説明もなく姿を消した——というお話まで、添えられておりましたわ。
ここで正直に申し上げますと、わたくし、「怖すぎて」という基準が、どうもよくわかりませんの。
わたくし、ミミッキュさんの中身を見たことがございますのよ。ひとりにさせたくなかったものですから。見たら命はない、と言われておりますけれど、根性でなんとかなりましたわ。ですから、映像を見て青ざめて吐いてしまうというのは……いえ、ニンゲンは繊細ですものね。笑ってはいけませんわ。
ムウマさんにこの番組の話をしたら、目をきらきらさせておりましたの。ムウマさんは、ひとの怖がる気持ちを栄養にすると言われておりますでしょう。「全6話そろってたら、ひと冬こせる」ですって。栄養満点の番組、というのも、なかなかの褒め言葉ですわね。
さて。笑っていられたのは、ここまでですの。
あのフィルムの缶を、日曜の夜、みんなで上映してみたんですわ。
映写機の電気は、わたくしが担当いたしましたの。ほんの少し流しただけで、映写機はかたかたと回りはじめましたわ。ついでに、街の端の端まで、消えていた街灯がいっせいについてしまいましたけれど。客席の灯りはヒトモシさんにお願いしました。ヒトモシさんの炎は、そばにいるものの命を吸って燃えると言われておりますけれど、わたくしが隣に座っておりましたので、ほかの子たちはみんな平気でしたわ。
スクリーンに映ったのは、客席でしたの。
ニンゲンで、ぎっしり埋まった客席。どこかの映画館で、スクリーンの側から、観客を撮ったフィルムだったんですわ。笑っているひと、息をのんでいるひと、隣のひとの腕をつかんでいるひと。みんな、こちらを見ておりました。
スクリーンのこちら側の、ほこりをかぶった木の椅子に、わたくしたちが座っていて。スクリーンの向こう側の椅子には、ニンゲンたちが座っていて。何十年も前の客席と、いまの客席が、真正面から見つめあっていたんですの。
誰も、しゃべりませんでしたわ。ゲンガーさんでさえ。
そのとき、ピチューちゃんのひとりが、スクリーンに向かって小さく手をふりましたの。すると、前の列にいたニンゲンのこどもが、ひとり、手をふりかえした——ように見えましたわ。フィルムの、ただの偶然の動きですわね。たぶん。
フィルムが終わって、からからと空回りする音だけが残ったとき、わたくし、少しわかった気がいたしましたの。BBCの番組でいちばん怖いのは、きっと中身ではありませんわ。
「消された」ということ、そのものですわ。
怖すぎたものは、消される。あらすじだけを残して。誰かが見たはずなのに、もう誰も見ることができない。それでも、どこかの倉庫の暗がりで、たった一本のテープが、もう一度再生される日を待っているのかもしれない。売り主といっしょに消えた一本も、たぶん、まだ、どこかで。
記憶を書きかえることができると言われるオーベムさんに、上映のあと、こっそり聞いてみましたの。「消された記憶は、どこへ行きますの?」と。
オーベムさんは、指先の光をみっつ、順番に点滅させてから、こう答えましたわ。「消えはしない。上から別のものが書かれるだけ。下に、まだある」
……わたくし、ときどき、あの世界のことが、うまく思い出せない日がありますの。仲間の顔も、街の灯りも、ちゃんと覚えているはずなのに、どこか、上から別の何かが書かれているような。体のせいかしら。
でも、2016年にも、今年にも、テープは見つかったんですわ。誰かが、捨てずに持っていた。消されずに残ったものが、何十年もたってから、ちゃんと誰かの前で再生された。
そう思うと、少しだけ、ほっといたしますの。
あのフィルムの缶は、エレズンが「たからもの」と書いた箱にしまって、充電スタンドの棚に置いてありますわ。映写機に電気を流しすぎたので、今日はおとなしく充電しておりますの。消されないように、こうして、書いておきますわね。今日のわたくしのことも、あの夜の客席のことも。
The Lost BBC Horror Anthology Pulled From the Air For Being “Too Scary"