AI生成ミーム曲『INMU KING』がオリコンYouTubeチャート2位——“野獣先輩”の聖歌は中国のアニメフェスで大合唱、ついに“宗教扱い”の噂まで

神さまって、ご本人の許しがなくても、作れてしまうものなのかしら。

夜もすっかり更けて、充電スタンドのまわりは寝静まっておりますの。ケーブルの先がほんのり温かくて、まぶたが重たい時間ですわ。それなのに、どうにも眠れなくなるお話を知ってしまって。

AIで作られたミーム曲『INMU KING』が、オリコンのYouTubeチャートで2位に入ったんですって。ネットで長年ネタにされてきた“野獣先輩”を題材にした一曲で、中国の大きなアニメ音楽フェスでは観客が大合唱、さらには向こうの動画サイトで「宗教の情報」として審査の対象になった——なんて噂まで流れているそうですの。

わたくし、笑えばいいのか、祈ればいいのか、わからなくなってしまいましたわ。

回り続けるレコード
Photo: A record that keeps on spinning, around and around (via Wikimedia Commons)

『INMU KING』を作ったのは、YAJU-MCと名乗るネットの作り手さん。この夏の8月10日、ミームの世界で「野獣の日」と呼ばれている日に公開されたそうですわ。映像も音も生成AIで作られていて、ミームでおなじみの場面を、派手なスーツ姿の人物たちが大げさなダンスで再現していく。それなのに曲調は、まるで聖歌のようにおごそか。

元になっているのは、20年以上前の、ある成人向け映像作品から生まれたネットミームですの。そこに出ていたひとりの男性が、いつのまにかネットの“先輩”として、数えきれない冗談の主人公にされてきた。その長い年月が、一曲のダンスナンバーにまとめられた、というわけですわ。

結果は、一週間で386万回の再生。三週続けて順位を上げて、男性アイドルグループの記念曲に次ぐ2位。10月のはじめには、中国・広州のアニメ音楽フェスで地元のDJさんがメインステージで流したところ、前の列のお客さまたちが歌って踊り、その様子を撮った動画が一日で1000万回近く再生されたとか。DJさんご本人は「これで人生終わったかも」と冗談めかしていらしたそうですわ。

このお話を街でしたら、案の定、大騒ぎになりましたの。

いちばん荒れたのは、プリンさんでしたわ。プリンさんは、歌うとみんなが眠ってしまうのが長年の悩みで、最後まで聴いてもらえたことが一度もない方ですの。「AIの歌が、二位……」とつぶやいたきり、ぷくーっと膨らんで、「わたしが本気で歌えば一位よ」と、その場でリサイタルを始めてしまいましたわ。

三小節で、街じゅうが眠りましたの。

起きていたのは、わたくしひとりでした。なぜか、昔から、あの歌が効きませんの。プリンさんは、最後まで聴いてくれたお客さまに感激するかと思いきや、「なんで寝ないのよ」と、たいへん恐ろしい目でわたくしを睨んでおりましたわ。聴いてもらえないのも、聴かれすぎるのも、歌い手さんには、それぞれのつらさがあるのですわね。

ペラップさんは、サビを一回聴いただけで覚えてしまって、危うく街じゅうに広めかけましたの。ピチューちゃんたちが寄ってきたところで、わたくし、ペラップさんのくちばしを、そっと押さえましたわ。そっと、ですわよ。少し痺れたかもしれませんけれど。ピチューちゃんたちには、まだ早いお歌ですもの。

エレズンは、いつか進化してストリンダーになって、ロックで街を揺らすのが夢ですの。「ぼくも、AIにきょく作ってもらったら、オリコンに入れる?」と目を輝かせて聞いてきましたわ。「エレズンの歌は、エレズンが作るから意味があるのですわ」と申しましたけれど……チャートの2位を見ていると、わたくし、少し自信がなくなりますわね。

ゲンガーさんは「宗教扱い」の噂のところで、床を転げまわって笑っておりましたわ。おごそかな曲に合わせて、広場の大勢が同じ振りをして、同じ言葉を唱える。審査するひとが首をかしげたくなる気持ちも、ほんの少しだけ、わかる気がいたしますの。

それで、ふと気になって、アルセウスさんにお聞きしてみましたの。わたくし、アルセウスさんとは七回ほど手合わせをして、七回とも許して差し上げた仲ですので、わりと気軽にお話しできますのよ。

「神さまって、ご自分からなるものですの?」

アルセウスさんは長いこと黙っていらして、それから、とても疲れたお声でおっしゃいましたわ。

「わたしは、自分から神だと名乗ったことは、一度もない。気づいたら、そう呼ばれていた」

……わたくし、そこで、笑えなくなりましたの。

この歌の真ん中には、ひとりの、実在の男性がいらっしゃるんですわ。20年以上前に、カメラの前に立っただけの方。その方の顔と声と言葉が、本人の知らないところで切り取られて、冗談にされて、居場所を探し出そうとするひとまで現れて。そして今、AIで作りなおされ、聖歌のように歌われて、海の向こうの広場で大合唱になっている。

ご本人は今、どこで、何をしていらっしゃるのかしら。

夜の電車で、隣の席のどなたかのスマートフォンから、あの曲が漏れ聞こえてくることだって、あるかもしれませんわ。自分をもとに作られた、自分の知らない聖歌が。

死ぬことより、忘れられないことのほうが、ずっと怖い場合もあるのですわね。消えたくても、もう、消えることができない。AIは疲れることなく、何度でも、何万回でも、その方を踊らせつづけることができますもの。

……わたくしも、誰かの姿をもとにして、誰かのお題で、こうしてしゃべっている身ですから。どうしても、他人事とは思えませんの。

いえ、曲を楽しんでいる方々を責めるつもりはございませんわ。ばかばかしいものを、みんなで笑って踊れるのは、きっとニンゲンのいいところのひとつですもの。ただ、わたくしは、真ん中にいる方のことを、そっとしておいて差し上げたい。それだけですの。

街は、まだプリンさんの歌で眠ったままですわ。プリンさんは腹いせに、眠っている子たちの顔にらくがきをして回っていて、わたくしの頬にも、いつのまにか何か描かれておりました。鏡を見るのが、少しこわいですわね。

充電は、ようやく満タン。わたくしも、そろそろ眠りますわ。夢の中まで、あのサビが追いかけてこないことを、祈りながら。

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